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【 兵站論 】 [雑学]

【 兵站論 】

 

南スーダンで国連の指揮下にある韓国軍が弾薬の不足を懸念して日本の自衛隊に小銃弾1万発の提供を求め、韓国と日本の両方で問題になっています。日本は政府の武器輸出三原則に違反するとか、果ては憲法違反だという意見が出され、一方、韓国では「仮想敵国である」日本から弾薬の供給を受けるなどとんでもない・・・と全くかまびすしいことです。

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相手側のスーダン反政府軍も、相手が弾薬のやり取りで揉めているなんて驚きだったでしょう。 それにしても、アフリカに出かけて、四方敵に囲まれた状態で作戦を行うというのに、最初から弾薬が足りないというのはどういうことでしょう?

期待した補給路が絶たれたという厳しい事情もありますが、最初に見積もった必要弾薬量に錯覚があったと考えるべきです。

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韓国軍は一体何を考えているのか? 韓国軍は、国外で戦った経験が複数回あります。その昔ベトナムで米軍と一緒に戦闘した訳ですが、しかし、それは米軍隷下での作戦であり、兵站・補給は米軍の協力があったはずです。イラク戦争の時はどうだったか分かりません。だから兵站・補給の重要性が韓国軍内で正確に理解されていなかったのか?

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兵站が重要なことは古今東西、すべての戦争に共通です。 明治時代以降、日本が戦った戦争では、兵站確保ができた戦争は全て勝ち、兵站が確保できなかった戦争はすべて負けています。 具体的には、日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、満州事変、日華事変は勝利でした。 兵站が破たんした第二次ノモンハン事件、太平洋戦争は敗北しています。 正確には、陸軍の弾薬補給に苦しんだ日露戦争は、兵站確保に成功したとは言えませんが、戦争の結果も負けなかった・・というレベルで大勝した訳ではないので、兵站確保と勝敗の相関からは除外すべきかも知れません。

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勿論、勝敗は兵站だけで決まる訳ではなく、ありとあらゆる要因が関係します。しかし、兵站はやはり重要で、第二次大戦の敗因の分析を通じて、日本の自衛隊は詳しく研究しているはずです。 しかし、専守防衛で、海外で戦闘することを念頭に置かない自衛隊としては、表向きはその種の研究を明らかにできないはずですが・・・。

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一方、兵站の重要性についてあまりに無頓着ではないか?と思われるのは、前述の韓国軍のほかでは中国の人民解放軍です。

中国は国力(経済力)の増大化に伴い、勢力範囲を広げる・・つまり軍隊が行動する範囲を広げようとしています。海軍の場合、沿海型の海軍から外洋型海軍を指向し、西太平洋全域とインド洋を支配下に置こうとしています。大東亜共栄圏下の日本みたいです。でもその際に必要なものは何か?

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一つは、洋上給油をはじめとした、海上での戦闘艦への補給です。最近、太平洋で演習した中国海軍は、手際よく洋上補給に成功したとのことですが、毎回うまくいくのか? 中国海軍では、練習用空母「遼寧」を中心とした艦隊が、北(青島)から、南(海南島)を巡る演習航海にでていますが、それを米軍の軍艦が監視しています。一度は、米海軍のミサイル巡洋艦カウペンスに、中国の揚陸艦が接近して接触しそうになったほどです。 では米軍は何を監視していたか?

無論、空母を護衛する艦隊の対潜哨戒能力を観察することも重要ですが、補給用の随伴艦から空母に適切に補給がなされているかを確認したはずです。輸送船を何隻随伴し、何をどれだけ補給したか・・です。

中国の遼寧は原子力空母ではなく、大飯喰らいの内燃機関を持ちますから、頻繁に燃料を補給する必要があります。今のところ艦載機の訓練は活発ではなさそうですが、航空燃料の補給も必要です。それができなければ、この旧式の空母は全くの張り子のトラです。旧式空母では5千人くらい乗艦しているでしょうから、必要な糧食も膨大になります。

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日本であれ、米国であれ、航空母艦を運用した国は、その前に戦艦で世界中を巡り、洋上補給や外国の寄港地での補給などの経験を積んでから、航空母艦の運用を開始しています。沿海型海軍から脱皮を図りたい思いは理解するとして、戦時に航空母艦を中心とした艦隊をハワイまで進出させる能力が中国海軍にあるかは疑問です。

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補給という点でいえば、中国人民解放軍の陸軍の能力も甚だ疑問です。

ご承知の通り、近代的な陸軍は昔のように兵隊が歩いて進軍することはありません。車輛での移動になります。 中国は、近年、戦車の数を大幅に増やしていますが、この戦車こそが、補給・兵站のポイントとなる兵器です。

世界的にみて、戦車が勇ましく高速で進軍したのはいいけれど、補給が続かず、孤立して撃破された例が多くあります。

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第四次中東戦争は、その途中経過が日本のマスコミであまり報道されなかった戦争ですが、作戦の途中で、砂漠に進軍したアラブ連合軍が、突如戦車を止め、その周囲に防塁を築いたという断片的な報道が入りました。 アラブ連合軍を支持していた日本の左派系のマスコミは 「戦車を利用することで、簡単に、しかも強力なトーチカを簡単に構築できた。これは素晴らしいアイデアであり、この堅固な防衛線をイスラエルは容易には突破できまい」と優勢が伝えられたアラブ・エジプト軍を持ち上げる解説を書きました。しかし、一部の人は、逆にこの記事を読んだ瞬間にアラブ連合の敗北を悟りました。

「これは、戦車隊への補給が途切れたな。燃料が供給されないのか、消耗部品が供給されないのかは不明だが、動けなくなった戦車など戦力として無意味だ」

こう考えたのはかつて陸軍将校だった作家の山本七平氏です。果たして間もなく、アラブ連合は敗退を始め、結局敗北して停戦を迎えました。

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全く、同じことが、湾岸戦争で発生しました。サダムフセイン率いるイラク軍は、砂漠の中に戦車を埋め、周囲に堀と柵を設けてトーチカにしました。またしても、反米を掲げるマスコミは多国籍軍が苦戦すると予想しましたが、この戦車トーチカは一瞬で砂に埋められ、イラク軍は敗走を余儀なくされました。

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砂漠を走る戦車は、一定距離を走ると履帯(キャタピラー)や、それを支えるローラー類を全部交換しなければなりません。ですから、さっそうと砂漠を疾駆する戦車の後には、膨大な補給車輛が続いて走ることになるのです。 もちろん、これは部品が摩耗するからですが、どれくらいで摩耗するかは履帯やローラーの材料で決まります。

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もし焼き入れが不十分な鋼材で、それらの部品を製造すれば、短距離で交換する必要が生じます。場合によっては燃料補給以上に作戦の足かせになります。 交換する部品の寿命が、戦車を用いた作戦の成否を決めることにもなります。

ところが・・実に中国製の部品は摩耗が早く、寿命が短いのです。私自身は戦車でなく、建設機械の履帯やローラーについての知識しかないのですが、一般に中国製は摩耗が早く寿命が短い傾向にあります。 戦車の場合、建設機械と違い、履帯のローラーが独立懸架であること、フローティングシールではなくベアリングを使用しているなど、幾つか違いはありますが、走行システムは同じ上海彭甫という会社で製造されています。

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果たして、中国の戦車は補給なしに長距離を走ることができるのか?

そして、中国の軍部はその問題をどう考えているのか?

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部品供給・兵站の問題は、空軍の戦闘機についてもあります。

一般に、旧ソ連の戦闘機(ミグだとか、スホイだとか)のエンジンの寿命は、西側の戦闘機より短いとされています。 その理由は、部品材料の耐熱性や、工作精度などの違いと思われますが、詳しくは分かりません。

かつて中東上空でマッハ3.2の速度を出して、西側世界を驚愕させたMig25は、基地に戻った後、ツマンスキーエンジンを全部交換しなければならなかったそうです。

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まして、中国製のエンジンはロシア(旧ソ連製)のエンジンに比べて短寿命だとされています。もし中国が空軍の戦闘機を作戦行動させたとすると、短期間の内にエンジンが足りなくなり、可動率は大幅に低下することになります。

今現在、中国の空軍の航空機の数は、日本の航空自衛隊の航空機の数の10倍以上です。 しかし、もし戦争となれば、撃墜などによる消耗の他に、部品供給の能力差から、その戦力は比較的短期間の内に拮抗する可能性があります。

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まして、中国大陸から離れて、遠隔地で空軍が行動するとなると、補給が最大のネックになります。 中国の戦車も航空機も国外では、常に補給の問題を抱えます。

海軍も、その実力は未知数です。

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でも考えてみれば、その方がいいのかも知れません。どの国も、表向きは自国の防衛のための軍備であり、外国を侵略する意図は無い・・と言います。

もし、中国の人民解放軍や韓国軍が、兵站に問題を抱えたままであるなら、これは日本に侵攻する可能性が少ないということで、我々は安心できます。

弾薬が足りないから、小銃弾を貸してくれ・・と自衛隊に頼んでくる軍隊の方が、いいのかも知れません。


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夏炉冬扇

お早うございます。
今日から畑始めです。
とても面白く読みました。
なーるほど、単純ではないんだ。
by 夏炉冬扇 (2014-01-06 09:03) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇様 
コメントありがとうございます。
昔はお隣同士で、味噌醤油、お砂糖の貸し借りぐらいはしていましたが、
銃弾の貸し借りというのは物騒ですね。日本の自衛隊に弾薬を頼んだ韓国軍の指揮官はどんな気持ちだったのでしょうか?追加情報がないので少し心配です。
またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2014-01-10 01:27) 

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