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【 ロフォーテンの大渦 】 [航空]

【 ロフォーテンの大渦 】 

オヒョウが行ってみたい土地は日本国内にも海外にもたくさんあります。しかしなかなか希望が叶わないのは下記の3つの理由によるものです。

1.お金がない。

2.時間がない。

3.行ってしまうと、それからの楽しみがなくなる・・・。

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学生時代、暇はあってもお金がない・・という不自由を味わいました。就職してからは、金はともかく時間がない・・という事で、旅行はなかなかできません。 そして最近気付いたのは、実は人生の大半は、金も時間も無い期間なのだな・・という事です。

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実際、私のブログにはいろいろ外国での話がでてきますが、そのほとんどは仕事で行った時の話です。プライベートに遊びやリフレッシュで行った事はほとんどありません。 ブログに登場する物見遊山といえば、古い友達と佐渡島や房総を歩いた時ぐらいです・・。ちと寂しい。

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そのオヒョウが行ってみたい外国の一つはノルウェーです。スカンジナビア諸国には、何度か出かけているのですが、なぜかノルウェーだけは機会がありませんでした。 ノルウェーで特に訪れたいのは、北のロフォーテン諸島です。

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北欧は、すべからく寒いのですが、それでも南の方のデンマークとフィンランドの北極圏では様相が違います。 そして北欧らしさを味わうならやはり北の方です。オヒョウは極限の土地に憧れるのです。 そう言えば、高校時代の同級生で「人生はどの道であれ、極北を目指す」と言っていた男がいます。今は体制にどっぷり浸かり大会社の役員をしている平凡な男ですが・・・。

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ロフォーテンは、子供の頃にみた写真が印象的でした。白夜のさえざえとした光の中に尖った岩山がシルエットになり、いかにも人を寄せ付けない世界です。

そして、その頃母に読み聞かせられたエドガー・アラン・ポーの小説がまた印象的でした。「メルストロームの旋渦」です。

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ご存じない方に、粗筋を申し上げますと、

ロフォーテン諸島の近くにある巨大な渦潮は、漁師の間では知られていて危険だから近づいてはならないとされていましたが、ある時若い兄弟の漁師が大漁に気を取られて、うかつにも危険水域に入ってしまいました。そして渦潮の発生する時間になり、彼らの船は、渦潮に巻き込まれてしまいました。じりじりと渦の中心に吸い込まれていく船の中で、恐怖におののいた弟は船のマストに自分の体をくくりつけて、固定しようとします。それに気付いた兄は、弟をはねのけて、自分がマストの横に陣取り、体をマストにくくりつけました。はじき出された弟は、兄の行為への怒りと悲しみ、そして絶望感の中で、しかたなしに傍らの空の樽に自分をロープでくくりつけました。やがて、船は渦の中心まで引き込まれ、ついに沈没してしまいました。兄はマストと共に海中に没し、樽に体をくくりつけた弟は船から放り出されて、海面に浮かびました。やがて、時間が来ると、渦潮は消えてなくなり、後には少し前と同じような静かな海面が広がっており、弟だけがそこに浮かんでいました。

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母はこの小説の名前を「ロフォーテンの大渦」と言っていましたが、後で調べたら「メルストロームの旋渦」という名前でした。余談ですが、Malstømの、Malはフランス語のmerで海、stømは英語のstreamで流れでしょうから、なんの事はない、海流という意味がノルウェー語の固有名詞になったのではないか・・・とオヒョウは思うのですが。

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母は自分も行った事がないのに「ノルウェーの北のロフォーテン諸島の近海には巨大な渦潮があり、日本の鳴門の渦潮など目ではないくらいの恐ろしいものだ」と私に説明したのです。

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でも私は渦潮の怖さや自然の脅威などではなく、別の事を考えていました。最愛の家族、兄弟でも切羽詰れば裏切るものなのか・・とショックを受けました。普通の物語なら自分を犠牲にして愛する人をかばうというストーリーなのに、この小説では逆に卑劣な方法で自分が助かろうとしている。どちらが本当なのだろうか・・・。

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もうひとつは、安全に思えるもの、確実に思えるものが実はそうではなく、不確かなもの、小さきものにこそ、希望や可能性がある・・という事です。「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」という諺に共通するかも知れません。まして、何が安全で確実か、何が危険で不確実かの見極めを他人の判断に頼ってはいけない・・という事です。何だかお説教臭いですが。こちらも、本当のところはどうなのだろうか? 子供のオヒョウには判断できませんでした。

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今、なんでこんな事を言うのか・・・といえば、先日、週刊誌のグラビアでロフォーテン諸島の写真を見たからです。そしてポーの短編小説を思い出し考えたのです。現代社会も大渦の中にあり、見えない将来展望と不確実性に多くの人が悩んでいるだろう・・・。

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オヒョウが学校を出た頃、日本航空は最優良の就職先でした。親方日の丸で、給料が良くて、スマートで海外旅行はし放題・・・。石油ショックが来ても、ジャンボ機が墜落しても、その経営は磐石で揺るがないとされてきました。 その日本航空の社員は、今、早期退職で会社を飛び出すべきか、それとも会社に留まるべきか選択を迫られています。

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ロフォーテンの大渦に呑み込まれつつある会社の中で、体をくくりつける樽を探しています。或いはマストに体をくくりつけるべきか・・・。日本航空の人だけでなく、多くの人が迷っています。現在の状況ではトヨタでもリストラが始まるかも知れませんし、公務員も安泰ではありません。大学の教員・教官もそうかも知れません。困った事に、飛び出しても受け皿がありません。 景気の回復が遅れているので、体をくくりつける空の樽が無いのです。

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一つだけ言えるのは、マストに体を縛るのは、もう止めた方がいいかも知れないと言う事です。寄らば大樹の陰・・・は昭和の時代の話です。確実な大樹など無いのです。鶴岡八幡宮の大銀杏も倒れたことですし・・・。


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夏炉冬扇

今晩は。
惹き付ける「節」があっ手ずんずん読めました★★★。

こちら時間はたっぷりお金はなし。
by 夏炉冬扇 (2010-03-13 21:45) 

おじゃまま

エドガー・アラン・ポーですからね…。曲者ですね。
樽はあるのでしょうか…。
by おじゃまま (2010-03-14 17:35) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇様 コメントありがとうございます。
当方、金も時間もありませんが、将来、時間だけはふんだんに使える日が来るだろうと期待しています。その時にはやりたい事がたくさんあります。
(お金がなくてもできる事だけですが)。

またのコメントをお願いします。
by 笑うオヒョウ (2010-03-14 22:25) 

笑うオヒョウ

おじゃまま様 コメントありがとうございます。

「樽」と言えばクロフツですが、こちらは推理小説なので、ストーリーを語る訳にはいきません。

そして、船を飛び出した人たちに樽はあるか?という質問には、答えがありません。確実に言える事は、自分を信じて自分で探せ・・という事でしょうね。
会社も政府も決して樽を用意してくれません。何時の時代もそうだったと私は思っております。 次のコメントをお待ちします。



by 笑うオヒョウ (2010-03-14 22:33) 

おじゃまま

再コメントお許しください。
私も「樽」と書いた瞬間にクロフツを思い浮かべました。
面白いですよね〜。今でも時々、読みたくなります。
すみません、かなり論点からそれたコメントですね。
by おじゃまま (2010-03-14 23:59) 

笑うオヒョウ

おじゃまま様 コメントありがとうございます。

再コメント大歓迎です。実際、Dr.Yさんとは、しばしば意見交換しています。
なんだか、おじゃまま様とは共通の知識、共通のバックグラウンドがあるみたいで、驚いております。 とても愉快です。

樽が登場する小説は・・・あと私が知る限りでは葉山嘉樹の「セメント樽の手紙」くらいでしょうか。

さらなるコメントをお待ちします。

by 笑うオヒョウ (2010-03-15 00:43) 

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