【 執務空間 その2 ユビキタス化 】 [鉄鋼]
米国であれば、管理職なら個室を与えられるのが普通です。個室が与えられない一般職もL字型の広い机を与えられ、隣席とは間仕切りで区切られ、自分の空間が持て、そしてそれは十分に広いのです。欧州もおおむねそれに近い環境です。
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一方、日本では、狭い机が1つだけ、それも管理職以外は片袖(つまり引き出しが片方にしかない)机です。しかもその机の上にはパソコンが乗り、足元には書類のラックが置かれ、自分の机と言いながら、足を机の下に伸ばせない有様です。
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ノンテリトリアルオフィスが苦肉の策であるのは理解しますが、これ以上、事務所を狭くしてどうするのか?と、私は首を傾げました。
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しかし、時代は私の発想よりはるかに速く動いていました。事務所など要らないという考え方が、世の中を席捲しています。
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当時、新しい概念として注目されたのはユビキタス構想です。東大の坂村健教授などが提唱したもので、これはいつどこにいても、どんな環境でも、同じ情報が得られ、同じ業務を遂行し、同じ情報を発信できる・・という「どこでもオフィス」的発想です。その前提となるのは、インターネットと、ポータブルのデバイス(ノートパソコンやタブレット端末)、そして高速で大容量かつ安全な無線通信です。
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ノートブック(ラップトップPC)は、アラン・ケイが提唱したダイナブック構想(つまり、何時でもどこでも使えるコンピューター)を追及したものですが、単独ではダイナブック構想は実現せず、無線LANやWi-Fi、Bluetoothが必要でした。もちろんインターネットも前提です。
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日本の場合、本当にユビキタスが実現したのは、2010年頃ではないか?と思います。
そうなると、ホワイトカラーのサラリーマンは、本当に事務所が要らなくなりました。
以前から、全国を飛び回り、空港のラウンジを執務空間にして通信し、自分の会社には滅多にいない・・という経営者やビジネスマンはいましたが、少数派でした。
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しかし、今はごく普通のサラリーマンでも会社の事務所で仕事をする必要はありません。パソコンと電話(通信手段)さえあれば、どこでも可能なのです。
かつは、小規模事業者やベンチャー企業のものとされていたSOHO(Small Office, Home Office)が大企業でも採用される時代が来ます。
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外回りの営業マンは最初から会社の事務所にいる必要はありません。お客様への直行、直帰でいいのです。内勤の人達も、ユビキタスで在宅勤務が可能になります。おそらくホワイトカラーの業務の内、半分くらいは会社以外の場所でこなせるようになるでしょう。しかし、現実の日本ではそれほど勤務スタイルは変化していません。幾つかの問題があるからです。
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実は、ホワイトカラーの仕事の相当部分は、人と会ってコミュニケーションすることです。社外に出て、お客と商談することもありますし、社内の会議もあります。しかし、事務所がなくなったり狭くなれば、どこで会えばいいのか?となります。
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客先を訪問したら、相手の人もユビキタスで事務所におらず、会えないというのでも困ります。TV電話やTV会議があるじゃないか・・といっても、面と向かって話すのとは、得られる情報量に差があります。営業は、何といっても、顔を見せて、話を聞かなくては仕事にならないのです
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もうひとつ大事なことは、会社で仕事をする場合に必要な、仲間意識というか「一体感」の醸成です。男性も女性も仕事用のスーツを着て、同じ部屋で仕事をすることが大事なのです。上司は朝礼や会話を通じて部下の健康状態などを観察・把握します。そして人々は、職場の「空気」を感じながら、ある種の仲間意識を持って仕事を遂行します。
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「弱い存在は群れる」と以前のブログで申し上げましたが、日本のサラリーマンも弱い存在であり、仲間から外れることは不安であり、みんな一緒にいないとこわいのです。
だから、大雪で交通機関が麻痺するかも知れない日でも、社畜(大嫌いな言葉です)と揶揄されても皆さん出勤するのです。
https://rocketnews24.com/2018/01/22/1010202/
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なぜ、日本人のホワイトカラーの職場は個室でなくて大部屋なのか?という質問には、上記の事情が回答になります。
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でも時代は否応なしに動いています。従来の勤務形態がいいのか?従来のデスクワークが良いのか、見直しが必要です。
ユビキタスの延長上には、在宅勤務やWork Life Balanceの変化が見通せます。
それについては、次号で報告いたします。
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