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【 ユリイカを買う その1 】 [アニメ]

【 ユリイカを買う その1 】

呉市広にあるレンタルDVD店で、SFアニメの「ユウレカ7」という題名を見たとき、「そうだユリイカを買わなくては・・」と思い出しました。ユウレカとユリイカは、発音は違いますが同じ意味です。そしてユリイカは私がたまに買う文芸誌です。定期購読という訳ではなく、興味のある芸術家の特集がある時だけ買うことにしています。例えば小津安二郎特集とか。

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そして9月号には、今が旬のアニメーション作家というより映像作家の新海誠の特集があるそうです。私は新海誠のデビュー当時からのファンです。そこで私は書籍売り場の方に向かい、雑誌コーナーを見渡しましたが、ユリイカはありません。おそらくは高校生のアルバイトと思われるレジの女子店員に「あの、ユリイカはありませんか?」と尋ねると怪訝な顔です。

「・・イカ? ですか?」声には出しませんが、「ここは本屋だ。イカが欲しければ魚屋へ行け」と言いたそうな素振りです。

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後ろにいた20代と思われる男子店員が、すぐに端末の画面で確認し「済みません。ユリイカは置いてないのです。取り寄せならできますが、どうしましょうか?」「いや結構です。それには及びません」と答えて店を出ます。

私には心当たりがあったのです。

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広島市まで出れば、駅前にも都心にも大規模書店はあります。雑誌の入手で苦労することはありません。しかし、呉市では、まして広では少し難しいかな? でも時刻は既に夜で、広島市まで行くのは億劫です。 そこで、比較的近くにある坂町のT書店に行くことにしました。 坂町は呉市と広島市の中間にある海沿いの町です。

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瀬戸内海に沿って車を走らせると、静かな海面の波がキラキラ光っています。これは夜光虫というものかな?と一瞬考えますが、そうではありませんでした。対岸の江田島の上空に満月に近い月が現れ、その光が波に反射していたのです。ちょっと幻想的だな・・と思った頃に、T書店に到着しました。

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しかし、その書店の書棚にもユリイカはありません。仕方なしにレジに行って、ユリイカの有無を尋ねますと、店員は広の書店と全く同じように端末で確認し、「済みません。ユリイカは置いてありません。取り寄せになりますが、いかがされますか?」と殆ど同じ返答です。

少しだけ違うのは、その後に、「文芸ものはあまり出ませんのでね。置けないのですよ」と言い訳が続いたことです。

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私は、「いや結構です。それには及びません」と広の書店と全く同じ返答をして店を出ます。

私には心当たりがあったのです。それは翌週に大阪大学に行く予定があり、そこの大学生協の本屋で購入できると思ったからです。来週に予定されたのは、鉄鋼協会と金属学会の秋季講演大会ですが、私は発表無しの「聴くだけ参加」で出席する予定だったのです。

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前回の学会参加では、長男に軽蔑されました「お父さんはいいよな。学会に出ると言っても、自分で発表する訳ではなくて、他人の発表を聞いて質問したり論評するだけだから楽だよね。僕なんか、学界への参加は何か発表するのが前提だから準備が大変なんだよ」

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何時から、息子はあんな生意気なことを言うようになったのか・・・。確かに聴くだけの参加はある種の横着には違いありませんが、ちょっと寂しい事情もあります。

もはや年齢的に私は発表者の立場でないことも事実です。私と同年齢の世代が学会で発表することは希で、発表者は大学院生か少壮の研究者達ばかりです。同世代の人たちは、部下や後輩の発表を後ろで見守る立場です。それすら終えて、学会に参加しなくなった人もたくさんいます。

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いずれにしても、私は大阪大学の豊中キャンパスでこの雑誌が手に入るものと考え、呉での入手を断念しました。

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しかし、実は大阪大学にもユリイカは無かったのです。

かつて大学生協の本屋は、教養人たちにとって最後のよりどころだったそうです。東京の都心にYブックセンターだとか、丸の内M善ができる前、都内のかなり大きな書店でも専門書となると全て揃えてあるとは限りませんでした。まして地方の人には専門書の入手手段がありませんでした。

そこで人々は大学の構内にある生協の書店で書物を探し、購入したり注文したり、或いは立ち読みしたのです。地方大学の生協にある書店は、その大学の関係者以外にも貴重な存在だったのです。

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それが今はインターネットで簡単に検索し、アマゾンで注文できる時代です。実に便利になりましたが、ちょっと詰まりません。

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大学生協の専門書のコーナーを横目で見て、雑誌コーナーに行くと、確かにユリイカのバックナンバーが置いてあります。 しかし、5月号、6月号、7月号、8月号とあって肝心の9月号がありません。その代わりに別のアニメを取り上げた、9月の臨時増刊号が置いてあります。 これはどういうことか? 店員に尋ねると、すぐに係員は書棚の引き出しの在庫を調べ、「不思議ですね。9月号に限って売り切れみたいですね。どうしてでしょうか? 先生、お取り寄せしましょうか?」と言ってきました。

本棚01.jpg

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「うーむ、知性とは全く程遠い容貌の、この僕が、阪大の先生に見えるのかね?まあ確かに学生には見えないだろうけど」と心の中で思い、そしてなぜかちょっと嬉しい気持ちになりながら、私は答えました。

「いや、結構です。それには及びません。 それに僕はここの先生ではありません」

実は私には心当たりがあったのです。その日の午後には東京に移動する予定であり、Yブックセンターか、丸の内M善で必ず買えるはずだ・・。もしそれでだめなら、アマゾンで買えばいい。

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店員は9月号に限って売り切れていることを怪訝に思ったようですが、私には何となく分かりました。この大学の学生にも、新海誠のファンはきっと多いのです。いつ頃から新海誠の作品が注目されだしたのか不明ですが、多分、「秒速5cm」あたりから、彼の表現者としての地位は確立され、大阪大学にもファンが増え、そして雑誌の特集号は売り切れたのです。

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しかし結果的に、私は意外な場所でこのユリイカ9月号を手に入れることができました。 それは新大阪駅の構内にある書店リブロです。在庫は2冊ありました。

発車前の短い時間立ち寄って、この雑誌を見つけ、すぐに買い求め、新幹線の車中で、そして知人と待ち合わせをした有楽町の喫茶店でこの雑誌を読み耽りました。

IMG_0850.JPG

その内容については、次号で


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