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【 金沢文庫 その4 】 [雑学]

【 金沢文庫 その4 】

 

「金沢文庫に、鳥獣戯画のコピーはありますか?」という私の質問に、彼女は「ありません。ご承知の通り、鳥獣戯画のオリジナルは京都高山寺ですから、ここでは見られません。 ひょっとしたら、50年前に何かの催しで、鳥獣戯画を借り受けて、金沢文庫で公開した可能性はありますね」

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そこから、学芸員の話はさらに広がります。

「博物館の催しでは、多くのお客様に来て頂く為に、話題性があったり人気のある作品を借りてきて展示するという事がよくあるのです。 特にビジュアル系の絵巻物とか仏像類にはお客様が集まります」。

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この考えはよく理解できます。古文書や古い経典は漢字ばかりが並び、一般者にはまず読めません。したがって仮に有名人物が書いた貴重な文献であってもなかなか興味は湧かないのです。でも、絵巻物などの絵はそうではありません。誰もがその芸術性を感じることができます。

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「すると絵巻物などを展示するイベントを開くと、お客さんが集まるのですね?」

「そうです。でも逆に特別展でにぎわう会場を避けて常設展の会場を行くと、掘り出しものに出会うことがあるのですよ。 特別展示会は、他人と逆の行動を取るといいかも知れませんね。 私は、先日京都の国立博物館を訪問した時、特別展を避けて、常設展の展示館に行き、ゆっくりと真珠庵本の「百鬼夜行図」を見る事ができました」

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百鬼夜行図は、江戸時代に多く描かれ、全国にいろいろな作品がありますが、その本家とされるのが大徳寺真珠庵の「真珠庵本」で、室町時代に描かれたとされる、特別な存在だそうです。

「なんといっても、絵巻物の最後には柊(ひいらぎ)とイワシの頭も登場しましたからね」女性の学芸員は、その絵巻物を見ることができた幸運を強調します。

しかし恥ずかしながら、「百鬼夜行」について、私は全く無知なのです。

(困った。話題を変えなくては・・)。

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「博物館としては、いろいろな催しを開いて、来館者の数を少しでも増やしたいところでしょうから、今ならさしずめ若い女性に人気のある天平期の仏像などの展示会を開けば、人は集まるでしょうね?」とオヒョウ。

「いえ、それを考えるなら、今なら刀剣類ですね。もう仏像ガールのブームは去り、刀(かたな)ガールの時代ですよ」と学芸員。

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(でも、日本刀を評価するには単なる審美眼の他に、最小限の冶金・金属学の知識が必要です。昨今の刀ガールの知識は、文字通り「付け焼刃」だろうし、そのブームも長くはないだろうな・・)と考えたところで、学芸員は、

「でもね、当館はそのような客寄せパンダを使って、人を集める興行的な考えは持っておりません。一時のブームに乗っかるような、発想はありません。 じっくりと資料を閲覧したい方のために資料を展示しています」 とピシャリと言われてしまいました。

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やれやれ

白氏文集の金沢文庫本の資料は無いと聞き、少し落胆した私は、受付のカウンターを離れて、2階の図書室に向かいました。

図書室には、司書がひとり、閲覧者もひとりしかおらず、静まり返っています。

書架を見れば、仏教関係の書籍や雑誌、そして漢籍に関する資料も非常に充実しています。

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その中に、なんと明治書院の「新釈漢文大系’97」が全冊揃っているではないですか。これは漢文を学ぼうとする人には貴重な書籍です。その中に岡村繁先生らがまとめられた白氏文集 全12巻が含まれています。

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白氏文集のオリジナルが全76巻なのに、解説本が全12巻とは少し奇異な感じもしますが、初学者であるオヒョウには、この解説本がありがたい存在です。いきなり金沢文庫本に挑戦するより、こちらを熟読する方がよほど合理的だな・・と気づきます。

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それにしても、この「新釈漢文大系」を眺めていて思います。白氏文集だけで、膨大な数の研究者が一生をかけて調べ、考察しているのだなぁ・・と、改めて先人の偉大さに気付きます。

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理科系の学校を出て、漢文も読めないアマチュアの私がこれから読むとしても、ホンの上っ面をなぞるだけで、私独自の新しい解釈も、新しい事実も得られないだろうな・・とちょっと寂しくなります。

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(まあ、それは仕方ないとして、これから、時々、時間を見つけて金沢文庫に来て、白氏文集の勉強をすることにしよう・・・・)

図書室を出て、そんなことを考えながら、私は金沢文庫駅に向かう道を歩き出しました。

 

以下、次号金沢文庫2.png 

同じ金沢文庫本でも、宋版南史の方は活字印刷があったようです。これは、金沢文庫の入館チケットです。


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