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【 褐色の道路 】 [ベトナム]

【 褐色の道路 】

 

飛行機はベトナム中部のダナンのあたりから陸地の上空に入り、緑の森の上を飛びます。熱帯の大地の上には、積雲がところどころに浮かび、地上にはサーマル(熱上昇気流)が随所に発生していることが伺えます。グライダー乗りがみたら、喜びそうな風景です。

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そこに時々、緑の大地を引っ掻いたように、建設中の高速道路が現れます。

上空からだと、縮尺が正確ではないのですが、概ね片側2車線から3車線の幅の、草木の無い空間が一直線に森を切り裂いています。色は熱帯固有の明るい赤褐色のラテライト系の土壌の色(早い話が赤土の色)です。・・・ということは、未舗装なのであり、まだ建設中なのだ・・と思っていると、土埃をあげて自動車も走っています。ということは、既に供用区間なのかな?とも思え、だんだんわからなくなってきました。それと同時にこれは面白いぞ・・と思えてきました。

ベトナムには未舗装の道路が残っている。これをどう舗装していくのか?

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今、世界の開発途上国には、中国の資金がばら撒かれています。特に資源があると思われる国には集中的に援助し、その採掘権をわがものにしようとします。また資源の無い国に対しても、彼らの盟主が誰で、国連総会ではどの国の意見に賛成票を投じるべきかを分からせるために、資金援助を惜しみません。

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これは、最近中国が経済的に豊かになったからですが、実は大昔からのスタイルです。冊封体制下、中華の中心にあるシナは周囲の国からの貢物を上回るおみやげを与えて、自らの権威を保っていました。 だから柵封の国も朝貢する国も、シナを讃えて自らのプライドを捨てる代わりに実利を得ていました。 それが近代になって廃れていたのは、単に中国が貧しく、周囲にお金をばら撒けなかっただけのことです。

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しかし、中国にまつろわなかった国が2つあります。日本とベトナムです。ベトナムと中国の恩讐の歴史については、語るときりがないので、ここでは触れませんが、ベトナムと中国の国家関係は現在最悪です。

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中国からの援助が無いなら、ベトナムの道路建設は日本がODAで援助して行うのかな?と考えますが、よくわかりません。 そして私は、誰がお金を出すかではなく、どんな道路にするのかな?と考えてみました。

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実は道路舗装・・といっても単純ではありません。その時代の背景、その国の固有の事情が反映されます。

昭和30年代、日本の国道の多くはコンクリート舗装でした。しかし今は多くの区間がアスファルト舗装で、コンクリート舗装は一部の区間です。この切り替えは昭和40年代に進行しました。

コンクリートとアスファルト、それぞれに性能上の長所・短所がありますが、日本の場合は、それとは関係なく、モータリゼーションの進行にともなってアスファルト舗装が増えていったのです。自動車の普及、ガソリンや石油の消費量の増加にともなってアスファルト舗装が増えて行きました。

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いうまでもありませんが、瀝青(アスファルト)は石油を精製する際に取り出される一種の残渣です。石油の輸入量が増え、国内で精製される量が増えれば副産物のアスファルトの発生量も増え、そこで道路舗装が高価なコンクリート舗装から安価なアスファルト舗装に切り替わります。つまり、自動車が増えてから道路はアスファルトになるのです。中国ではこの切り替わりは2000年代に一斉に進行しました。

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しかし、東南アジアの、もともと道路の無かった国、或いは未舗装だった国では、最初からアスファルトで舗装されます。モータリゼーションが道路建設より先に来た国です。今のベトナムはそのスタイルです。でもこのスタイルが変化するかも知れません。

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世界的に化石燃料の消費量は増加傾向です。同時に原油価格も高値に張り付いたままです。当然アスファルトの生産も増えると思われましたが、ここにきて化石燃料の世界に劇的な変化が起きています。それは頁岩層から採取される天然ガスの1種(シェールガス)の台頭です。それ以外にも、油頁岩から採取されるシェールオイルや、砂まじり層から採取されるタールサンド、燃える氷として知られるメタンハイドレードといった、新顔が多く登場しています。 特にシェールガスの将来はバラ色で、米国はエネルギー輸入国からエネルギー輸出国に転換する見込みで、経済も好調です。

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もう20年も前ですが、川崎のご隠居が「アメリカは原油価格の高騰を意図的に行なっているのかも知れない。なぜなら原油価格が一定以上になれば、シェールオイルの生産がペイするようになり、米国は一挙にエネルギー輸出国に戻るから・・・」と言っていました。

当時、石油輸入国でオイルショックの度に大打撃を受けていたアメリカが原油価格の上昇を望むなど・・・まさかと思っていたのですが、それが現実になります。

ただ、違うのはシェールオイルではなくシェールガスですが・・。

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天然ガスが化石燃料の主役になれば、多くのことが変化します。

自動車に天然ガス使用車が増えれば、大気汚染は軽減し、CO2の排出量も減ります。火力発電所も同じことです。しかし、燃料はそれでいいのですが、非燃料であるアスファルトの生産が減ってしまうかも知れません。 するとアスファルト舗装からコンクリート舗装に戻るのか?

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シェールガスの登場は既にいろいろな分野に影響を与えています。

古典的な天然ガス井から採取する天然ガスは、コスト的にペイせず、生産が止まってしまいます。そのため天然ガス井から副次的に生産回収されていたヘリウムガスが生産されなくなり、世界の産業界でヘリウムガスの不足がパニックを起こしています。身近なところでは、舞浜駅でも東京駅でもディズニーランドの風船を持った子供たちを見かけなくなりました。ディズニーが風船を売れなくなったからです。

やがて、ヘリウムガスの風船はとても高価なおもちゃになるかも知れません。

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古典的な石油が化石燃料の王座から降りる時、ヘリウムガスと同様にアスファルトの生産も減り、値段が上がるかも知れません。その時、道路舗装は再びコンクリートへ戻るのか?幸いな事にセメント原料に不足はありません。

セメントには石灰石からつくるポルトランドセメントと溶鉱炉のスラグからつくる高炉セメントの2種類があります。世界的にみると、鉄鋼の生産量はうなぎのぼりであり、高炉スラグの発生量も増えています(主に中国で発生していますが・・・)。

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ですからコンクリートは高炉セメントからつくればいいのです。舗装の下の路盤材も、かつては砕石が主体でしたが、これからは高炉スラグや転炉スラグを用いれば、安価で便利です。

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ベトナムには本格的な銑鋼一貫の大型製鉄所はありません。しかし近い将来完成します。今の赤茶けたベトナムの道路はやがてコンクリートの白い道になるのか、それともアスファルトの黒い道になるのか・・・。

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ここでもう一つ考えるべきことがあります。

実は直線の高速道路は、軍用機の滑走路にもなります。高速道路の滑走路への転用を最初に考えたのはヒトラーですが、現在、アウトバーンは立体交差が多く、滑走路になりません。

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日本の場合は、高速道路はクロソイド曲線に沿って湾曲しており、しかも取り外せない中央分離帯があるため、滑走路にはなりえませんが、外国では滑走路に転用可能な高速道路をしばしば見かけます。

スェーデンや台湾では、定期的に高速道路での離発着訓練をしていますし、韓国も滑走路に転用可能な区間を持っています。 滑走路に転用される区間は上空の飛行機の窓から眺めれば一目瞭然です。 なぜならジェット機の滑走路はコンクリート舗装である必要があり、高速道路もその区間は「白い舗装」になるからです。勿論、その区間は直線です。

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ベトナムの場合はどうなるのか? もし、将来再び中国と戦争になったとしたら、中国は真っ先にベトナムの空軍基地と飛行場を破壊するでしょう。 そうなると、高速道路の滑走路転用はひとつの選択肢になります。

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次にベトナムの道路を上空から眺めた時、赤土色のままなのか、それとも黒いアスファルト舗装になっているのか、或いは白いコンクリート舗装になっているのか、ちょっと興味があります。


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