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【 餡子(あんこ)の味 】 [金沢]

【 餡子(あんこ)の味 】

 

久しぶりに、北国新聞を読んでいたら、中能登町の観光大使になっている一青妙さんの記事がでていました。2017120日の文化欄です。(著作権の事情でその記事を転載できないのが残念です)。

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あれっ?彼女は南西諸島で歯科医をしていたはずだけど・・・いつの間にか、女優兼エッセイストになっているぞ。彼女は一青窈の姉で、自分達の母親を回想したエッセイ「私の箱子」や「ママ、ごはんまだ?」を元にした映画、「ママ、ごはんまだ?」にも出演しています。

http://mama-gohanmada.com/

余談ですが、私は一青窈のファンで、以前、ブログ【 裸足の歌姫 】でも、彼女について書いています。

http://halibut.blog.so-net.ne.jp/2011-06-21

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母親の残したレシピに、母親の愛情を改めて感じるというのは「四十九日のレシピ」に通じますが、ポイントは日本の石川県に生まれた母親が台湾に嫁ぎ、違う風習や食文化に戸惑いながらも、溶け込んでいき台湾料理をものにすること。それでいて懐かしい故郷の味も決して忘れていないこと。それらは、娘たちにも引き継がれていて、料理が母と娘の絆になっている・・という点が独特です。そして、私が驚いたのは映画には「圓八のあんころ餅」も母親の好物として登場するということです。

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石川県の名物「圓八のあんころ餅」は、子供の頃からの私の大好物です。特に金沢駅のホームで買い求め、列車の中で、賽の目に切ってあるあんころ餅を食べるのが好きでした。あの程よい甘さの餡子が好きで、竹の皮にこびりついた餡子を楊枝で擦って口に運びました。

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人は、子供の頃においしいと感じた食べ物を、終生、最高の味として記憶する・・というのは嘘でしょう。大人になってから、あんころ餅に出会ったとしても、私はあんころ餅を好きになったはずです。

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漫画家の雁屋哲は、「美味しんぼ」の中で、(お菓子などが)ひたすら甘くても許されるという点で甘味は下品な味覚だ・・と断じていますが、これも多分違うでしょう。

和菓子などは、微妙な甘味で勝負します。

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先日、呉で上田宗箇流のお点前でお茶をいただいた際、お茶を飲む前に口に入れたお菓子のおいしさ、絶妙の甘さに、思わず「おいしい!」と言ったところ、ご亭主から「流派によって、お茶とお菓子の順番は様々です。お茶を口にした後で、最もおいしく感じる甘さにしたお菓子、お茶を飲む前に頂いて最もおいしいと感じる甘さにしたお菓子など、様々です」との説明がありました。ちなみに上田宗箇流は、お茶を飲む前にお菓子をいただきます。

すると「お濃茶と薄茶でも本当はお菓子の甘さを加減すべきなのですね?」と私。

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なるほど、お茶の席に登場する和菓子はデリカシーの塊です。特に餡子の甘さはデリケートです。雁屋哲が言うところの「ひたすら甘くても許される味覚」というのはドイツの砂糖菓子くらいじゃないのかな?

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そこで思うのは、一青妙さん一家が暮らした台湾の餡子の甘さはどうだったのかな?と言うことです。 一般に中国のお饅頭などに使われる餡子は日本の餡子と似て非なるものです。 全体に油っこく、色は小豆色というより黒に近く、少ししつこい甘さが印象に残ります。 一方、月餅に用いられる、果実から作った餡は逆に甘さが薄くなっています。どちらも、和菓子とは違う味で、圓八のあんころ餅の餡とは程遠い味です。

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日本では中国風の餡子は今ひとつ人気がなく、中秋の名月の頃の贈答品の月餅が敬遠されるのも、そのせいだと思います。

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では台湾の場合、中国風の餡子なのか、それとも日本風の餡子なのか・・・それが問題です。素朴に考えれば、中国風でしょうが、一青妙一家の実家が財を成した九份はかつて日本人が多く暮らし、日本文化の影響を受けた街です。その様子は傑作映画「非情城市」に登場します。

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姉妹の母親は、嫁ぎ先で台湾料理になじみ、レシピをものにしますが、ひょっとしたら、餡子の味だけは、日本の餡子の味にこだわったのではないかな? 圓八のあんころ餅の味は、単なる石川県への郷愁の味を超えた存在だったのでは?

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しかし、日本の餡子がおいしいとされるのは、日本と日本人だけかも知れません。以前、聞いた話ですが、試しにアンパンをアメリカ人に紹介したところ、評判はさっぱりで、なんとかおいしくしようとシナモンを大量に加えて、アンパン本来の味を消してしまったとか。それに日本人にも餡子が苦手な人もいます。

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でも米国に駐在する多くの日本人には、お土産に貰うアンパンは格別のご馳走だったようで、私の上司だったシカゴ事務所長は、地方にある日系企業のお客を訪問する時は、シカゴの日本人のパン屋さんで作った大量のアンパンをお土産に持参していました。

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そのシカゴ事務所の日系二世の女性秘書は、戦前、実家がカリフォルニア州で和菓子屋を営んでいたことから、餡子は日本の餡子に限る・・と言っていました。米国生まれで米国国籍だったけれど、日系人のアイデンティティを大切にする人でした。ひょっとしたら、日本の餡子の味にこだわったのも、日系人のアイデンティティと関係するのかも知れません。たかが餡子、されど餡子です。

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そんな事を言うと、必ず日本と中国で優劣を議論したくなる輩がでてきて、中国の餡子と日本の餡子、どちらが世界で好まれ、どちらが市民権を得ているか?なんてことを調査して比較する記事が、新聞に出そうです。

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それは困ったことです。 圓八のあんころ餅が大好きな私ですが、中国の餡子も、そして月餅も嫌いな訳ではありません。どれもおいしくいただきます。甘さにこだわりが無いというのは悪いことではないと思うのですが・・・、漫画「美味しんぼ」などでは軽蔑されそうです。 雁屋哲からは

「そうか、下品なのは甘味ではなく、鈍感なオヒョウ君の舌なのだ」と言われそうです。

 

もっとも、下品な味覚しかない私でも、映画「ママ、ごはんまだ?」は楽しめそうです。


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