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【 タバコを吸う仕草 】 [映画]

【 タバコを吸う仕草 】

かつて、映画ではタバコを吸う場面が重要な意味をもっていました。

アラン・ドロンとチャールズ・ブロンソンが共演した「さらば友よ」では、ドロンがブロンソンにタバコの火を点ける場面で終わっています。

何もセリフは無く、ささやかな仕草で二人の友情を表現しています。その時のタバコが、ゴロワーズだったかあるいはジタンだったかを、私は知りません。

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フランスの俳優でもう一人、タバコが似合う人物を挙げろと言われれば、ジャン・ギャバンが筆頭でしょうが、彼が愛したタバコはゴロワーズだったのでしょうか?

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なぜか、名探偵にもタバコが付き物です。

シャーロック・ホームズはパイプタバコをくゆらせるのが定番ですが、演じる俳優によってその動作が違います。私の感覚では、その仕草が一番はまって見えたのは、ジェレミー・ブレットです。彼は、パイプの煙を一息吸い込み、吐いたあとに、一気にセリフを言います。

パイプの一息の間に、頭脳をフル稼働させて、結論を出し、それを吐き出すのです。

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一方、最新のホームズ作品に登場するベネディクト・カンバーバッチは、役の上ではニコチン中毒で禁煙のためのニコチンパッチを貼っているという設定です。これではセリフを切り出す微妙なタイミングを取りにくくなります。それでもなお観客を惹きつける演技ができるのなら、カンバーバッチは大した俳優です。

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タバコがアクセントになるという点では、あの刑事コロンボが一番です。日本では葉巻を愛好する人は少ないのでピンと来ませんが、スーパーで売っている安物の葉巻を吸うということ自体、下品で無神経なこととされます。 葉巻はおめでたい事があった時に周囲の人にプレゼントして喜びを分かち合ったり、ある願い事がある時に縁起を担いで吸ったりします。 どちらかというと特別なものですから、高級葉巻でなければ様になりません。 それなのに、コロンボは安物の葉巻をのべつ口に咥えています。

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下品で無神経な男と周囲に思わせながら、実は大変に鋭く聡明な人物だという意外性が面白いのですが、毎回、安葉巻とよれよれのレインコートが登場しては、鼻についてしまう・・というのが「刑事コロンボ」でした。

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映画に於ける、喫煙というのは一つの記号です。たくさんの吸い殻が写れば、長時間待たされている証拠ですし、手持無沙汰にタバコをぷかぷか吸っているなら、言いたい事があるのに、それが言えなくて困っている・・という証拠です。

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中国を代表する映画監督の一人、ジャジャンクー(賈樟柯)は初期の作品(小武)などで、タバコを吸う場面を多用しています。無言でひたすらタバコを吸い続けるのですが、口に出したいけれど、口に出せない主人公の葛藤を表現しています。

しかし、彼の近年の作品では、あまり喫煙の場面は出てきません。ワンパターンではない、多様な演出方法をマスターしたからなのか、中国でも盛んになりつつある禁煙運動が原因なのかは分かりません。

ちなみに彼のライバル(と私は思っている)チャン・イーモウ監督の作品では喫煙のシーンはあまり登場しません。

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そしてもうひとつ、ジャジャンクーの映画でも、食べ物を口にしている場面が多く登場します。家庭の食卓の場面では当然ですが、映画に登場する勤務中の事務員や警官も、のべつ何かを食べています。 これは中国の習慣というより、やはり何かを食べている風景は観客の心を落ち着かせるから、という演出上の配慮かもしれません。

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日本の場合の喫煙には、あまり大きな意味はなさそうですが、時代劇では間の取り方の目安にしたり、セリフを口にするタイミングを決める小道具として使えます。

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キセルですから、まず雁首にタバコを詰め、そしてタバコ盆で火を付け、無言で一口、二口吸ってから、やおら、灰吹きに雁首をガツンとぶつけて、セリフを切り出す・・という間合いです。

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歌舞伎の「世は情け浮名の横櫛」で、切られのよさが、セリフを言うタイミングです。 キセルタバコでは長時間の喫煙はありませんから、吸っている間はおおむね無言です。そして意を決して話し出す訳ですが、観客にもそのタイミングがよく分かって好都合なのです。 ひょっとしたら、パイプをくゆらせる、ジェレミー・ブレット演じるホームズがしゃべり出すタイミングに近いかも知れません。

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喫煙が記号として意味を持つ・・と言う点では、女性が吸うタバコの意味は特別です。映画女優はたいてい美人ですし、清楚で聡明なイメージを持っています。その人たちにスレッカラシやアバズレの役を演じさせるには工夫が要ります。

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一つはセリフの言い回しというか言葉遣いですが、もう一つは喫煙です。 私は美しい女優が突然タバコを咥えたりするとドキッとします。 そして少し落胆します。 役の上での喫煙は仕方ないとしても、実生活でもタバコを吸うと聞くと、さらに興ざめします。

他界した原節子は愛煙家だったそうですし、倍賞千恵子がタバコを吸うと聞いて、がっかりした記憶があります。

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いずれにしても、昔は女性の喫煙というのは、男勝りのウーマンリブの女性か、スレッカラシか不良少女・・という役柄を説明するのに役立ったのですが、女性の喫煙率が男性に伍してくると、この演出方法は使えなくなるかも知れません。

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いずれにしても、喫煙を格好いいと思わせる演出は、今のご時世ではご法度です。主人公や善玉の役者がタバコを吸う場面は、これから許可されなくなるでしょう(悪役の喫煙は認められるかも知れませんが・・)

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そうなると、シャーロック・ホームズは、パイプをくゆらせる代わりに、禁煙飴をワトソン君と分け合い、アラン・ドロンはチャールズ・ブロンソンのタバコに火を点けるのではなく、代わりにチューインガムを手渡す場面で映画が終わるかも知れません。

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それでは全く詰まりません。

今、映画界では、誹謗や侮辱につながるセリフはいけないということで、言葉狩りが進んでいます。 そしてタバコのシーンもご法度になります。 その内、飲酒のシーンも不可となるかも知れません。

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ピューリタン的な潔癖さもいいですが、映画では露悪的存在を表現する必要もあります。 このままでは映画がますます窮屈になります。

この問題は何とかならないものか?と私は考えます。

なお、ちなみに私オヒョウは全くタバコを吸いません。


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