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【 お酒を飲む仕草 】 [映画]

【 お酒を飲む仕草 】

 

男性の俳優のみに求められて、女優にはあまり求められない、一つの演技があります。それはお酒を飲む仕草です。そしてどういう訳か、日本の俳優にはお酒を飲む演技がへたくそな人が多いように思えます。

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例えば、究極の不器用さが独特の味わいを出した名優 笠智衆は下戸で全くお酒が飲めませんでした。その彼も宴席でお酒を飲む演技をせねばなりません。お酒の代わりに水が入った杯を飲み干す訳ですが、実にまずそうに飲みます。小津安二郎監督から、「水を飲んでいるようにしか見えない」と評され、何度撮り直しても、やっぱり、まずい水を、いやいや飲んでいるようにしか見えない演技だったそうです。

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それに比べると、「秋刀魚の味」で共演した東野英治郎などは、国産ウィスキーをありがたがって飲む酔っ払いの演技が印象的でしたが、これもわざとらしさが目に付きました。

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本当の酒飲みの演技とは、観客がそれを観て、自分も酒が飲みたくなって、喉をゴクリとやるぐらいでなくてはなりません。そこに行くと落語家はたいしたものです。

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落語家は、前座時代に、食べ物が登場する噺で、いかにもうまそうにその食べ物を食べる演技を修行します。「まんじゅうこわい」の噺の後は、客席で饅頭を求める声が次々と出るようでなくてはなりません。 そして落語には酔っ払いが登場する噺が特に多い訳ですが、こちらも同様に、おいしいお酒にありついて喜んでいる飲兵衛をどう演技するかが重要です。おいしい酒を飲む男の演技を、未成年の前座の落語家が、練習する訳です。

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そもそも日本でのお酒を飲む演技は、お酒を飲むことではなく酔っ払っていることに主眼を置いた演出です。最近は減りましたが、昭和の時代のドラマでは、なにかあるごとに酒を飲んで、本音を語ったり、和解したりする場面が多く登場しました。しかし、それらのシーンでは、ひたすら酔うことを演じるのであって、お酒を味わう演技はないがしろにされたのです。

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一方、外国映画に登場するお酒を飲む演技は、しばしば見事です。彼らの演技は酔っ払いを演じることではなく、お酒を味わう演技です。

例えば連続TV映画「刑事フォイル」で主人公のフォイル警視正を演じるマイケル・キッチンの演技は秀逸です。

舞台は、戦争中で物資窮乏の中にある英国の田舎町の警察署。初老の同僚が、退職を告げに執務室に現れ、「何か無いか?」と尋ねます。主人公は「少しならある」と答え、書類のキャビネットの奥から隠しておいたスコッチウィスキーのボトルを取り出します。もう幾らも残っていません。それを2つの小さなグラスに少しだけ注いで、唇をグラスにあてがい、舐めるようにして口に流し込みます。そして頬を膨らませて、噛みしめるように口に含み、無表情のままで味わいます。 少量ですから、決して酔いはせず、ウィスキーの味を楽しんでいます。

しみったれた・・というかケチ臭い飲み方ですが、それでいいのです。第二次大戦中の物資が不足する中で、貴重なスコッチを大切そうに旧友と飲む仕草に、真実が表現されます。

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無言の演技ですが、この男は本当にウィスキーが好きなのだ・・・と納得させる演技です。主人公は警視正ですから、かなり社会的地位のある紳士です。それでも戦争中はウィスキーを惜しんだのです。 映画007シリーズでは、チョイ役で登場していたマイケル・キッチンに主役をやらせると、こんな名演技をするのか・・と思った次第です。

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話は脱線しますが、警察署の執務室で勤務中に飲酒をするのはどうか?という問題があります。この点は英国やヨーロッパはかなり寛容なようです。オヒョウも出張で欧州の会社を訪問したのに昼間からお酒を出され、午後は仕事にならなくて困ったという経験があります。 逆に、日本の製鉄所に来た来客に昼間はお酒を出せなくて申し訳ないと説明したこともあります。

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一方、禁酒法時代も経験した米国はかなりお酒に厳しいようです。 よく知られた話ですが、英国海軍は軍艦の中にお酒を持ち込み、航海中でも飲んでいました。一方、米国海軍は艦の中での飲酒はご法度で、その代わり、陸上には酒保を設けて、陸にいる時は、存分に飲んでよいという方針のようです。

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日本の場合、戦前は英国海軍を範としたので、航海中の飲酒は可でしたが、戦後の海上自衛隊は米国海軍流なので、航海中の飲酒は不可なのだそうです。

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では日本のお役所は、飲酒が可なのか不可なのか? 以前中央官庁にいたY君にきくと、かつては(定時を過ぎて)夕方になったら、どこかから一升瓶を持った男が現れ、飲み会になってしまうこともあったとか。 今はどうか分かりませんが。

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話を、お酒を飲む演技の話に戻します。

ウィスキーを口に含んで味わう演技は、連続TV小説「マッサン」でもさんざん登場しました。しかし、これはお酒を楽しむのではなく、研究の一環ですから、ちょっと違います。そして、こちらは多弁でいけません。

玉山鉄二が、やれスモーキーフレーバーがどうとか、まずいとかうまいとかしゃべりすぎます。本当にウィスキーが好きなら、黙って飲むはずなのに・・・。まあ、ウィスキー研究が仕事なのだから仕方ありませんが。

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日本のTVドラマでは、飲酒の場面は随分減りました。その代わりという訳でもありませんが、食事の場面が実に多いのです。 日本の家庭では、家族が会話を交わすのは食事の時ぐらいだから、ホームドラマではどうしても食事の場面が多くなるのか?と思いましたが、そうではないようです。 ある脚本家の話では、人は物を食べている時に、一番気持ちが落ち着き、安らぐとのこと。観客に、なるべく安らいだ気持ちでホームドラマを見てもらうには、食事の場面を多くするのが好都合だとのことです。

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それなら、もっとおいしそうに食べればいいのに、登場人物はもっぱら会話に集中し、あまり食事を楽しんでいるように見えません。折角だから、お酒を飲む演技と同じように、おいしそうに食べればいいのに・・。

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それともリハーサルのやり直しで、食べ過ぎ、食事がもはや苦痛になった状態で本番を撮るからなのでしょうか?

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日本の俳優たちは、お酒をまずそうに飲むだけでなく、ごちそうをおいしそうに食べる演技も下手なようです。

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若山牧水の、「白玉の 歯にしみとおる 秋の夜の 酒は静かに飲むべかりけり」という歌がありますが、誰かこれを無言で演じる俳優はいないものか? と思います。

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ところで、主に男性俳優に求められるもう一つの演技は、タバコを吸う仕草です。こちらもタバコの害を問題視する風潮のため、映画やTVドラマで見かける機会は随分へりましたが、重要な演技です。

 

それについては、次回に管見を述べます。


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