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【 人民元が上がってから考えるべきこと 】 [中国]

【 人民元が上がってから考えるべきこと 】 

先日、ある事情で面会した会社の社長から、中国で頻発する労働者のストライキに君ならどう対応するかね? という質問を受けました。オヒョウは「労務問題は容易に人種・民族問題に結びつくので難しい。信頼できる中国人を副総経理に立てて、交渉の矢面に立たせるしかない。日本人のトップが前面にでても、騒動を解決できる可能性が低いからだ。 最後の責任は日本人がとるとして、交渉には中国人を当たらせる事が重要だ」と答えました。

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中国にある、主に外資系企業の工場で連続発生しているストライキは主に賃上げを要求するものですが、最近になって頻発しているのには理由があります。 NHKの解説委員(名前は失念)によれば、主な理由は4点あるとの事です。

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1.中国政府が特に内陸の経済発展に力を入れ、大規模な資本を投入している。このため内陸部で雇用が発生し、沿海部の労働市場が売り手市場になった事。

2.悪名高き都市戸籍・農村戸籍の差別が緩和され、地方出身者の都市居住期限が長くなり、それなら都市住民と同じ生活を・・・と望む声が高くなった。同時に都市住民と農村戸籍者の待遇格差に敏感になった事。

3.都市の物価がじわじわと高くなっており、据え置かれている工場労働者の低賃金が問題になってきた事。

4.携帯電話で他社でのストライキによる賃上げ獲得情報が流れた事。

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どれも適切な指摘で、間違いありません。 しかしもっと言えば、そんな事は中国事情を少しでも知っている人には当然の事で、NHKの解説委員がコメントするほどの事でもない・・と思います。

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そしてオヒョウは、中国での騒動の根底には、もっと大きな理由があると思います。しかしそれに気づかない日本企業は多く、しばしば失敗しているのです。 ポイントは2点です。

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日系企業(メーカー)が中国に進出した場合、最初に直面するのは人材の確保と原材料の確保です。どちらも良質なものが大量に必要になります(当たり前ですが)。とりあえず、製品を完成させて出荷する事が第一ですから、生産性だとか効率だとかという日本の工場なら重要な項目が後回しになります。

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しかし一段落すると、日本の工場と同じような生産性・労働効率を追求するようになります。 人件費の安い中国では、合理化によるコストメリットは少ないのですが、それでも無駄は許されません。そこで、IE手法を導入し、作業に冗長な部分がないかチェックします。設備の段取り替え時には、背後にストップウォッチを持ったスタッフが立ち、所要時間を確認し、目標を定めたカイゼン活動を指導します。

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それらの効率改善は、理屈にかなったものですが、中国人従業員にとっては、労働強化以外の何物でもありません。 仕事に自分たちのペースを持っている中国人に、作業効率を上げろというのは自尊心を傷つける事にもなります。

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そのデリケートな部分は、日本人経営者が説明する必要がありますが、それが苦手な人が多いのです。中国語だけは流暢だったり、或いは上手な通訳を使う経営者(総経理)はいても、相手の琴線に触れる話し方で訴える人がいないのです。 多分、根底には彼らが中国の文化に対して敬意を払っていない・・という事があるのだと思います。中国の工場を単なる生産拠点として考えビジネスライクな発想しかないと・・ストライキにあいます。

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もうひとつの点は、有為の中国人はことごとく上昇志向が非常に強いという事です。彼らの多くは、自分のそれまでのキャリアの棚卸をします。例えば、この2年間に、どんな技能を身につけたか、どんな資格を得たか・・とか履歴書に書けるポイントを幾つ増やせたかに拘ります。

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そうです。上昇志向の強い彼らは、しばしば自分の履歴書を書き直しているのです。これは大学卒のエリートだけでなく、働く人全てがそうです。彼らが最も軽蔑するのは、日々を無為に送り、その日の収入さえ確保できればいい・・というフリーター的な生き方です。

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しかし、自動車工場や家電製品の工場では、流れ作業の中で機械的な仕事をこなすだけです。 オートメーション化した職場は、生産効率を極大化しますが、そこで働く人のキャリアを上げるものではありません。本田や富士康で働いている間、履歴書に追記する項目は増えず、空欄になります。 職業人としてなんら成長できないまま、年月だけが経過する仕事なら、せめて貯金できるだけのサラリー(工資と言います)をよこせというのが、彼らの主張です。単なる金額の多寡の問題ではありません。

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今回の賃上げ要求ストは、外資系の工場で発生していますが、同時に流れ作業の加工・組立工場で発生しているとも言えます。中国人社員の教育を考え、社員と共に成長する事を考える会社では、あまりストライキはおきないでしょう。

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もっとも、コストをかけて、社員を教育し資格を取らせたら、条件のよいライバル会社に転職されてしまった・・・という事も頻繁にあります。でもそれはそれで、仕方ないことと割り切るべきです。 度量の大きい太っ腹の会社になる事がストライキを防止する、本当の対策だとオヒョウは思うのです。


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夏炉冬扇

お早うございます。
お話興味深く拝聴。
そうすると「より安い」所へ移転しても同じことが起きますね。
by 夏炉冬扇 (2010-07-01 06:43) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇様 コメントありがとうございます。

ご指摘の通り、低賃金・単純労働を受け入れる世界を探すのであれば、どこに行っても同じことで、よりコストの安い国への引越しを繰り返す事になりますね。かつて20世紀末にその様なビジネスモデルは「力王たび」型と呼ばれました。地下足袋メーカー大手の「力王たび」は、早くから海外生産を始め、その国が経済発展してコストが上がると、次の途上国に生産拠点を移すという方法を繰り返しました。しかし低賃金だけを求めて生産拠点を移動させるやりかたでは、真の国際企業(最近はグローバルとか言いますが)にはなれないと思います。その点について、別途、弊ブログにて駄文を書こうかと思います。

またのコメントをお願いします。

by 笑うオヒョウ (2010-07-01 08:17) 

牛肉麺

人民元が上がる前に考えるべきことはたくさんありましたね。
経済的な論点からみると、地域格差は人と物の流れで是正され、地球上の不均衡はいつかなくなるはずです。格差がなくなると戦争もなくなりますが、格差がないと競争心もなくなるような気がします。
また、拝読させていただきます。
by 牛肉麺 (2010-07-22 12:08) 

笑うオヒョウ

牛肉麺様 コメントへの返事が遅くなり、申し訳ありません。

ご指摘の通り、中国も日本も、全体を豊かにし、活力のある社会を目指す事が目標ですが、同時に、格差を減らし不公平・不平を無くすことも重要な課題ですね。でも格差がなくなると、経済の活性が失われ、経済成長の面ではマイナスかも知れませんね。

最終的には、アジア全体の人々が同じ所得水準になり、同じレベルの文化的生活を営めるようになればいい訳ですが、そうなると、生産拠点を低コスト国に移転することもなくなり、経済成長中で活気のある市場もなくなる訳で、景気を引っ張る機関車がいなくなります。 ちょうどエントロピーが極大化した空間の様に、熱的な死ということになります。
(物理学になぞらえて説明するのは不適当かも知れませんが・・)。
どこの国も似たり寄ったり・・というのは、ある意味で詰まらないことでもありますし。

このあたり、また勉強して駄文を書こうかと思います。

次のコメントをお待ちいたします。

by 笑うオヒョウ (2010-08-20 13:24) 

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