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【 一粒の麦死なずば 】 [新潟県]

【 一粒の麦死なずば 】 

ヨハネ書にあるこの有名な言葉は、ジィドの小説の名前にもなっていますが、ちょっと考えると理屈にあいません。一粒の麦が地面に落ちて、もし生き残れば、そのまま一粒の麦だけれど、それが死ねば、多くの麦の栄養になって、多くの作物が実る・・という文章ですが、解釈すれば、自己犠牲には大きな価値があるとか、ものごとの成果はしばしばこの世を去った後に現れる・・という意味でしょうか。

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でも実際には、植物の種子は自分が死ぬのではなく、命を繋ぐ訳でこの例えは少し違うように思います。 ただ、かつては日本の冬の風物詩だった麦踏みを考えると、麦という植物は早い時期に痛めつけられる事で、収穫が増すのは事実みたいです。ヨハネ書とは関係ない事ですが・・。

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そして実社会には、「一粒の麦」というべき現象がしばしば見られます。例えば大企業の倒産です。2001年新潟県の主要企業の一つであったガタテツこと、新潟鐵工所が倒産しました。 倒産といっても、事業そのものがなくなった訳ではなく、生体解剖の様に事業ごとに、別会社になり独立したり、引取先の企業に吸収されました。

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勿論、新会社が全ての事業と従業員を引き取れるはずもなく、多くの人材が流出しました。 地元新潟県のメーカーにとっては優秀な技術者を中途採用できる千載一遇のチャンスだった訳ですが、いかんせん当時はどこの会社も不況のど真ん中で、人材を新規に抱える余力はあまりなかったようです。 新潟鐵工所なごりの人材派遣会社には、今でもガタテツの背番号を背負った技術者集団がいて、非常に高い評価を受けています。

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新潟鐵工所が倒産した時の詳しい事情は分かりませんが、分社化や職場転換、さらに収入の大幅減などで、多くの社員がつらい思いをした事は、インターネットに広く紹介されていました。

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その後、どうなったか・・・。 オヒョウは気にしていなかったのですが、最近案内が届いた技術セミナーの講師には、新潟原動機の技術者がいます。 3D CADの活用についての講演ですが、ああこの会社は新潟鐵工所の原動機部門が分社化したものだと思い当たりました。

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そして、ボンヤリと考えたのですが、新潟鐵工所の各部門は、会社倒産後も大健闘しています。

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特に、鉄道オタクのオヒョウに印象深いのは鉄道車両の分野です。かつて新潟鐵工は、鉄道車両の中堅メーカーとして一定の地位にあり、国鉄やJRに相当数を納めていました。しかし新幹線車両や在来線の高速特急の開発製造となると、日立や川重などの大手にかないません。 JRは新幹線の事業を拡大する一方で地方ローカル線は、縮小・撤退する方針でしたから、ローカル線の軽車両を得意とするガタテツには逆風が吹いていました。

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しかし、近年は新交通システムや、LRTの導入が話題になり、新潟トランシス(新潟鐵工所の鉄道車両部門と富士重工の鉄道車両部門が合併したもの)製の車両が脚光を浴びています。北陸に暮らす、オヒョウに馴染みがあるのは、富山市のLRT車両、高岡市の路面電車万葉線、そして北越急行の各駅停車の電車です。

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ちなみに、北越急行が経営するほくほく線・・・といっても、特急はくたかを利用する人が大半です。こちらの683系などの特急電車の製造では新潟トランシスは、一部分しか担当していません。 でも各駅停車の電車の方は、アルミ合金の車体以外は、新潟トランシスの製造です。列車の等級によって、一種の棲み分けがあるのは、鉄道車両業界の特徴ですが、新潟トランシスはニッチなマーケットで生き残っています。新しい麦が育ち、穂がついた状態と言えます。

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今後、新幹線車両の技術は、JRや国が主体になって海外に販売されるでしょうが、ライトレールやローカル線用の軽快車両の輸出は難しいでしょう。アルストムやボンバルディアなどの強豪のライバルがある上、軽快車両を求めるローカル鉄道は、どれもお金がなく、厳しいビジネスとなるからです(日本のODAも減っていますし)。日本の第三セクターの鉄道も、財政的にはどこも厳しいですが・・・。だから同社は、国内での鉄道車両のシェア確保に注力すべきでしょう。

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国内についても、新潟トランシスが生き残るには、現在持たない

1.ハイブリッド車両技術

2.蓄電池走行型の電動車両技術

3.アルミ合金車体製造技術

の3点が必要です。3以外はJRとのタイアップが必要ですが、競合する川重や日立は既に、1.2.の技術を持っており、グズグズしていれば国内市場も失い「新潟鐵工所は二度死ぬ」と、映画の題名になってしまいます。

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新潟鐵工所の場合は、地に落ちた麦が死んで、新しい麦の芽が多数育った例と言えます。 勿論、内部の人は大変だったに違いありませんが、旧態をとどめた会社を清算して、新しい事業が成功しつつあるのですから。

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これからも、多くの企業が分割したり、合併・事業統合したりして流動化の時代に入ります。造船重機の業界では、分野別の会社統合と、分社化が大いに進みました。多くの場合、倒産前の企業は合併と統合に走り、倒産後は生体解剖になります。 技術力があるメーカーはたとえ倒産しても、後に多くの麦が育ちます。しかし、非メーカーの場合、あるいは技術力の乏しい会社の場合、後には、麦の一株も育ちません。

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一般に会社の将来を憂う場合、経営者は経営破綻後の会社の事は考えません。一般従業員は、自分が生き残れるかだけを考えます。しかし、会社が破綻した後、そこに新しい事業がどれだけ始まり、育つかを考える人もいていいのではないか・・とオヒョウは思います。


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夏炉冬扇

こんばんは。
種は死にません。連続ですよ。
by 夏炉冬扇 (2010-04-06 20:43) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇様 コメントありがとうございます。

私も、種子は死なないのに、この聖書の表現はおかしいと思っております。自らを犠牲にしたキリストを称える意味があるのかも知れませんが、仏教徒の私には、まったくわかりません。

でも、一つ思うのは、この文章が、「自分が死んでも、子孫が繁栄していくなら、それも可ではないか・・」という意味ならば、古今東西、納得する人は多いだろうな・・ということです。

またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2010-04-07 01:23) 

はりがや

オヒョウさん,なかなかの鉄道オタクだと思っていました.
拙者の父親は,東北新幹線の小山~久喜間とか工事に
従事していました.息子だって,「鉄」が入っております.
by はりがや (2010-05-02 14:53) 

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