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【 ジャーナリストの死 Je suis CHARLIE 】 [フランス]

【 ジャーナリストの死 Je suis CHARLIE

パリにある雑誌編集部がイスラム過激派のテロリストに襲われ、雑誌編集者やイラストレーター、警官などが死亡するという事件が起こりました。さらに郊外では、翌日以降も逃走する犯人と警官隊の銃撃戦があり、最終的に犯人が射殺されるという劇的な幕切れになりました。

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実は、フランスでは時々テロ行為があります。地下鉄の駅が爆破されたこともありますし、TGVの列車の中で爆弾が炸裂したこともあります。日常的とまで言うと言いすぎですが、さほど珍しくなく、日本での報道もベタ記事です。

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しかし、今回のテロでは、日本のTV局は、ニュース速報を流し、連日、9時台、10時台のニュース番組のトップで報道しました。その理由は幾つかあるでしょう。

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12人という多くの犠牲者が一度に出たこと。

.今話題のイスラム国からみである可能性があること。

.雑誌社が襲撃され、編集長以下、多くのジャーナリストが殺害されたということ。

.パリの市街地で銃撃戦を行い、犯人が逃走して人質をとって立て籠もるという、映画もどきの派手な展開だったこと。

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マスコミは、当然ながら、同業のジャーナリストが襲われた訳ですから、言論と表現の自由に対する脅威という扱いで、他のテロ事件と区別して大々的に報道する必要があったと思われます。

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しかし、よく考えるとこの事件は単純ではありません。

日本での報道も、少し混乱しています。 TV朝日の報道ステーションなどは、このテロで、フランスのイスラム教徒が迫害されるのを懸念する・・という、いつもの加害者側が実は被害者になるという倒錯した思考で報道しています。

従来、反権力を旗印にする日本のマスコミは、テロリストに対して幾分同情的でした。

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表向きはテロ活動に反対すると言いながら、パレスチナゲリラのハイジャック犯の肩を持ったり、西側諸国に対するテロ活動については「盗人にも3分の理がある」という考えを紹介しました。イスラム過激派についても、彼らの行為は歴とした犯罪であるにもかかわらず、控えめな客観報道にとどまります。

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だから言論機関への襲撃だというのに、イスラム過激派と思しき犯人をなかなか非難できないのです。

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言論機関・・マスコミへの襲撃というと、日本国内で思い出されるのは、朝日新聞阪神支局を赤報隊と称する右翼ゲリラが襲撃した事件、そしてビートたけし率いる「たけし軍団」が講談社へ殴り込みをかけた「フライデー事件」です。どちらもマスコミを武力で攻撃する卑劣な行為です。

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無論、両者では犯罪の重さが全く異なりますが、言論と表現の自由への暴力的な挑戦という意味では同列です。しかし、マスコミの対応は、かなり違いました。

阪神支局の事件では、新聞社は正義の存在であり、犠牲となった小尻記者は英雄となりました。彼の遺児であるお嬢さんが成人するまで、かつての同僚やマスコミ人は、遺族を温かく見守り、それを美談として、TVで報道しています。

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一方「フライデー事件」は講談社の非を挙げる報道が多く、「フライデー」を廃刊に追い込もうとする意見や写真週刊誌そのものを否定する意見が、同業のマスコミ、特にTV番組で語られたのです。

私などは「ちょっと待て。そりゃ確かに『フライデー』は下品でお粗末、ちっぽけな雑誌かも知れない。だけど、戦前、言論が弾圧された時代に、潰されそうになった雑誌や新聞を守ろうと、先人がどれだけ苦労したかを考えると、簡単に廃刊にすべきだ・・などとは到底言えまいに」と思いました。

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TV局は、売れっ子で実力者だったビートたけしにおもねろうという考えで、講談社の方を非難したのです。 活字メディアの方も、当の講談社以外は、犯人であるたけし側に付きました。 マスコミの良心も言論の自由もへったくれもあったものではありません。本来なら、マスコミはどちらの事件でも犯人を非難すべきだったのです。

そのことを考えると、今回の事件でも、日本のマスコミは、毅然と犯人を非難すべきなのです。

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フランスでは、マスコミは勿論、一般市民もこのテロに対して明確にNOを突きつけています。プラカードには、“Je suis CHARLIE”と書かれています。「僕もシャルリーと同じだ、攻撃するなら僕を襲え」ということです。 イスラム過激派に対して挑発的だったこの雑誌と同じように挑発的なメッセージで犠牲者と雑誌社への共感を示しているのです。 どうでもいいことですが、フランス語を知らない私は、どうしてもシャルリーではなく、英語風にチャーリーと呼びたくなります。

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でも、そう言いながらも、私も困惑します。 襲われたマスコミを応援すべきなのか?卑劣で凶暴なテロリストの言い分にも耳を傾けるべきなのか?

襲われた雑誌社とそこの週刊誌「シャルリー・エブト誌」は、本当に守るべき「言論と表現の自由」の対象だったのか? シャルリー・エブト誌の元の名前は「アラキリ」つまり日本の切腹を茶化した名前です。ハラキリをするクレージーな日本人と同じようにエキセントリックな思想だよ・・と言いたいのでしょうが、日本人の私としては、「切腹する人の精神も理解していないくせに勝手に茶化すな」と言いたい気持ちです。

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仄聞するところでは、この雑誌は、イスラム教の預言者ムハンマドを侮辱しただけでなく、カトリックもプロテスタントも、風刺画の形で攻撃しています。なんらかの思想性があるなら、むやみやたらと四方八方に噛み付くのでなく、ある方向にのみ批判を加えるはずですが、そうではありません。 

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例えばイスラム原理主義を批判・非難するなら、西欧式の人権論や、民主主義(まあ、フランスなら自由・平等・博愛の精神)から、それと相容れないイスラム原理主義を非難すべきでしょう。

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女性の人権を認めず、女性が教育を受ける権利を認めず、民主主義を否定し、不条理な戒律を設け、異教徒の命はこれを奪ってもよく、異教徒を攻撃することは聖戦だ・・とするイスラム原理主義が、西欧民主主義と鋭く対立する点を、論理的に衝けばいいのです。

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しかし、この雑誌は下品な風刺画(カリカチュア)を載せるだけです。そこが浅いというか、ひょっとして、文字の読めない読者のための雑誌なのでしょうか?

私は、下品なマスコミが嫌いです。

かつて、昭和天皇が崩御した際、英国の大衆紙「The SUN」は、1面に「天皇の墓の上で踊れ!」という見出しを掲げ、Hirohitoと書かれた墓の上で乾杯する風刺画を載せました。この新聞は、第二次大戦の被害者で日本を憎む英国人へ迎合するために、この表現を用いたのでしょうが、それが日本人を侮辱するということには無頓着でした

その「The SUN」を所有するのは、マスコミ王マードック氏で、彼は一時期、孫正義と組んで、TV朝日を買収しようとしました。 私は、マードックだけには日本のマスコミを渡したくない・・としみじみ思ったものです。

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第二次大戦の枢軸国側の元首またはリーダーで戦後も地位に残り、平穏な死を迎えたのは、昭和天皇とスペインのフランコ総統の2人だけです。 フランコの死に際しては、全く冷静だった新聞が、昭和天皇の崩御に対して、どうしてああも無礼だったのか?個人的には平和主義者で、親英米思想だった昭和天皇の人格をまるで知らないのは仕方ないとして、天皇を敬愛し、天皇制を大切に思う日本国民全員への非礼・侮辱になるとは思わなかったのか? それとも、「The SUN」は、日本人全体を侮辱したかったのか?

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挑発的な見出しは大衆受けし、売り上げ拡大に寄与するかも知れません。社会の全ての事柄・人物に対して批判的であることこそ、ジャーナリズムの真骨頂だと考える人もいるかも知れません。 でもまじめな言論人はい徒らに過激で挑発的なレトリックは慎むべきです。

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仮に相手が無茶苦茶な人物だったとしても、一国を統べる元首、或いは全世界的な宗教の指導者に対して、マスコミはそれなりの礼を尽くすべきでしょう。それはその背後にいる、多くの国民や信者を愚弄することを避けるためです。

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かつて、日本では「君辱められれば、臣死す」と言いました。イスラムでは、ひょっとしたら「君辱められれば、臣相手を誅す」ということなのでしょうか? アラビア語で何と言うかは知りませんが・・。

殺された、挑発主義のジャーナリストに欠けていたのは、その辺りの、相手への理解だったのでは?と、私は思います。


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