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【 郭台銘(テリー・ゴウ)氏の錯覚 その1】 [ビジネス]

【 郭台銘(テリー・ゴウ)氏の錯覚 その1】

私がかつて暮らした中国江蘇省昆山市は、台湾企業の多い都市で、台湾塑料(台湾プラスチック)やGIANT(自転車)などの大きな工場があります。その中でも目立つのが富士康のパソコン工場でした。FOXCONなどと並ぶ、台湾の鴻海(ホンハイ)傘下の組立工場で、世界中に完成したパソコンを出荷していました。窓の無い大きな鉄筋コンクリートの建物の中に1万人もの従業員が勤務しています。

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中国人の同僚が「富士康では、時々自殺者が出るそうです」と言うので、「お給料もかなりいいそうだけれど、どうして?」と私。同僚は「富士康では、何も悪いことをしなくても、毎年成績下位10%の人が解雇されます。そしてその10%を埋める人が新たに採用されます。それは相当のストレスで、厳しい競争や足の引っ張り合いがあるそうです」

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「でも成績下位10%といっても、単に流れ作業で電気製品を組み立てるのだから、成績に差なんてつかないはずでは?」と私。同僚は「多分、欠勤とか遅刻とか・・・、従業員のレベルもそれなりに低いですしね。後は上役の受けの良さ・・とか、でしょう」

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「しかし、懲戒解雇の理由にもならないことで簡単に馘首されるなんて、労働基準法(中国にもそれなりにあります)や組合(中国にもそれなりにあります)はどうなっているのだ?」と私。同僚は「つまり代わりの人は、いくらでもいるから、要らない人はクビにするという雇用者側の論理が通用するのです」

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少し背景事情を言いますと、中国江蘇省昆山市はかなり近代化され、賃金水準も高い工業都市です。しかし、江蘇省のヒンターランドとも言うべき、西隣の安徽省、さらにその西の地域には、まだ貧しく近代化されていない世界が広がります。その地域から、仕事と都会の生活を求めて、毎年膨大な数の労働者がおしよせます。つまり、労働力は常に供給過剰の状態です。

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ノーベル経済学賞を受賞したルイス博士の、ルイスの法則では、「潤沢な労働力が供給される環境では、賃金や労働条件はあまり改善されない」としています。

なんのことはない。話は単純で「労働条件が嫌なら辞めな。代わりはいくらでもいるんだ」と雇用者が言える社会のことです。これを私は、酸アルカリの化学になぞらえて、「労働市場の緩衝溶液作用」と呼びます。

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「しかし、このやり方は、労働集約型の産業を、安い労働力が豊富にある地域に持ち込んで搾取する一種の植民地政策ではないですか?」と私。同僚は「そうです。昆山は既に経済面では台湾の植民地になっているのです。僕は日系企業にいて幸せです」

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幾らなんでも、悪いこともしていない人を、毎年自動的にクビにするなんてアコギな事は台湾企業でもしないだろうと、私は思っていました。しかし、富士康の親会社である鴻海(ホンハイ)の郭台銘会長はシャープでのリストラの可能性に言及し、「海外では毎年3~5%の人に辞めてもらっている」と語っています。昆山の話は本当だったのです。

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1607/22/news060.html

どうやら、郭会長は、日本のシャープにもその方法を適用したいようです。「飼い主を替えても悪い卵しか産まない鶏は処分するしかない」という表現で、シャープ社員の定期的なリストラをしたい意向です。

http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1606/29/news075.html

しかし、これはうまく行くか? 多分いかないでしょう。

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台湾企業が海外に工場を設置して成功する例は数多いのですが、その多くは開発途上国で、低賃金で豊富な労働力を持つ国に進出しています。

オヒョウが関わる鉄鋼の世界では、台湾のCSCがベトナムに複数の工場を建設し、黒字化を目指しています。

http://japanmetaldaily.com/metal/2016/steel_news_20160725_1.html

ベトナムは若年人口が非常に多く、かつ勤勉で優秀とされています。そこに期待しているのです。

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台湾国内では土地も労働人口も限られ、高コストだから海外へ進出するのですが、これはつまり、経済植民地化です。 言わば「ユニクロ型ビジネスモデル」です。

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しかしベトナムの労働者にも高いプライドがあります。そしてこれまで自分達の文化としてなじんできた仕事の仕方があります。 台湾流の押し付けが、自国と中国以外で果たして通用するか? かなり疑問です。

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ベトナムでも難しいのですが、まして日本のシャープでこの方法が通用するとは思えません。でも郭台銘氏は通用すると思っているようです。

その問題点について、次号で管見を述べます。


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