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【 月三更 】 [俳句]

【 月三更 】

 

先日、弊ブログに「月三更 ばせをの朝の あくびかな」という駄句を載せたところ、

「意味不明」とのお叱りを受けました。

http://halibut.blog.so-net.ne.jp/2017-04-29-1

そこで無粋の極みながら、恥を忍んで私の句を解説させていただきます。

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最初の月三更とは、深夜 丑三つ時に輝く月のことです。正確には満月でなく十三夜の月ですが・・・。この言葉は上杉謙信の「霜は軍営に満ちて秋気清し」で始まる漢詩<九月十三夜陣中作>に登場します。「数行の過雁 月三更」 

https://nippon-kanshibun.net/kenshin01-928fe79d5f98

日本外史に登場したおかげで有名になった詩ですが、もともと北陸地方の人にはなじみがあります。オヒョウが上越市に暮らしていた頃、直江津のK部長のお宅をお邪魔しました。そこには額に入れてこの漢詩が掛けられていました。思わず口に出して読むと、K部長がニヤリとして、「やはりオヒョウさん知っていますね」 同じ北陸人ですが、立場は微妙に違います。直江津の人には、上杉謙信は地元のヒーローです。他方、石川県出身の私には、越後の軍勢に攻め込まれた時の詩なので、どちらかというと被害者の立場です。

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詩の中に登場しますが、「越山併わせ得たり能州の景」というのは、越中(富山)は既に手中に入れた。次は能登(石川県)七尾の畠山氏を倒すところだ・・という話ですから石川県人としては穏やかではありません。それにしても上杉謙信の漢詩は見事です。

武人にしておくのは勿体ないとも思います。戦場で漢詩を詠む腕前では、彼に伍するのは乃木希典ぐらいですが、乃木は戦が全く下手だったのに対し、上杉謙信は戦国時代の武将の中でも最強の存在だった訳で、石川県人であっても一目置かざるを得ません。

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だから、私には俳句の限られた字数の中で、深夜の名月を表せ・・・・と言われたら、月三更しか浮かびませんでした。しかし、本来俳句に漢詩の文言は硬すぎてなじみません。漢詩を取り込んだ俳句といえば、オヒョウの知る範囲でいえば、服部嵐雪の

「沙魚釣るや水村山郭酒旗の風」 同じく与謝蕪村の

「菜の花や水村山酒旗の風」くらいです。

「春なれや水村山郭酒旗の風」というのもありますが、これらは、杜牧の「江南春」そのままです。漢詩をそのまま俳句に放り込んだ乱暴な句ですが、それが許されるのは嵐雪や、蕪村だからです。しかし、全体に俳句が生硬になってしまいます。

それ以外にも漢詩に想を得た・・というかインスピレーションを得た俳句はたくさんありますが、皆苦労しています。 同じく与謝蕪村の「易水にねぶか流るる寒さかな」も漢詩から題をとっていますが、中身は俳句です。

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だから、漢詩の文言を俳句に入れるのは本来タブーなのに、それをしてしまいました。そのため私の句には硬さが残ります。

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次の「ばせを」の意味ですが、これは松尾芭蕉を私なりに読んだものです。彼は揮毫では「はせを」と書いたそうですが、私なりに「は」を濁音にして「ばせを」としました。造語も本来はタブーです。

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最後の「朝のあくびかな」ですが、2重の意味でいけません。既に季語としては月が入っており、これは秋の季語です。一方、朝の眠気は春の季語です。よく分かりませんが、「春眠暁を覚えず」から来ているのかも知れません。異なる季節の季語が同居してしまいました。

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そして最後はストーリー性の問題です。

夜更かししたからさぞかし朝は眠たく、欠伸のひとつもしただろう・・・・という滑稽味のある推測は、川柳の味わいに通じるもので、俳句にはなじみません。

歴史を読み込んだ川柳(史川)には、いろいろあります。

「安珍は はした銭など 落っことし」

  娘道成寺で、急いで清姫から逃げる安珍は、焦って走ったから小銭ぐらいは袂から落として、しかも拾う余裕はなかっただろう。

 

「外科に行く みちみち 犬に吠えられる」

  これは徒然草にある話で仁和寺の和尚が戯れに鼎の中に頭を突っ込んで取れなくなった時の話で、奇怪な姿で医者へ行こうとすれば、驚いた犬に吠えられたのでは?

 

「三郎は 筆で毛虫を 払いのけ」

  児島三郎高徳が隠岐の島に配流となった後醍醐天皇を美作の宿駅で奪還せんとして果たせず、桜の樹の幹に「天勾践をむなしゅうすること莫れ」と墨書した時、おりしも初夏で、桜の樹には毛虫がたくさん付いていただろうから毛虫を払い除けながら字を書いたはずだ・・という頓智です。

 

文章にすると、どうしてもつまらなくなってしまいますが、優れた川柳はひとひねりもふたひねりもしています。それに比べて、深夜に起こされたから朝は眠たかろう・・というのでは、当たり前すぎます。

つまり川柳としてもひねりが足りないのですが、俳句の味わいからも遠いのです。

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以上を以って、自作の句を駄句としたのですが、芭蕉記念館からの帰りの電車の中(約1時間)で作ったインスタント作品ですから、どうかご容赦のほどをお願いしたいのです。

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ああ、自分の句を説明するために、ながながと書いてしまいました。恥ずべきことです。「雄弁は銀、沈黙は金」と言いますが、私に言わせれば「能弁は銀、多弁は鉄」です。

私のブログは、多弁に過ぎます。

 

「字余りは、俳句にブログに わが人生」


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