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【 神戸製鋼について思うこと その6 】 [鉄鋼]

【 神戸製鋼について思うこと その6 】

 

神戸製鋼の線材条鋼部門は、JFEが欲しがるでしょう。JFEはJFE条鋼という電炉の子会社を持ちますが、新日鉄住金に比べると非力なのです。 薄板の超ハイテンの存在は新日鉄住金にとって目の上のたんこぶでしたから、新日鉄が欲しがるでしょう。

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問題は建機です。コマツ、日立、住友建機が引き取るか、あるいは中国の会社が買うかも知れません。コベルコ建機は、パワーショベルについては、広島県の沼田の他、中国の四川省成都と浙江省杭州やインドに工場がありますが、成都の工場は狭く老朽化しているうえに、沿海部と離れすぎています。同社は新しい杭州工場へのシフトを急いでいますが、ちょっとバランスが悪い状態です。 日本の建機メーカーは殆ど中国国内に工場を持っていますが、複数を持つのは最大手のコマツだけです。 長い建機不況のトンネルを抜けて、黒字になっていますが、新たな中国工場が必要な状況ではありません。 日本のパワーショベルメーカーにはコベルコの中国の工場の魅力はあまり無いはずです。そうなれば、中国の会社買うかも知れません。白物家電のサンヨーの時のように。

クローラークレーンの工場は兵庫県にありますが、これを引き取るのは日立住友クレーンしかないでしょう。あるいはDemagか、LiebHerrか・・。

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非鉄については若干事情が複雑です。本稿では詳しくは述べませんが、神戸製鋼のアルミを欲しがる会社はたくさんあるでしょう。 チタン事業は新日鉄住金と一緒になるかも知れません。

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最大のポイントはIPP(つまり石炭火力発電を用いた独立の電力卸事業)です。 これは神戸製鋼本体が手放さすに操業を続けるでしょう。 買い手の候補となる関西電力は、原発の再稼働の方に関心があり、石炭火力の発電所を買うことはないでしょう。

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かつて鉄鋼不況で苦しんだ時、神戸製鋼の社長は「鉄はさっぱりだが、発電事業は確実に儲かる。だからこれを推進する」とマスコミに語りました。

これを聞いた時、私は複雑な思いがしました。

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・IPPは完全な装置産業です。超超臨界圧の石炭火力発電所の設備さえ作れば、後は、企業努力は不要で、経営者は眠っていても安定した収入が見込めます。

毎日、七転八倒して苦しみながら製鉄所を運営している鉄鋼から見れば、そんな楽な事業で鉄鋼より儲けが多いというのはどういうことだ?と言いたくなります。

・販売先は関西電力などの電力会社ですが、卸の電力を買って、それでも採算が合うということは、関西電力などの日本の電気代は不当に高いのではないか?電力会社は安価発電のための企業努力をしているのか?と言いたくなります。

・そもそも地球温暖化の観点から、CO2排出量が最も多いとされる石炭火力を推進するということは国策としてどうなのか?もっと安価でCO2を出さない方法(例えば原子力発電など)を模索すべきではないのか?

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実際には、日本の石炭火力発電技術は非常に優れており、中国などの旧式の火力発電と一緒にしてはいけないのですが、CO2が発生するのは避けられません。

そしてIPPこそ救世主のように語る神戸製鋼の社長の記事を読んで、鉄鋼事業が侮辱されたように感じたのはオヒョウだけではないはずです。

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今、記者会見で涙を流している川崎社長は、そのIPP事業を推進して評価された人です。製鉄会社だけれど、高炉に見切りをつけ、神戸製鉄所の高炉の火を消して、跡地に石炭火力発電所を作ることを決めた人です。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO2276663026102017TJ1000/

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171013-00000072-reut-bus_all

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阪神淡路大震災の後、社員や協力会社の人達が不眠不休で復旧させたあの高炉を、お払い箱にした人です。ちょうどその高炉は、不祥事騒動のさなか1031日に火を消しました。 (高炉としてはそこそこ長寿命でしたが)。

http://www.asahi.com/articles/ASKB002YJKBZPLFA00W.html

今の時代、高炉を製鉄所のシンボルとして火を消してはならない・・と考える人は少ないでしょう。しかし鉄鋼事業を儲からないものとして切り捨てようとした川崎社長に同情する人は少ないかも知れません。

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川崎さんには一言申し上げたい。

昔のブログにも書きましたが、人の上に立つリーダーは不用意に涙を流してはいけません。

彼の涙が、部下から情報が上がらなかったという裏切りに対するくやしさの涙なのか、裸の王様だった自分の無能を恥じる慚愧の涙なのか、あるいは会社を窮地に至らしめた後悔の涙なのか、そこは分かりません。

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でもね、今はその涙を流す時ではありません。

前のブログにも書きましたが、鉄鋼メーカーは経営者がよほど愚かでなければ潰れません。神戸製鋼は潰れないでしょうし、ここは頑張って、経営者として自分は愚かではないと証明すべきです。しばらくは神戸製鋼の信用の回復と経営の立て直しに、奮闘すべき時です。

震災直後の社員のように、今度は経営者が不眠不休で頑張らねばなりません。

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川崎のご隠居が言っていましたが、メーカーでは安全と公害防止と品質保証が、最も重要な項目なのに、実際にはおろそかにされます。 それはこの3項目は金を稼がず、力を入れても、会社は儲からないからです。 しかし、それらは、地域社会との約束であり、顧客や社員との契約でもあります。それをないがしろにすれば、今回のように経営にかかわる大問題になります。

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だからこそ中間管理職ではなく、経営トップ自らが旗を振り陣頭指揮をとらなければなりません。

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では何時まで涙を我慢すべきか?それは神戸製鋼が信用を取り戻し、経営が順調になった時まで・・と言いたいところですが、実際には、そうは行きません。

多分、川崎社長は墓場までこの涙を我慢して持っていくべきなのでしょう。

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普通、高炉を廃止した製造所では、高炉のベルを用いた記念碑を作ります。(最近はベルレス高炉も多いので、ベルを使えない場合もありますが)。

神戸製鉄所の跡地にも記念碑はできるでしょうが、その碑文は、川崎さんの後任の社長が書くのでしょう。 多分

 

「神戸製鋼は、この高炉と同時に、さらに多くのものを失い、その被害は阪神淡路大震災のそれを上回るものであったが、今ここに電力卸の発電所として復活した」

 

とでも書くのでしょうかね。


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品室義宗

色々と多岐にわたる考察たいへん教えられてありがとうございます。
その後納入された製品がメーカー側の検査ですべて問題ないという報道が、事実としたらまた別に考えられることがあるのではないでしょうか?
第一に「過剰品質の問題」
素材メーカー側とユーザー側がお互いの作用の結果生みだしたもの。
素材メーカー「何とか他社と違いをだしたい」
ユーザー側「意味はないのに自社の言い分が通ったような勘違い」
第二に「2番手以下の弱み」
ユーザーより「他社はこのスペックで納めている」と言われたら、2番手以下は実力がなくても受け入れざるを得ない。 またユーザーにそのスペックを緩める程の説得性を持たない

結局、業界で過剰品質を作っていることになる。
残念なのは、この会社には以下の点がなかったことです。
1)社内で「正論」を通す人間がいなかった。
 (社内の空気を変える人物がいなかった)
2)何とか他社を追い越す提案が少なかった。
 (規格外れを出す弱い部分に見切りをつけ、強みを伸ばす方向に  持っていけなかった)
by 品室義宗 (2017-11-16 23:18) 

笑うオヒョウ

品室義宗様 コメントありがとうございます。
私も、あなた様と全く同じ意見です。
私が勤務しました会社も業界の一番手ではなく、先を行く会社の背中を見ながら走る立場だったので、神戸製鋼の人達の気持ちも分かります。なんとか、自社独自のものを開発し、他社と差別化し、追いつき追い抜こうと考える人はいるのですが、金属素材の世界は、エレクトロニクスのような画期的な新技術や新製品はなかなか登場しない地味な世界です。志ある人もある種の屈託を抱えながら仕事をする・・そんな世界でした。またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2017-11-17 07:58) 

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