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【 邪はそれ正に勝ちがたく その2 】 [雑学]

【 邪はそれ正に勝ちがたく その2 】 

4月1日付けの日経新聞の豊田泰光氏のコラムに、高校野球の監督批判がありました。21世紀枠で出場した相手校に負けた事を末代までの恥とし、切腹ものだと語ったあの監督に対する批判です。ちなみに彼のコラムは辛口であるだけでなく、凡百の野球評論家とは全く違う視点から書いてあります。比べるのもおこがましいのですが、他の人と意見が必ずずれてしまう「笑うオヒョウ」と似ています。

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豊田氏の指摘は、要約すると3点です。

1.同じ高校生のチームに極端な実力差があるはずもなく、21世紀枠の出場校をいたずらに貶す言動は、相手に失礼であると同時に不適切。

2.敗戦を自分の責任、自分の問題としているが、試合の主役はあくまで選手。本来、監督は脇役であるのに、主客転倒している。

3.勝敗にこだわりすぎるのは不健康。スポーツの勝負では負けて得るものも多い。敗れた選手は謙虚になり、成長する事もできる。負けを極端に忌避するのは、アマチュアの高校野球に一種のプロフェッショナリズムを持ち込むもので、一部の職業校化(高校野球を勉学に優先する意味か)した学校に見られる弊害

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オヒョウはこの件について豊田氏の意見に全く同感です。特に極端に勝敗にこだわる姿勢は教育にマイナスであると思います。勿論、勝つ事を目標とするのは当然ですが、行き過ぎるともっと大事なスポーツマンシップを損なったりもします。

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今は米国で活躍する松井秀喜が甲子園で5打席の全てを敬遠された時、相手校の監督は「自分の指示で敬遠させた。勝つためには仕方なかった」と平然とうそぶきましたが、敬遠を命じられた投手は傷ついたはずです。野球は9人でするものだから、最強の1人を敬遠すれば、勝てるという作戦も、認められますが、自慢できるものではありません。

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「正々堂々とスポーツマンシップに則り・・」と宣誓して甲子園のマウンドに立った投手が、監督から「お前の実力では松井に勝てないから敬遠せよ」と大観衆の前で宣言された訳です。少なくとも、彼は勝利を素直に喜べなかったでしょうし、彼には松井を敬遠した男というレッテルが一生ついて回ります。むしろ松井にホームランを打たれた男というレッテルの方がなんぼかましです。

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一方の松井は、5打席連続敬遠された男という、ある意味名誉なエピソードが付き、今でも彼の苦笑いの対象です。こんな悲喜劇を生んだのは勝敗に過度にこだわる監督のせいです。

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そもそも、少年スポーツの指導をする人の人格は玉石混交で、オヒョウはその全てを信用する訳ではありません。

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勿論、人格高潔な真の教育者と呼ぶべき人もいますが、そうでない人もいます。大人の世界では相手にされない、あるいは威張れない人が、子供相手に威張り散らして鬱憤を晴らしている例が、オヒョウの知る限り、少年スポーツの指導者にはしばしば見られます。

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高校野球の場合、教諭が野球部の監督を兼任する場合と、外部の人を監督として招聘する場合がありますが、後の場合、職員室内の立場は微妙です。監督が権力をほしいままにするのは、グラウンドで選手を前にした時です。しばしば監督はグラウンド上の暴君です。(今回話題になった監督は美術の教師だそうですが)。

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不必要にスパルタンな指導やいたずらな精神主義は、今はパロディの対象です。漫画「巨人の星」は名作ですが、この漫画で示されるスポーツ根性物の物語は、1980年代以降、否定されています。

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精神論に由来する過酷な練習内容が、必ずしも合理的でないと生理学的に証明された事もありますが、厳しい指導が本当に教育者の誠意と愛情に基づくものなのか、陰湿なイジメなのか、現実には判別できない不都合も理由の一つではないかと思います。

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「巨人の星」を象徴する名キャラクター星一徹は、ひたすら自分と家族に厳しく、怒ればちゃぶ台をひっくり返す頑固親父のシンボルになっています。しかし、そのスタイルはノスタルジーの対象ではあっても、実在すれば拒絶される対象です。(実際に、漫画の中にちゃぶ台をひっくり返す場面があったか・・オヒョウは記憶しませんが)。しかし、甲子園にはそのアナクロな星一徹型の監督がいまだに存在します。星一徹の亡霊が高校野球を不愉快な世界にしているのです。

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実は「巨人の星」の連載が終わった頃、そのアンチテーゼとも言うべきギャグ漫画が別の漫画誌に連載されました。

コンタロウの「1,2のアッホ」という漫画で、これに登場する野球部の監督はこれ以上ないくらい、情けないみじめな存在として描かれています。しかし、憎めない愛すべき男です。そしてただひとりの部員サダオカ君は、そのように情けない監督を慕っています。

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この漫画を読んで笑っていたオヒョウは「巨人の星」の価値観を否定します。 そしてその延長上にある、無礼で無思慮な高校野球の監督を嫌悪します。

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豊田泰光氏は西鉄黄金時代を築いた名選手ですが、プロ野球の監督にはなっていません。 ひょっとしたら、高校野球の監督を批判した様に、勝利に過度にこだわらない姿勢が、監督に不向きだと判断されたのかも知れません。或いは、鋭い正論を吐きすぎるところも煙たがられたのかも。

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オヒョウは豊田氏の現役時代を知りませんが、「カキーンという打撃音が聞こえて、振り向いたらもう打球が外野席に刺さっていた。そういう打撃をする選手だった」と、徳岡孝夫氏は語っています。


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夏炉冬扇

お早うございます。
面白く読みました。
大下・中西・豊田・関口そして稲尾。西鉄黄金時代懐かしい。
by 夏炉冬扇 (2010-04-07 06:54) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇様 コメントありがとうございます。

稲尾も大下も関口も、既にあっちに行ってしまいました。
もう西鉄の黄金時代は帰ってこないのでしょうか?
ソフトバンクは、西鉄の後裔ではありませんし、西武ライオンズも西鉄とは
全く違うチームですし。

またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2010-04-07 12:05) 

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