SSブログ

【 大慶油田 】 [中国]

【 大慶油田 】

 

かわぐちかいじの漫画「ジパング」に面白い場面が登場します。この漫画は自衛隊の最新鋭のイージス艦が太平洋戦争中にタイムスリップするという荒唐無稽な作品ですが、部分的に興味深い内容があります。例えば、イージス艦の図書室で、戦後の歴史を学んだ旧日本軍の海軍士官が、中国東北部(旧満州)で発見された大慶油田のことを知って、悔しがる場面が登場します。

・・・・・・

「そうか、満州に大油田があることを知っていたら、(日米の)開戦は避けられたのに・・」。

ご承知の通り、日本はハルノートの要求を受け入れず、さらに米国から石油の輸出を止められて、やむなく真珠湾攻撃に至りました。しかし、当時の日本の年間消費量を上回る産油量が期待できる大慶油田が満州国にあれば、石油の禁輸など痛くも痒くもなかったのです。大慶油田さえ、戦前に見つかっていれば、歴史は変わったのに・・という意見は、説得力があります。

・・・・・・

黒竜江省の大慶油田は、中華人民共和国建国後に、中国が独力で発見し、開発したものです。文化大革命当時、鉱工業の一大成功例として、宣伝に用いられ、「農業は大寨に学べ、工業は大慶に学べ」というスローガンが掲げられました。

・・・・・・

私が学校を出て就職した時、世界の油田で鋼管がどう使われているかを学ぶために、NHKの石油開発の特集番組を見たのですが、そこに中国の大慶油田が登場しました。ナレーションはNHKの勝部アナウンサー(当時)です。

・・・・・・

番組では突発的に噴き出した原油を止めるために、急いでセメントを注入する作業が登場します(もちろんヤラセでしょうが)。セメントの攪拌が間に合わず、思い余った紅衛兵がセメントの攪拌槽に飛び込んで、自分の体でセメント粉と水の攪拌を始めます。強いアルカリが彼の皮膚を刺激しますが、ひるみません。すると、周囲にいた紅衛兵が次々とセメントの攪拌槽に飛び込んで、自分の体でセメントをかき混ぜだしたのです。そうして、セメントの調合ははかどり、原油の噴出は止まり、事故は防がれた・・という話です。

・・・・・・

紅衛兵の英雄的行動のおかげか否かは分かりませんが、一時期、大慶油田は中国経済の発展に大きく寄与しました。経済成長に石油は不可欠ですが、輸入しようにも貧しかった頃の中国には原油代金も大きな負担だったからです。 しかし、大慶油田には大きな問題がありました。

・・・・・・

それは重質油の比率が高く、パラフィンを多く含む・・・、つまり油質が上等でなかったうえに採油も難しかったという問題です。

それぞれの油田で、その埋蔵量と採取可能量と、実際に採取される量には大きな違いがあります。

新しい油田は、自噴しますし、採油にそれほどの難しさはありません。しかし、採油が進むと、圧力も低下し、岩盤の隙間に染み込むように広がった原油を集めて採取する難しさがでてきます。

そこで、リバイタライジングという油田の活性化を行って、再び石油を取り出せるようにします。

具体的には、油井の周囲に高圧で塩水や炭酸ガスを送り込んで、残った石油を油井付近に集め、搾り取れるようにするのです。 これで油田の寿命は倍ぐらいに伸びます。こう書くと簡単なことのようですが、これはハリバートンやシュランベルジェなど、油田操業に独特の経験とノウハウを持つ会社だけが可能な特殊技術です。

・・・・・・

換言すれば、米国など、西側世界の油田だけで高度なリバイタライジングが行われ、旧東側の油田はそうでなかったということです。 旧ソ連を代表する油田だった、第一バクー油田も第二バクー油田も、この技術が無かったために、一説では埋蔵量の半分以下しか採掘できず、短命だったとのことです。 埋蔵量の割には少ない量しか採取できなかったのです。

・・・・・・

そして大慶油田も、その埋蔵量の割に、急激に採油量が減り、中国の石油消費をとても賄えなくなりました。 一方で中国は経済成長とモータリゼーションの進行で、石油の消費量が大幅に増えたのです。 中国は石油輸入大国に名前を連ねることになりました。

・・・・・・

化石燃料全体をみれば、中国は恵まれた国です。 中国には豊富な石炭があり、西域には豊富な天然ガスがあります。(それなのに、東シナ海の日本のEEZの隣接区域で天然ガスを採掘したり、石油資源が予想される尖閣諸島の領有権を主張したり、中国はかなりせこい)。

しかし、石炭と天然ガスは、主に火力発電用で、自動車の燃料にはなりません。やはり石油が必要です。

・・・・・・

20世紀に言われた仮説ですが、もし中国人の所得水準があがって、米国と同じくらいの自動車普及率になり、中国の人々が米国と同じようにガソリンを消費するようになれば、ほんの数年で世界の石油は枯渇し、世界経済は破綻する。 だから、中国は米国ほどには豊になれないし、そうさせてはならない。

・・・・・・

実際はそうではありませんでした。まだ人口当たりの自動車台数では米国に及びませんが、中国は自動車の生産台数も販売台数も世界一です。でも石油は枯渇しません。日本車をはじめ、自動車の燃費もよくなりました。他の産業も省エネが進んでいます。一方、石油資源もそれなりに発見されて、なかなか枯渇には至りません。仮に従来型の油田の埋蔵量が減ってきても、豊富なシェールオイルやタールサンドがあります。

・・・・・・

世界的にみれば石油資源にいくばくかの余裕があるとしても、中国にとっては石油の不足は大問題です。もし、中国が石油を輸入できなくなれば、庶民の暮らしや産業は危機に瀕し、政権は転覆します。だから、中国はインド洋から南シナ海にかけてのシーレーンの確保を急ぎます。シーレーンを守るのは中国の海軍です。

・・・・・・

ジブチに自国の巨大な海軍基地を設け、スリランカの港も勢力下に置き、インド洋をパトロールして、中東から中国の沿海部に来るタンカーを守ろうという訳です。

海路だけではありません。 西域にある大ガス田から沿海部へ天然ガスを運ぶ西気東輸は、完成しましたが、今度は一帯一路と称して、西アジアの石油を運ぶルートの確立に余念がありません。

もはや、中国では石油は自製するものではなく、輸入するものになり、大慶油田の影はどんどん薄くなります。

・・・・・・

そこに、大慶油田の名前が久しぶりに登場しました。中国が北朝鮮に恵んでいる石油が大慶油田から来るのだそうです。

・・・・・・

この油田は、北朝鮮に圧力を掛けたい日本や米国、韓国には迷惑な存在ですが、北朝鮮にとっては命の綱です。今回の水爆実験を受けて、日米韓の3か国は、中国に対して北朝鮮への石油輸出禁止を迫るでしょう。しかし、中国は何等かの見返りが無ければ、絶対に動きません。ひょっとしたら米国は見返りとしてシェールオイルやシェールガスの採掘技術を中国に与えるかも知れません。ちなみに油田のリバイタライジングの技術は既に中国に入っています。

・・・・・・

そうなれば、中国も嫌とは言えず、大慶油田の蛇口を締めて、北朝鮮への供給を止めるかも知れません。 北朝鮮はもはや崩壊に向かうしかありません。戦えば負ける事が自明の戦争ですが、北朝鮮は火ぶたを切るでしょう。 多分戦闘は短期間で終わり、ピョンヤンの金王朝は滅亡することになります。滅亡の間際、金正恩は思うかも知れません。

「ああ、大慶油田さえ我が方にあれば、戦争しなくて済んだのに」。


nice!(2)  コメント(0) 

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。