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【 ゴメンはごめん 】 [雑学]

【 ゴメンはごめん 】 

普段は見ないのですが、TVをつけたら、NHKの大河ドラマをやっていました。ちょうど主人公の坂本龍馬が故郷の土佐に帰ってきたところで、ロケ地では稲刈りの風景が背後にうつっていました。 しかし、秋というより、夏という設定のようです。 遠くで蝉の声の効果音も聞かれます。

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「あれっ」とオヒョウは思いました。

「江戸時代の高知平野は二期作ではなかったのかな?」二期作であれば、夏場に稲刈りがあり、同時に田植えが行われます。しかし、TVドラマでは、稲刈りだけで、田植えはしていなかったのです。

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高知平野で二期作が行われたのは、昭和の時代だけかも知れません。今は、いろいろな理由で二期作は行われませんし、幕末の時代も行われなかったかも知れません。

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しかし、一期作、または一毛作でも、夏場に稲刈りをする理由はあります。 端境期に新米を出荷して、少しでも商品価値を上げる早場米は、多くの地方で栽培され、それらは夏の終わりに刈り取られます。それに加え、土佐は台風銀座です。台風シーズン到来前に稲刈りを終えるのは当然かも知れません。

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だから、夏の稲刈りの風景を写す事は、土佐である事を示す演出の考証としては的確であると、オヒョウは思います。

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そこで二期作・・或いは多期作について古い記憶を思い出しました。

中学校時代、恩師村上先生の社会科の授業です。先生は、「 高知市の近くにゴメンという場所があるのを知っているか?これは、その土地があまりに貧しい為に、徴税(つまり年貢)を免除する事から後免という地名になったのだ。 地元では、この地名を恥ずかしく思っていて、市制施行の際には南国市という名前になった。ペギー葉山の歌と関係があるかは知らん。しかし、国鉄(当時)の駅名には「後免」が残ってしまった」

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オヒョウは質問しました。「しかし、高知平野は二期作ができる訳ですから、米の収量も多いだろうし、豊かなのではありませんか?」

先生は、首を横に振って「いや、むしろ逆だ。貧しいから二期作をおこなって、少しでも収量をあげなくてはならないのだ。逆説で考えたまえ」 と言われました。

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先生の説明は、続きます。「イネは連作の影響が乏しいとはいえ、二期作を行うと地力が衰え、収穫量が減る。年2回耕作しても、収量が2倍になる訳ではない。一方でコストの方は確実に2倍になる。 労多くして益少なし・・という事になり、土地生産性は向上するが、労働生産性は低下する。つまり、所得水準の高い地方では成立しないのだ。 二期作を行うということは、それだけ貧しいという事だと理解すべきだ」という指摘です。

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先生の説明は理屈では理解できましたが、本当のところは理解できませんでした。 それが・・ああ、なるほどと理解できたのは、30年以上後に中国に住み始めてからです。

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中国は40年前まで餓死者がでた国です。今も莫大な人口を抱え、食糧自給に心をくだいている国です。 だから中国の南部では二期作や二毛作が当たり前です。 オヒョウの勤務する工場の周辺は、イネとムギの二毛作が普通で、それに養殖池で上海蟹や魚を飼うという多角経営の農家が多かったのです。

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それが、だんだん一毛作に移りつつあるのです。オヒョウは農家出身の同僚に尋ねました。

「それはどうして?」( 中国語では「ウェイシャンマ?」という発音になります )。

同僚が答えます。「都市化、工業化が進み、現金収入が得られるようになったので、一年中、田んぼや畑を耕すより、工場に勤めた方がいいからですよ。我々の工場だって、その工場の一つですよ」

「それに、中国は一人っ子政策で、一年中農業を続ける為の働き手が足りないのです」彼自身、農民になるのがイヤで、大学に進学して都市戸籍を手に入れた訳で、その話になると、口が重くなります。

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更に彼は、口が重くなります。「最大の理由は、連作による生産性の低下を農家が嫌がるのと品質の低下です。 二期作のコメはまずいのです」

これは重要な点です。以前、中国では収量が一挙に1.5倍になるハイブリッド米の栽培を試みましたが止めました。 それは味がまずかったからです。

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彼は「中国だって、いつまでも質より量を追いかけている訳ではありません豊かになれば、質を重視します。今、我々は量から質への転換を、農産物でも工業製品でも進めているのです」

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その後、しばらくして彼は会社を辞めてしまいましたが、オヒョウは別の情報を知りました。雑誌「中国国家地理」で崇明島の事を知ったのです。崇明島は長江の下流、上海のすぐ北にある巨大な川中島です。この島では、つい最近まで三期作が行われていました。つまり、年三回田植えと稲刈りが行われる訳で、両方が重なると農民は殺人的な忙しさになります。

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上海の一流ホテルに勤務する国家一級の料理人の資格を持つ女性は、文化大革命の時代に崇明島に「下放」されたそうです。そこでの労働は苛酷を極め、彼女は一時期人生に絶望したそうです。

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その崇明島の三期作は今世紀に入ってから取り止めになりました。理由は二つです。

1.労働が苛酷な割に、収量が増加せず、労働生産性は低い。

上海で働けば現金収入が期待できる状況で農作業の就労者が減少した。

2.多期作で造られるコメはまずく、市場で受け入れられない。

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安い労働力が豊富にあり、労働集約型産業に向いていて、一方で労働生産性はあまり考慮せず、品質にも拘らない・・・という中国のビジネススタイルは、急速に変化しています。 その象徴が崇明島の三期作の廃止です。

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オヒョウが日本に帰った後、不思議な新聞記事を見ました。

「 ゴメン・・と素直に謝る事はとても大事で、その言葉を駅名に冠したJR後免駅はすばらしい。もう一つの大事な言葉である『ありがとう』を隣の駅名にして、『ごめん⇋ありがとう』という切符を売り出してPRすべきだ」という提言です。

あれまぁ、この記事を書いた人は、後免という地名の由来を知らない。

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イネのふるさとは熱帯モンスーン気候の土地です。雨期と乾期が明確に分かれている土地では、コメの収穫回数は限られています。熱帯多雨気候では、年中コメは収穫できます。しかし温帯気候の日本や中国華東地方では、本来年一回の収穫がやっとです。無理をすれば品質と収穫量が下がります。

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農業と違い、第二次産業は品質と量は両立する概念で両方とも極限まで追求できると考えます。しかし、そこに働く人の環境や暮らしの豊かさへの配慮はありません。 米国の公聴会に呼び出されたトヨタの社長は品質と量の追求に矛盾はない・・・と説明するのでしょうか?

オヒョウのお勧めは、なるべく日本語で演説してね・・ということです。


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コメント 4

おじゃまま

「後免」のすぐ近くがワタクシの郷里でして…。
二期作についてはあまりよく知らないのですが、
江戸時代後期ならやっていた可能性はあるかも。
「後免」の由来は開墾奨励のため、だったと記憶しています。
二期作は減反政策のせいでみんな止めてしまいました。
高知平野が二期作に適していたのは、「沼地」だったから、と聞きました。
さほど味も落ちず、収量もまずまずで、しかも仰せの通り、
タイミングよく台風被害を避けられ、他の作物は育てにくい…。
それでも二期目の収量は半分くらいでしたが。
by おじゃまま (2010-02-22 01:02) 

笑うオヒョウ

おじゃまま様 コメントありがとうございます。

私の本文中の漢字が間違っておりました。 御免ではなく後免でした。
申し訳ありません。 それにしても、どの地方を取りあげても、その地方になじみの方が読者におられ、うれしいはんめん、間違った事は書けないな・・と
冷や汗を流すばかりです。 確か後免には高知空港がありますよね。
ペギー葉山の「南国土佐を後にして」の歌が映画化された時、その空港にフレンドシップ7型機が着陸するシーンが登場しました。 最近は、車輪が出ないボンバルディア機の着陸で有名になりましたが。
またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2010-02-22 01:24) 

うっかり母ちゃん

後免駅の近くにすんでます。
隣は、後免町駅なのですが、間違えやすいからと アンパンマンの作者が、ありがとう駅と呼びましょうと、看板と言うか石碑みたいな壁がありますよ。
誰も、ありがとう駅とは言ってませんけれど(^-^;
by うっかり母ちゃん (2018-06-26 07:42) 

笑うオヒョウ

うっかりかあちゃん様 コメントありがとうございます。
返信が遅くなって申し訳ありません。やなせたかしさんらしい提案ですね。わたくしは、アンパンマンが大ヒットする前から、やなせさんのファンでした。ごめんなさいというお詫びと、ありがとうというお礼は、しばしば混同されますね。「謝」という漢字も共通ですし。
相手に対してへりくだり、まごころを示すという点では同じだからでしょうか? この辺り、少し考えて またブログに書こうかと思います。またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2018-08-14 10:00) 

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