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【 まれに見る ダラケ?について考える 】 [金沢]

【 まれに見る ダラケ?について考える 】

NHKの朝の連続TV小説の「まれ」に注目しています。私の出身地である石川県が舞台であることも理由ですが、低迷する大河ドラマと違い、最近、朝の連続TV小説は面白くて人気があるのです。

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人気がある理由のひとつは、東京や大阪のような大都会だけでなく、地方を舞台にして、登場人物の中に、そこに生きる人々を上手に織り込ませる演出の手腕です。朝の連続TV小説の魅力の1/3はヒロインを演じる女優の人気と器量、1/3は原作のストーリー、最後の1/3は演出と脚本だと思います。ここ数年は、その演出と脚本で成功していると、私は思います。

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地方を舞台とするからには、その地方独特の方言を取り上げ、そのキーワードを流行語にするのが話題づくりの早道です。 三陸を舞台にした「あまちゃん」では「ジェジェジェ!」、 山梨が舞台の「花子とアン」では、「コピッと」、広島県竹原の出身者が多く登場した「マッサン」では「じゃけぇ」でしょうか? それが、能登が舞台の「まれ」ではどうなるか?

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私は、今回、キーワードとなる方言は「ダラ!」ではないかと思います。「ダラ」とは鱈ではなく、バカもしくは阿呆、間抜けに近い、罵りの言葉です。 「ダラ」ではなく「ダラブチ」と言うこともあります。 自慢にもなりませんが、私などは子供の頃、失敗をする度に、親から「本当にダラブチやねぇ」と言われて育ちました。ドラマの中では、さしずめ、大泉洋が演じる父親が「このダラブチ!」と罵られる対象でしょう。

「バカか?」という疑問文での非難の言葉に相当するのは、「ダラケ?」です。

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しかし、そこにひとつの疑問があるのです。一地方の方言の象徴というかキーワードとして用いる言葉に、罵る単語を用いるのはいささか下品ではないか? しかもその方言に詳しくない俳優/女優がその言葉を口にするのは、果たして愉快なことなのか?不愉快ではないのか?

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そこで私は思い出します。竹原市も登場した「マッサン」が、当地広島では今ひとつ人気が無かったことを。

その理由について呉に住む人はこう解説します。

「俳優(女優)が話す、広島弁(竹原弁)が本物ではなかった。広島弁は、少し荒っぽいというか、強い口調の話し方なので、それを真似て真似しきれていないと、なんだか広島人がからかわれているというか、侮辱されたような気がして面白くなかった」。

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たしかに、真似した方言が上手でない場合、地元の人には、なんとなく不愉快なものです。 少し前ですが、民放で「ゼロの焦点」を放送した時、木村多恵が話す金沢弁が全く不自然で興ざめしたのを思い出します。 本人が一生懸命、金沢弁を話そうとする意気込みは伝わるのですが、それがかえって違和感をもたらします。それまで木村多恵という女優が好きだったのに、なんだか彼女まで嫌いになってしまいました。

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関西弁(これも、大阪、京都、神戸で大きく違いますが)や博多弁のように、なじみのあるメジャーな方言ならば、気にならないのに、地方のマイナーな方言だと気になるのです。例えば「マッサン」に登場した大阪弁の場合、堤真一の関西弁がへたくそでも、本物の大阪弁を話す西川きよしが横にいれば許せるのです。 でも金沢弁や能登弁はそうは行きません。

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作品によっては、必ず地元出身の俳優や声優を配して、指導させたり、バランスを取らせる場合もあります。例えば、ジブリのアニメ映画「海がきこえる」では地元高知出身の声優、島本須美を高知弁のコーチとして起用しています。

だから、「まれ」でも石川県出身・・いや能登出身の役者を起用すべきではないか?と思うのです。

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そこで、気がつきます。県外出身の俳優/女優でも、能登弁を上手に真似る人とそうでない人がいることに。 同じように「ダラ!」と言わせても、田中泯や田中裕子の「ダラ!」は本物なのに、他の役者が言うと、偽者と言うか、うそ臭く聞こえるのです。微妙なアクセント、イントネーションの違いです。

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でもこの違いは、役者さん本人達にはきっと分からないだろうな・・と考えた時、これは“ゲレンデの法則”が当てはまる・・・と気づきます。

“ゲレンデの法則”というのは、オヒョウの造語ですが、自分より上位の人たちの優劣は分からない・・というものです。 スキーの初心者には、自分より上手な人たちの優劣は判断できません。 オリンピック級のレーサーも、パラレルやボーゲンがやっとできるだけの人も、とにかく転ばずに斜面を滑って降りてくるのだから、皆同じく素晴らしい・・・ということになります。一方、上手な人から眺めると、転ばずに滑る人の中にも、ウェーデルンの達人もいれば、パラレルがやっとの人、ひたすらボーゲンで滑る初心者と、千差万別で、その優劣というか上手下手の序列は明らかです。

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これはスキーに限らず、多くの習い事、スポーツ、学問で成立することですが、役者さんの世界でも同じだろうと思います。方言を真似て、正確に発音することだけが役者の才能ではありませんが、このドラマの役者の上手下手は石川県人には分かるのです。本人達にはわからないだろうけれど・・・・。

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方言に限らず、言語の世界は常に“ゲレンデの法則”が成り立ちます。先日、それを感じたのは、中国語の達人達の集まりです。 オヒョウ以外は、皆さん中国語の専門教育を受けた人達で、私とは全くレベルが違います。彼ら/彼女らが中国語で話し始めると、全く私はついていけません。 しかし、その彼らの中にも、中国語の上手下手があるようです。 数多くある母音の識別、四声と呼ばれる複雑なイントネーションの使い分けなどは、日本語の方言の難しさと共通します。 さらに圧倒的な語彙の数や表現方法、地方ごとの方言の知識などで優劣がつくのですが、それはもはや私の知覚しえない世界です。

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ああ、やはり私がコメントできるのは金沢弁と能登弁ぐらいだ・・・・(あっ、それに茨城弁も)。

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ところで石川県固有の言葉である「ダラケ?」を別の場所で目にしたことがあります。それはリーダーズダイジェスト誌に載っていた小噺なのですが・・。

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ある高名な牧師がアメリカから日本に招待されて、やってきました。

長野県の高原にある教会でスピーチをしてもらうべく、お連れする途中、田舎道を走りながら、揺れる車内で、運転手が話しかけます。

「石ころだらけの道路でどうもすみません」。日本語が多少分かる牧師は、「“石ころだらけ”とはどういう意味ですか?」と運転手に尋ねます。

運転手氏は、「石ころpebble stones、“だらけ”はso manyの意味です」と答えます。牧師は「わかりました。ありがとう」と答えます。

やがて、満員の聴衆を前に牧師は話し始めました。

「このダラケの皆さん、こんにちは・・・・」、聴衆はあっけに取られ、次の瞬間大爆笑でスピーチは和やかでユーモアのあるものとなりました。

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石川県出身の私には、ダラケ“はちょっと特別な響きがあり、この小噺が少し面白く感じられます。

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やはり言葉は難しい。当分、私は知ったかぶりで中国語について語るのを止めにしよう・・・。ところで、中国語で”ダラ“は何と言ったっけ? 笨蛋(ベンタン)でいいのかな? ああ、罵る言葉の語彙には事欠かない、そんな喧騒の日々を中国で送っていたことを、私は思い出しました。


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