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【 ホロヴィッツ  その3 Rugby校 】 [イギリス]

【 ホロヴィッツ  その3 Rugby校 】

私が鹿島製鉄所にいた頃、同期に京大でラグビー選手だったY君がいました。彼は会社員になった後も、製鉄所のラグビー選手として活躍し、引退してからも副所長になる頃まで、コーチをしていました。

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ある時、彼とラグビーの話をしていて、私がラグビー選手の意味で、ラガーと言うと、Y君は「オヒョウさん、違いますよ。ラグビー選手のことはラガーメンと言うのですよ」とたしなめるように言ったのです。 「えっ?ラガーメンだって?僕はそんな言葉は知らないよ」「そりゃオヒョウさんが無知なだけですよ」 私は困惑しました。

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やがて、あるオピニオン雑誌に作家の安部譲二が寄稿した文を読みました。彼は慶応時代にラグビー選手でしたし、少年時代に海外生活を経験していて英語もすこぶる堪能です。 彼が言うには、「奇妙な和製英語が氾濫している。 ラグビー選手のことをラガーメンなどと奇妙な呼び方をするので、驚いていたら、どうやらそれはTBSのアナウンサーが作り出した言葉のようで、ラグビーの本家本元の英国にはない言葉だ」とのことです。

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あのTBSですから捏造もするでしょうし、英語の造語もお手の物かも知れません。しかし本当のところはどうなのか? 果たして京大のラグビー選手の言葉が正しいのか?慶応(中退だけど)のラグビー選手の言葉が正しいのか?

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自分なりの回答を得たのは、私がロンドンに駐在していた時です。ラガーメンという言葉は誰からも聞かれません。やはりラガーメンというラーメンみたいな言葉は日本人の造語なのか? 困った時には英国生まれの秘書嬢に訊くのか私のやり方です。

Kate Ford嬢に尋ねると、英国人らしい皮肉を含めて答えます。

「日本の英語にはラガーメンという言葉があるかも知れないけれど、英国の英語ではラガーであり、ラガーメンとは言わない」という明解な回答です。

British English”という表現自体が奇妙でおかしく思えましたが、彼女の説明には理由があります。 

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アメリカ英語がいろいろな点でイギリス英語と異なるのはご承知の通りですが、多くの英国人は、自分達が話すイギリス英語こそが正統で、アメリカ人の英語は正統でないと考えています。 その延長上で、もし日本にも独自の英語というものが確立していたとして、それを否定はしないが、あくまで本家はイギリス英語だと、彼女は主張したいのだと理解できます。

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実際、私自身が話していて、「そうか。それが日本英語”Japanese English“なのか」と妙に納得されたことがあります。 自分の話すへたくそな発音を英語と認めてもらえたことを喜ぶべきか、それとも本物の英語とは程遠いということで馬鹿にされたのか、私としては複雑な思いで返答に窮しました。 今思えば、日本人全体の英語が馬鹿にされたと、怒るべきだったのかも知れませんが・・・・。

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秘書嬢はそれ以上説明しませんでしたが、実はラガーとラガーメンの間には本質的な違いがあります。メン”men”と付く場合、例えばチェスメン(チェスの駒)には人格は認めません。自分の意思で動く選手ではなく、司令塔の命令に従って動くだけの存在です。自分の意思で判断し行動できる場合は、語尾にerが付くPlayerです。

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御存知の方も多いでしょうが、銀行家はBanker、銀行員はBank-menです。後者は単なるClerkであり、銀行を経営する立場ではありません。ロンドン時代、私は下手なゴルフをせざるを得ないことが時々ありました。 ある時、住友対抗戦なるもので、住友銀行や大阪商船三井の駐在員と一緒に回った時、私はバンカーにつかまり、脱出するのに4打を要しました。思わず、私は「だから私はバンカーが嫌いだ!」と言うと、銀行の駐在員が「僕の方を見て言わないでくださいよ。バンカーというのは頭取級の人を指すのですよ」と大笑いしたことがあります。

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ラグビーの場合、監督(コーチ)もいますが、選手は指示通りに動く駒という訳ではありません。自分の意思で行動し、それでいてちゃんとチームワークに則った行動をするのがラグビー選手です。 彼らはラガーであってラガーメンではありません。

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今、最先端のAIを研究している人達は、複数のロボットの協同作業の実現に取り組んでいます。 自律系で動くロボット達が、相互に連絡を取り合い、チームで行動すれば、能力は各段に向上します。 ラグビー選手達はそれを実現しています。

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日本にはもうひとつ誤解があります。 英国では知識階級の青年はラグビーを愛し、労働者階級の青年はサッカーを愛するという噂です。ラグビーがパブリックスクールであるRugby校で生まれたのは事実です。そして大学進学を前提としたパブリックスクールは、基本的に中産階級以上の家庭の子弟が通うのも事実です。

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しかし今は、ラグビーは学生スポーツの域を脱していて、全ての人が楽しむスポーツです。中産階級とか知識階級云々は全く当たりません。 またその逆にサッカーは労働者階級のスポーツというのも的外れです。大学教授でも会社の経営者でもサッカーの熱烈なファンはいます。

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それでも、私がロンドンにいた頃のスター選手だったベッカムの決して上品とは言えない英語を聞いて、「彼のお里が知れる・・」と言った英国人はいましたが。

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スポーツの世界では、急速なグローバル化と同時に、階級レス化が進んでいます。今、英国で上流階級だけがするスポーツは何か?と訊かれたら、うまく答えられません。多分、とてもお金のかかるスポーツであるポロぐらいではないか?と思います。

私には縁が無いので、本当のところは分かりませんが。

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むしろ、選手やチームが一部の学校に偏るのは日本の学生スポーツの方かも知れません。 以前は、なぜか高校野球は商業高校が強く、高校ラグビーは工業高校が強いという時代がありました。 

今は、スパルタンな教育を施す私立高校が、野球もラグビーもサッカーも強いようですが。

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話が脱線しましたが、元へ戻します。

長い間、英連邦諸国や南太平洋の島国の後塵を拝していた日本のラグビーも、近年急速に強くなっているようです。 残念ながら名選手平尾は世を去りましたが、五郎丸という新しいスターは、活躍の場を世界に広げています。

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日本人選手のフィジカルには、まだまだ限界があり、すぐに欧州の6カ国対抗(5カ国対抗?)に通用するレベルにはならないでしょう。その前にラグビー自体が15人制から7人制中心になるかも知れません。

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しかし、日本人選手は、自ら考え、チームとして最適の行動をする訓練を積み、体格は小柄でも強いチームに変化しつつあります。 日本風のラガーメンからラガーへの脱皮です。 東京オリンピックが楽しみです。


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