SSブログ

【 郭台銘(テリー・ゴウ)氏の錯覚 その2 】 [ビジネス]

【 郭台銘(テリー・ゴウ)氏の錯覚 その2 】

郭台銘氏が率いる鴻海ブランドの電気製品を街で見かけることは殆どありません。

それは、同社がEMSの会社だからです。 つまり他の企業が設計した図面や回路図を元に、その製品を、安く、大量に、高品質で、短納期で、顧客に納めることがなりわいです。 OEMで生産された電気製品は、その顧客のブランドで売られます。

・・・・・・

EMSのビジネスでは、できるだけ労働力が安くて豊富な国に大量生産の工場を確保して生産するのがコツです。他のEMS企業も概ね中国を狙い、新たな工場を建設したり、倒産した企業の工場を居抜きで買ったりしています。 つまりユニクロ型のビジネスの極致です。

・・・・・・

EMS産業が台頭してきた理由は、エレクトロニクス製品のコモディティ化が進んだことです。つまり半導体の設計図があれば、どの国の半導体製造ラインでも製造可能です。

そして、ユニット化したデバイスを組み合わせれば、パソコンだろうが液晶テレビだろうが、電気自動車だろうが、どこでも組み立てられるのです。

言ってみれば、電気製品の反ブランド化です。

・・・・・・

ところが、それに真っ向から反対し、全く逆の経営をした企業があります。町田氏や片山氏の頃のシャープがそれで、ブランド化こそ生きる道と考えました。日本製にこだわり、亀山モデルと称して高級な液晶テレビを売り出しました。 しかし、私は知っています。亀山モデルは工場こそ日本でしたが、実際に組み立て作業に従事していたのは南米からの出稼ぎ労働者で、日本語の平仮名も読めない人達でした。 シャープが消費者を欺いていたのはそれだけではありませんが、それはともかく「日本製だから高い値段を付けても売れる」という発想でした。

・・・・・・

液晶TVはやがて、世界中のどこでも組み立てて製品化できるコモディティ商品化していき、シャープのブランド強化作戦は裏目にでて、経営を圧迫していきました。

・・・・・・

鴻海が進めたEMSビジネス、つまり反ブランド主義が、シャープのブランド強化戦略に勝利した結果が、鴻海によるシャープの救済であり、子会社化です。

しかし、なぜ鴻海はシャープを救済したのでしょうか? EMSビジネスの一環であれば、鴻海は日本ではなく、開発途上国に工場を建てるはずです。鴻海の郭会長は、シャープの技術力を欲しかった・・というのですが、よく理解できません。 郭会長は1代で゙14兆円企業を作り上げた立志伝中の人物ですが、技術者として高等教育を受けた人ではありません。率直に言って、シャープの持つ技術力や研究開発力を適正に理解し評価する能力は無いはずです。 やはりEMSメーカーにはないブランド力を求めたのではないか?

・・・・・・

しかし、経営破綻したシャープのブランド価値はそれほどでもありません。 しかも優秀な技術者は、どんどん逃げていきます。郭会長は、混乱しそして迷った結果、途上国の組み立て工場と同じように、解雇のプレッシャーによって生産性を挙げるリストラ型経営を導入しようとしているようです。

・・・・・・

しかし、日本は特にシャープはベトナムの工場とは違います。 労働力が潤沢で代わりの人材が無尽蔵にいる世界ではありません。 特に研究開発に従事する社員は、評価点が下位10%だからという理由で解雇すべき人材ではありません。

・・・・・・

脱線しますが、その昔、勤務先の中央研究所が評価点方式で研究者を評価した事があります。単純に論文の本数や学会の発表件数を点数化したものですが、その結果、研究者達は目先の論文執筆に励み、肝心の研究をおろそかにしました。そればかりか、すぐに成果が出て論文に結び付く簡単な研究テーマばかりを選び、全体として会社の研究開発能力は大いに低下したのです。

・・・・・・

シャープで8Kなどの高精細度液晶パネルや、長寿命型有機ELの研究に携わる研究者に、点数制を導入したり、下位10%の解雇などを行えば、どうなるか?

所詮EMS屋には分からない問題が噴出します。おそらくシャープにまともな研究者はいなくなり、新技術の開発は滞るでしょう。 日本電産の永守氏は既にそのことを見抜いています。「安易な首切りは、(少なくとも日本では)下策中の下策だ・・」

・・・・・・

オヒョウが関係する鉄鋼産業も、海外に多くの子会社や合弁会社を持っています。そしていいことか悪いことかはともかく、人事・労務については国によって対応を変えています。一言で言えば、先進国であればなるべく雇用を大切に守り、新興国に於いては解雇権の行使もやむなしとしているのです。

・・・・・・

これまで、大陸中国をはじめ、東南アジアなど台湾より経済の遅れた国にしか工場を持たなかった鴻海には、理解できないことでしょうが、これは重要なことです。

・・・・・・

かつて、EMS産業を揶揄した人が言いました。

「鴻海には、i-Phoneは作れるけれど、i-Phoneは創れない」。安易な解雇権の濫用をすれば、創造的な仕事をできなくなる・・という意味です。 創造的な仕事は、失職の不安を抱えたままでは行えないのです。シャープのブランドと技術力を望みながら、それを得られないと知り、鴻海はきっと後悔します。 

ちょうど泳ぐ宝石のように水中できらめく熱帯魚を捕らえて、水上で死なせたなら、ただの白っぽい魚に変化するように、鴻海が買収したシャープは劣化します。

・・・・・・

もっとも、創造的な仕事を行う本家本元のアップルも、ジョブスの時代、理不尽な首切り旋風が吹き荒れましたが。


nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。