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【 お客様の中にどなたか・・ その1 】 [航空]

【 お客様の中にどなたか・・ その1 】

 

映画などで、時々お目にかかるシーンですが、飛行機で急病人が出た場合に乗客の中に医師を探すことがあるそうです。私自身は経験したことがありませんが、客室乗務員が、通路を歩きながら医師を探す訳で、映画やTVドラマなら、そこでスーパーマンのように医師がすっくと立ち上がり、命の危険にさらされている患者に適切な治療を施し、危機を脱する形となります。現実にはそんなにうまくいくとは思えないのですが・・・。NHKの番組「ドクターG」にも飛行機内の急患に対応する救命医の話が複数回登場します。

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外国の場合ですが、飛行機の搭乗手続きやホテルの宿泊名簿に記入する際、署名欄の上に肩書きを選択する欄があり、Mr. Mrs. Miss  Ms. と並んでDr.とあります。

これは、医者が必要な時に探すための登録だ・・という都市伝説がありますが、それは嘘でしょう。単に欧米的な教養主義の発想で、高い学識を備えた人にはそれなりに尊称をつけて呼び、礼を尽くす必要がある・・というものだと思います。

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実際、Dr.といったって、医師ばかりとは限りません。私の周囲には工学博士、理学博士、PhD. 文学博士もいます。急患が発生して緊急医療が必要になっても文学博士が役に立つとは到底思えません。でも彼らもDr.です。それに医学博士だって医師とは限りません。医師でない医学博士も大勢います。

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その逆で、博士論文が通る前の医師なら、厳密には博士と呼ません。医師国家試験を通れば医師ですが、博士とは限らないのです。少しややこしいのですが、医師をドクターと呼ぶのは、紛らわしくてかないません。

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そのドタバタを避けるためか、JALANAが医師登録制度を始めました。予め医師の登録しておけば、機内で急患が発生した際に、すぐ対応できるというものです。

既に医師の登録は進みつつあり、制度の運用は9月からとのことです。多くの人がこの制度を歓迎しています。しかし、そう簡単にいくとは思えません。問題はたくさんあります。

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1.医師の資格と権限、責任は?

医師なら誰でもいいというものではありません。生理学や病理学を研究し、臨床から遠ざかっている医師が、救急医療の現場ですぐ対応可能かは不明です。むしろ、ベテランの助産師や看護師の方が処置能力に優れる場合もあります。

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国際線なら、多くの国の医師が乗っていますが、国ごとに医師免許は違い、専門知識のレベルも違います。最近は減りましたが、かつて中国には「裸足の医者」が存在しました。小学校を卒業しただけで、人民に奉仕したいという思いから医師を営んでいるのですが、彼ら/彼女らにできるのは、赤チンを塗って包帯を巻くぐらいです。 アフリカではブゥードゥー教の祈祷師が医師を兼業しています。もっぱら祈って、薬草や煙を体にあてることで悪霊を追い出し、病を治すのだそうです。仮に飛行機の中で病気になってもそれらの医師のお世話にはなりたくないものです。

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なるだけやりたくないのは医師の方も同様でしょう。機材が不十分な機内で難しい医療行為が必要になる場合があります。 万一不幸な結果になった場合、責任問題が生じ、訴えられる可能性もあります。 地上の病院であれば手術への同意書への署名を求めることができますが、空の上ではそれもできません。

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2. 医療費の請求は?

患者が健康保険証を携帯しているか否かにもよりますが、恐らくは時間外診療でそれなりに費用が発生します。医師は機内でカルテと診療報酬請求の書類を作成するのでしょうか? もし、患者が国民皆保険ではない国の人で、旅行保険にも加入せず、医師も自由診療を前提とする米国人医師だったら高額の診療になります。米国人同士ならともかく、患者が低所得国の貧しい人だったら払えない・・という問題がでてきます。 逆に英国のように、基礎的な医療費が無料の国の人だったら・・さらに事態は複雑です。 航空会社が肩代わりするというのが現実的ですが、エアラインにそこまでの責任はあるのか?ということになります。

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3. 医師にどう報いるか?

機内での医療活動をボランティアとみなせば、医療費発生の問題はなくなりますが、責任重大な医療行為を求められる医師に報酬なしという訳にはいきません。かといって登録するだけで金銭的な報酬を渡す訳にもいきません。ボーナスマイレージを付けるという方法もありますが、高額所得者が多い医師がマイレージを貰って喜ぶかは疑問です。ファーストクラスのラウンジを医師に開放するという方法もありますが、これも問題です。 医師の出張は学会への参加が多いのですが、ある都市で大きな医学会が開かれたら、その時期の飛行機は医者だらけになります。 医者だけでラウンジがパンクし、他の乗客が締め出されます。

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4. 限られた医療器具でどう対応する?

昔の映画「カサンドラクロス」では国際特急列車の中で、猛烈な伝染病が発生し、列車ごと隔離されるという事態が発生します。 たまたま乗り合わせた主人公の医師が、「持ち合わせたアスピリンとティッシュペーパーだけで、一体どうしろというのだ」と嘆く場面が登場します。 飛行機の中も同じようなものです。 救急箱に聴診器、血圧計、体温計、AEDぐらいは装備されているでしょうが、これは医師にとってははなはだ不十分な装備でしょう。 しかし、多くの薬品や輸血用の血液を常備するとなると、保管期限の問題もあり、飛行機に積むのは現実的ではありません。

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では、問題山積の中、どうするか? 私の提案は医師に頼らずに、客室乗務員に救命措置の技術を学んでもらい、緊急時に対応してもらうことです。

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近年、大衆化が進むというか、レベルが下がったというか、お給料もさがりつつあるのがスチュワーデスと呼ばれた客室乗務員です。昔のような高級感溢れる職業に戻すには、何らかのレベルアップが必要です。単なる客室乗務員であれば、業務内容の高付加価値化には限界がありますが、看護師、救急救命士、助産師の資格を持てば

業務内容の幅が広がり、高度な専門職としての位置づけができます。飛行機の乗客もより高度なサービスを受けられます。

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そもそも、日本では医師が自分達の縄張りを守るために、医師法で医師以外の人ができる医療行為を厳しく規制してきました。以前は救急車の運転手には点滴の針を抜くことも許されず、患者を搬送できない・・という馬鹿げた事態もありました。 痰が詰まって苦しむ患者をみても医師でない家族には痰の吸引作業もできませんでした。

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最近は、パラメディックとかパラメディカルスタッフと呼ばれる医師以外のスタッフに、かなりの医療行為が許されるようになり、事態は改善しています。救急救命士には最低限の医療行為が認められています。

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そこで客室乗務員に、救急救命士の資格を取ってもらえばいいのです。飛行機が着陸し、救急車やドクターカーに移すまでの時間稼ぎができればいいのですから、それだけでも大きな効果があります。 欲を言えば、助産師や看護師の資格も欲しいところですがそれには長期間の専門機関での教育が必要になります。

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健康な人が突然昏倒するような病気(つまり卒中発作)は、脳、膵臓、心臓等、原因となる臓器はある程度限定されるそうです。学ぶべき医学知識は、ある程度限られます。そう考えると機内で突然倒れた人を着陸するまでの一定時間延命させるだけの処置を客室乗務員に求めることは決して非現実的なことだとは思えません。

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私は、ある意味で個人情報にも関わる医師登録制度よりも、客室乗務員に緊急医療行為を委ねる方が現実的ではないか?と思います。

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そして、飛行機のサービスには、それ以外の問題もあるのです。

 

それについては次号で管見を述べたいと思います。

 

以上


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