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【 旗旒信号とモールス信号 】 [広島]

【 旗旒信号とモールス信号 】

少し前ですが、川崎のご隠居が呉を訪れた際、港に出入りする艦船が用いる信号旗とアルファベットの対応表を見る機会がありました。

彼が「これは面白い・・」と笑ったのが、Z旗で、もともとの意味は「本船はタグボートを必要とする」というもので、推進装置が故障したから助けてくれ・・という情けない内容です。

Z旗.png

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しかし、ご承知の通り、Z旗は日本では特別な意味を持ちます。日本海海戦の際に旗艦「三笠」に掲げた旗です。「皇国ノ興廃コノ一戦ニアリ」ということで、国力を消耗した日本にとって、まさに後が無い最後の戦いだったから、アルファベットの最終文字を使った訳です。

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聞くならく、Z旗は真珠湾攻撃の際にも掲げたそうですが、これはどうでしょうか?

この作戦は戦争を開始する緒戦だったのですから、A旗の方が適切だったのではないでしょうか?全ての戦いは乾坤一擲ですが、真珠湾攻撃の場合は、その後にも多くの海戦が予想される長期戦の始まりだったのですから、これでおしまいというZ旗は似合いません。

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私がかつて勤務した製鉄所にはZプロジェクトという組織が存在しました。ジリ貧の鉄鋼の業界で画期的な技術革新をしなければ生き残れないという考えで、精鋭の技術者を集めた横断的組織としてZプロは作られ、技術開発と研究を推進しました。そのチーム長の席の後ろの壁には、大きなZ旗が掲げられていました。確かにZプロからは画期的な技術が生まれ、成果を挙げたのです。しかし、経営方針の変更で、やがてZプロは解散となり、その後、技術開発は停滞していきました。Zプロを率いたチーム長は閑職に異動となり、その後亡くなりました。その十数年後にその会社はライバル会社と経営統合になり、Zプロが開発した技術の幾つかは、ライバル会社の競合する技術に置き換えられ、姿を消しました。なんだか日本海軍みたいです。

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今は他の通信手段が普及し、信号旗で船舶や艦船が連絡を取り合うことは殆どなさそうです。民間船舶の場合、船舶電話がありますし、衛星携帯電話も使えます。

軍艦の場合は傍受や暗号解読が難しいデータリンクというシステムを使います。

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旗を用いた旗旒信号やモールス信号を用いた発光信号、手旗信号などといった古典的な通信はまず登場しまい・・と思っていましたが、そうではありませんでした。

1980年代、樺太上空で大韓航空のジャンボジェット機がソ連(当時)の戦闘機に撃墜された際、墜落現場に日本の海上保安庁の船が向かう途中でソ連の警備艇に妨害されました。警備艇には、3字信号の旗旒信号PP1が掲げられました。その意味は「我を追い越すな」です。

PP1.png 

実は便利なデータリンクは自国の軍隊または友軍の間でしか使えません。敵国、あるいは違う言語やプロトコルを用いる国の船とは使えません。

ソ連の艦船と日本の船が連絡を取り合う時、そこで国際信号旗が役に立つのです。

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敵国の艦船との通信の場面は、多くの映画に登場します。「レッドオクトーバーを追え」では追跡するアメリカ海軍の原潜が、ソ連の原潜「レッドオクトーバー」と何とか通信しようとして、艦長が発光信号機を用いてモールス信号を送信します。「アナポリス(海軍兵学校)以来だから、自信がないが・・」と言いながらアルファベットの英文を送るのですが、不可解です。相手はロシア人で、ロシア語を話し、使用する文字はキリル文字です。「通じるのかしら?」と思いますが、問題はありません。なぜならレッドオクトーバーの艦長はショーン・コネリーで、艦内の乗組員も、なぜか全員英語で会話しているからです。実に奇妙な映画です。

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モールス信号や旗旒信号に最もこだわったのは、宮崎駿のアニメです。モールス信号は、「天空の城ラピュタ」にも登場しますし、「崖の上のポニョ」では5歳の幼稚園児が、猛烈な速さでモールス信号を発光して沖を通過する船に連絡します。 そんな事はある訳ないさ・・と思いました。

そして、旗旒信号が登場するのは「コクリコ坂から」です。この映画では、海で亡くなった父を想う少女が、毎日、旗旒信号を掲揚するという習慣がひとつのポイントになっています。映画を見た時には、掲げられる信号旗の意味を解読する余裕は無かったのですが、後でタイトルの絵を見れば、2字信号でUWとなっています。

Kokurikozaka_kara_film_poster.jpg

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これは出船に対しては「ご安航を祈る」、入船に対しては「ようこそ」の意味の国際信号です。 「Bon Voyage」または 「一路平安」 に近い意味です。

UW.png

港の入り口などに、この信号旗が掲げられているそうですが、「普通の民家で旗旒信号を掲げるなんて、そんな事はある訳ないさ・・」と思っていたら、実はありました。

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呉の港を見下ろす傾斜地の上にある、一軒の家には、いつも2文字信号のUWが掲げられています。「海猿」で有名になった200段の階段の上の方で、海上からも見える場所です。他人の家の写真を勝手に掲載するのもどうかと想いますが、既にGoogleStreet Viewでは見られますし、ご本人も見られることを前提に旗旒信号を出されているものと思い、アップします。

house.jpg

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なるほど、本当の「コクリコ坂」は、横浜ではなく呉にあったのだ・・と気づきます。

そして呉では、港から離れた場所に、もうひとつ旗旒信号を掲げる場所があります。

呉の休山の高台にある長迫公園は海軍墓地でもあります。でも特定の個人の墓ではなく、第二次大戦までの多くの艦船の記念碑が、所狭しと並んでいます。そして奇妙なことにそれらの石碑の前には十字架のように、アルミニュウムのポールが立っているのです。

http://www.geocities.jp/hashirouvx800/kaigunboti.htm

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「キリスト教徒という訳でもないのに、この十字架は何だ?」

怪訝な顔をすると、海上自衛隊の幹部自衛官だったNさんが教えてくれます。

「これは旗旒信号を掲げるための檣(マスト)を模したものです。慰霊祭などの式典の時にはここに旗を飾るのですよ」

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「なるほど、日本海軍の軍人はやっぱりZ旗なのだな・・」と思いますが、「待てよ?」とも思います。 信号旗にはいろいろ意味があるけれど、死者を悼む信号旗、鎮魂を祈る信号旗などありません。 「一体、どの旗を掲げればいいのだ?」 丘を埋め尽くす、夥しい数の軍艦の墓標を前に私は粛然とした気持ちになりました。

水夫(かこ)の碑の 旗無き棹に 秋の風


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