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【 ブルーノ・タウト的ゲテモノ 】 [金沢]

【 ブルーノ・タウト的ゲテモノ 】

 

19世紀から20世紀、日本はいろいろな面でドイツを尊敬しお手本にしてきました。

よく言われるとおり、医学や化学はドイツ流が手本とされましたし、旧陸軍もそうでした。

法律もドイツの法律が参考にされ、明治憲法はプロイセン憲法を範としました。

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昭和の時代の話ですが、東北大学の教授で民法の大家であった中川善之助先生の学生時代のエピソードを本人から聞いたことがあります。彼もドイツを模範とした人物の一人です。

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第一次世界大戦でドイツが敗北したことを受けて、専攻対象としてドイツ法学を選ぶべきか迷った時、先生から「ドイツは敗北しても、ドイツ法学は死なず」と諭されて思い直し、ドイツ法学を選んだ・・という話です。 多分、そう諭した先生は、同じくドイツ民法の泰斗である穂積重遠教授だと思います。 私はこの逸話を1回聞いただけですが、Y教授によると、金沢の人の間では、中川善之助先生のこの話は有名なのだそうです。

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中川善之助教授は金沢の出身ですが、残念ながら私の母校の先輩ではありません。

私は、この話を中川先生が亡くなる少し前、金沢大学の学長だった頃に聞きました。

ちなみに、先日、弊ブログで、国親主義について言及しましたが、この国親主義は米国の思想を導入したものです。ほぼ同時期に、中川善之助先生は少年法の思想とは別に、家族法や身分制度の観点から各自治体の青少年条例について反対していますが、こちらはドイツ流の思想によるものではないか?と考えます。

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中川教授が教鞭を執った東北大学にはその名を冠した中善通りがありますが、なぜか現役の学生である、私の次男はその存在を知りませんでした。

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以上、前置きというか、脱線が長くなりましたが、ここからが本題です。

日本人がドイツを尊敬し高く評価する一方で、ドイツ人で、日本に憧れ日本文化を高く評価した人たちもいます。しかし、第二次大戦前の人たちについては、少しフィルターにかけて考える必要があります。 ナチスドイツが同盟国である日本におべっかを使い、日本人の心に取り入るために、日本文化を賛美した可能性があるからです。 実際、ナチスドイツの人たちで日本文化を本当に理解した人がどれだけいたかは疑問です。

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だから戦前のドイツ人で、非ナチス・反ナチスの人でなおかつ、日本文化を愛した人を探さねばなりません。 そうなると、やはり「日本美の再発見」を著したブルーノ・タウトとなります。彼は特に昔からの日本建築の素晴らしさに最初に感動した西洋人かも知れません。彼は桂離宮を「発見」し、東北地方の美を「発見」し、飛騨地方の「美」を発見し、「伊勢神宮」を発見しました。

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今、TVでは、日本の古民家を紹介したり、社寺仏閣を評価する番組が増えています。

一昨年の伊勢神宮の式年遷宮もブームのきっかけのひとつかも知れません。

しかし、それらの紹介番組に、古くからの日本美(特に建築の美しさ)を、最初に海外に紹介したブルーノ・タウトの名前は、なぜか全く登場しません。

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今、中学生向けの教科書に採用されている、京都や奈良を含めた日本の伝統美を紹介する文章は、和辻哲郎か亀井勝一郎あたりだと思いますが、彼らの文章は少々哲学的で分かりにくいのです。 むしろ直截的な表現で明快に語るブルーノ・タウトの「日本美の再発見」の方がいいのになぁ・・と思います。

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その日本美を愛したブルーノ・タウトが蛇蝎のごとく嫌ったのは、無神経な「和洋折衷」と無分別な洋風建築です。美意識のかけらも無い・・というか、無思慮に、日本的なものと西洋的なものを合体させた建築や品物、或いは単に西洋を模倣しただけの下品なエピゴーネンを、彼は「ゲテモノ」と呼びました。 彼の著作は、原文はドイツ語で、私は日本語訳で読んでいるのですが、ゲテモノ・・の元の言葉を知りたい。

多分、Ein Fälschungぐらいだと思いますが、私は中国語と同じくドイツ語にも暗いので、自信はありません。

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私は、彼の「日本美の再発見」を読んでから、彼の価値観が、私の美意識にとってひとつのモノサシになっています。東北や北陸を旅する時など、どこかに「ゲテモノ」は無いか?という目で見てしまいます。

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すると、悲しいかな、日本は「ゲテモノ」だらけなのです。例えば、旧赤坂離宮の迎賓館です。これはフランスのベルサイユ宮殿の模倣です。政府はこれを迎賓館として国賓級の客人を招きます。しかし、彼らはフランスの本物を見ています。だから、日本の迎賓館を見て驚きます。でも決して褒める訳にはいきません。どんなに豪華であっても、美しい装飾を施していても、その建物は偽物だからです。タウトなら「ゲテモノ」と一刀両断にしたはずです。

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もし、中国が北京の郊外・・・例えば頤和園あたりに、日本の桂離宮のコピーを作り、外国の要人を招いたらどうでしょうか?おそらく誰も褒めず、密かに中国を軽蔑するだけでしょう。同じ事を日本はしているのです。

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今、新幹線の開通により、世の中はちょっとした北陸ブームです。私の故郷石川県が多くのメディアで紹介されるのは、決して不快ではありません。でも、何時の間にか私の知る石川県、あるいは金沢がちょっと変質しているようです。 近江町市場などは庶民の台所で、もっと地味な存在だったのですが、何時の間にか観光客相手の派手な・・もっと言えばケバケバしい存在になっています。

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いろいろなレストランや新しい料理も紹介されています。例えば、ピザパイですが、なんと九谷焼の皿に載せてあります。ピザの上にはなんと金箔が載せてあります。

https://instagram.com/p/0g8thegMnr/

https://ja-jp.facebook.com/moriyamanapoli

名前は「加賀百万石 金のピザ」です。

他人の作品を貶すのは、このブログの本意ではありませんが、ピザと九谷焼のとりあわせは、どうなのでしょうか?

石川県といえば、九谷焼、輪島塗、金箔・・という、ステロタイプというかワンパターンの思考は観光客相手なら仕方ありませんが、そればかり、前面に打ち出すのはいかがなものか?

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そもそも加賀百万石とか金箔というものは、奢侈の象徴です。 一方、ピザはイタリアの農家の昼食用料理から始まった、もともと質素な料理です(今、日本では結構値段が高いですが)。そのアンバランスを作者はどう考えているのか?

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ブルーノ・タウトなら、あまりに日本的な九谷焼は、やはり日本料理用だと考えるでしょう。その器に無理やりイタリアのピザを載せることを彼は評価したでしょうか?あるいは食べ物と器の関係に特にこだわった北大路魯山人なら、なんと言うでしょうか?

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北陸地方、或は石川県だけのピザをアピールするなら、金箔など載せずに、能登半島で獲れた新鮮な魚介類を載せたシーフードピザにするとか、加賀野菜をトッピングしたピザにするとか、石川県だけで生産されるフグの卵巣を載せるとか、あるいは富山湾のホタルイカや白エビを載せるとか、いろいろなアイデアがあるはずです。器はイタリアから取り寄せた、素朴なお皿でいいのです。

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まあ、輪島のアワビをスライスしてピザに載せて美味しいかどうかはわかりません。フグの内臓を載せるとなると、これは海のゲテモノを載せることになりますが、金沢のゲテモノピザ・・というのも、ひょっとしたら評判になるかも知れません。ブルーノ・タウトも、この手のゲテモノなら、歓迎するのではないか?と私は思います。


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