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【 田淵寿郎を探せ その3 SCMの破綻 】

【 田淵寿郎を探せ その3 SCMの破綻 】

今回の大震災では原発事故も深刻な状況ですが、他にも深刻な問題があります。

産業界におられる方は実感されていると思いますが、いろいろな製造業で部品が調達できなくなり、組立産業が軒並みストップしてしまった問題があります。更に卸売や小売も影響を受けています。当然ながら、この問題は被災地である東日本だけでなく、日本全体、更には、北米・中国にも及び、全世界的な問題になっています。被災地域の交通機関の復旧が比較的に早かったのに、こんな事態になったのは、当たり前ですが、部品工場が破壊されたからです。

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その根本の原因は、SC(サプライチェーン)の構築の仕方が間違っていた事です。

今、多くの産業では、コスト低減を目的に、中間在庫を最小限にしています。さらに、スケールメリットを追求する結果、供給元を集約し1社さらには1工場に絞り込む事をしています。

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自動車産業の場合、例えばトヨタなら、完成車の組み立て工場は愛知県や九州、東北・・と数カ所に分散しますが、特定の部品の供給基地は1箇所にします。

これは、部品の種類が多く、個々の部品について複数の生産拠点を持つのが不合理であることや、熾烈な競争をさせて生き残った1社のみに発注する方式をとっている事などが理由です。

一方、ケイレツの希薄化により、部品メーカー側は、複数の需要家から同じ部品を受注する事で、コスト合理化します。

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その結果、一箇所、一地域が災害にあって、部品の生産が麻痺すると、日本の、いや世界の自動車組立工場が停止するという脆弱性を持つようになったのです。

組み立て工場と同じ様に、部品工場も複数の地域に分散して持つのがサプライチェーンのシステムとしては安全で強靭ですが、コスト的には不利なので、無視されてきました。

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でも、この問題点は以前から指摘されていたのではなかったか?

中越沖地震の際、新潟県柏崎市にあったピストンリングの工場が停止しました。

その結果、日本中の自動車産業が影響を受け、愛知県の自動車工場から応援部隊が派遣されて復旧にあたりました。その経験は全く活かされていません。

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では、災害時の産業の安全対策はどうすればよいのか?

海外に生産拠点を持つ・・という提案を別にして、国内だけで考えた場合、ミラーリングという考え方があります(私の造語です)。

東日本と西日本、あるいは北日本と南日本で、ほぼ同じ様な生産規模で、同じ工程を持つ生産拠点を2つずつ持つという考え方です。

パソコンのハードディスクで、クラッシュというデータ破壊に備えて、重複してデータを保存する技術をミラーリングと言いますが、それと同じ事をメーカーでの生産拠点で行う方法です。

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プラントや組み立て工場を建設する際、同じ仕様の設備を複数建設する事で、全く違う工場を一つずつ建設する場合に比べて、コストを下げる事ができます。同じ施設を複数一箇所にまとめるよりは不利ですが、その場合は危険です。

日本国内の遠隔地に、同じ仕様の工場を複数建設する場合、一箇所に生産設備を集中させるより非効率なようですが、システムとしては堅牢になります。

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地震など滅多に起こらない・・と思われますが、人が亡くなる規模の地震は、実は数年に1回発生しています。地震の犠牲者がいない年が10年続くことは稀です。 自動車産業の場合、数万点の部品があり、全国の各地域で、それらをそれぞれ独占的に生産しています。それは非常に危険な事です。

膨大なデータをいれたハードディスクをバックアップ無しで使用するパソコンのようなものです。

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自動車産業は別にして、最も堅牢なネットワークを持つのは、電力供給網のはずです。

しかしなんたる事か、日本の中央部にある周波数変換所は、全能力をかき集めても100KW程度の能力しかありません。もっとも、大前研一氏の情報では、すぐに1000KWくらいに能力アップできるようです。

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サイリスタなどのパワートランジスタがあれば比較的簡単にできる設備ですが、その半導体を作る工場が今後の震災で被害を受けています。それに周波数変換時には当然ながらエネルギーロスが発生します。果たしてどうなるか?

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明治時代の先祖の失敗を、今更あげつらうのは本意ではありませんが、電力網を整備する際、東日本と西日本で周波数を別にしたことと、鉄道のゲージに狭軌を選んだ事の愚かさを思わざるをえません。

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かくなるうえは、大前研一氏の主張するとおり、揚水発電所を多数建設して、電力消費のピーク時間対応をするしかありません。もっともこの揚水発電所はそもそも安定操業が第一の原発ではきめ細かな出力調整ができないため、そのギャップを埋めるためのものです。 もし原発が否定され、全て操業を停止したら、ほとんど意味を持たなくなります。

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そして、火力、水力の一次発電システムの能力が決定的に足りなければ、二次電池である揚水発電所は意味を持たなくなります。それでも、今できる事としては、揚水発電所を建設し運用するしかありません。火力発電所も普通の水力発電所もすぐに建設する事はできませんから。

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大前氏も指摘していますが、日本最大の揚水発電所は群馬県の神流川にあります。実は、オヒョウが製鉄所を離れる前、最後のプロジェクトとして見ていたのは、この神流川揚水発電所のペンストック(水圧鉄管)用超高張力鋼板の製造です。

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史上最大規模の地震で海岸沿いの発電所が軒並み被害を受けたのに、この揚水発電所のペンストックは無事だった・・と聞いて、ちょっと複雑な気持ちになりました。東電福島第一原発の圧力容器の鋼材を製造した人や溶接した人は今どんな気持ちだろうか・・と思ったからです。

本件、以上で終わりです。




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