【 ホタル石は麻薬 】 [鉄鋼]
【 ホタル石は麻薬 】
新日鉄名古屋製鐵所から強アルカリの廃液が海に流れ出して問題になっています。http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20100208-OYT1T00119.htm日本の製鉄所は全て臨海製鉄所ですが、更に分類すると内海に面した製鉄所と外洋に面した製鉄所に分かれます。東京湾、伊勢湾、瀬戸内海、紀伊水道、豊後水道に面したものを内海型、鹿島灘や玄界灘に面した製鉄所を外洋型と言ってもいいかも知れません。
・・・・・・
海洋汚染の公害を出してはいけない点では、全ての製鉄所が同じですが、とりわけ内海型製鉄所では、その影響が大きいので注意すべきです。名古屋製鐵所はその一つです。従来、この手の汚染事故はJFEに多かったのですが、今回は新日鐵です。
・・・・・・<以下、鉄鋼に、詳しい方は飛ばしてください>・・・・・・
強アルカリの内容が何なのか、製鉄所は公表していません。単純に予想されるのは、高炉スラグ、製鋼スラグの2種類ですが、常識的にみて、製鋼スラグの可能性が高いと思われます。なぜなら、高炉スラグはセメントとして再利用される率が高く、また硫黄分が多いために、それほどアルカリ性が強くありません。
・・・・・・
問題は製鋼スラグ(転炉スラグ)です。
リンを多く含有しセメントとして利用する事は難しい訳で、山積みにされ、公害の原因になってしまいます。 リンが多いのだから肥料としても使える訳ですが、それもいろいろ難しい様です。
・・・・・・
そしてオヒョウが思うのは(あくまで推測ですが)、名古屋製鉄所はホタル石を多用していたのではないか?・・という事です。
・・・・・・
多くの高級鋼はリンを嫌います。鋼中のリンを抜く脱リンの方法には転炉で燃やして五酸化リンにするなど、様々な方法がありますが、最後は取鍋の中のスラグに吸着させます。しかし、スラグがカチカチの固体で溶鋼の上に浮いていては、リンを吸着する能率が低下します。そのカチカチのスラグをシャブシャブの低粘性の状態にすれば、脱リン効率が著しく高くなります。 その際、使われるのが中国から輸入されたホタル石です。
・・・・・・
名古屋製鐵所は、高級鋼を得意とする日本の製鉄所でも特に高級鋼に強い製鉄所であり、鋼の極低リン化のニーズは強いのです。製鋼の若い技術者は、低リン鋼の製造に意欲を燃やし、チャンピオンデータを狙います。それにはホタル石が便利です。 ついつい多量に使いたくなります。
・・・・・・
しかし、CaF2で表される、ホタル石は強アルカリです。しかも高温で水に触れると、猛毒のフッ酸を生成します。HFで示されるフッ酸は、酸としては弱く、したがって、そのカルシウム化合物であるホタル石はアルカリ性なのですが、フッ酸には独特の性質があります。有毒であるうえ、ガラスを腐食するなど面白い特性があるのです。 もっとも、実際に扱うとなると面白いとは言っておれず、環境上の問題が多くあります。
・・・・・・
だから環境対策上、ホタル石フリーの精錬を目指すのですが、これが難しいのです。 かつてオヒョウの上司は、「連続鋳造担当者にはTiが麻薬で、炉外精錬担当者には、ホタル石が麻薬やな・・・」と言いましたが、まさに言い得て妙です。
・・・・・・
使ってはいけない・・・と分かっていても、リンを下げたい時はホタル石を使ってしまいますし、その量はだんだん増えてしまいます。まさに麻薬です。(Tiについては、別稿で述べさせて頂きます)。
・・・・・・
新日鐵は、ホタル石の多用がばれるのを恐れて、強アルカリ廃液の正体を明らかにしないのではないか? と勘ぐってみます。しかしそれなら問題は、強アルカリ性より、リンとフッ素の方です。リンは海水や淡水を富栄養化して、水質を悪化させる原因になります。フッ素が海中に溶ければ、動物に悪影響がでます。当局は、海水中のこの2つの元素の量をチェックすべきでしょう。
・・・・・・
それにしても、理解できません。 強アルカリが問題なら、製鉄所にありあまっているCO2を添加して中和してやればいいのです。同じ新日鐵の君津製鐵所では、地中にCO2を捨てるCCSという研究までしているのですから。 http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/tanso/tan100205.html
・・・・・・
リンが問題なら、逆に栄養不足で、海ヤケが発生している海底に撒いて、「海底の緑地化」に使えばいいのです。既に新日鐵は研究しています。http://eco.nikkei.co.jp/column/ekouma/article.aspx?id=MMECf2000003022010研究者はスラグ中の鉄分やカルシウムに着目していますが、窒素、リン酸、カリが3大肥料であることは、陸上植物も海藻も同じはずです(多分)。
・・・・・・
フッ素とフッ酸の問題はどうしても起こりますが、ホタル石の量を制限すれば、製鋼スラグの環境への影響は、それほど大きな問題とはなりません。
・・・・・・
ホタル石は環境に負荷を与えるから使ってはいけない・・といいながらも誘惑に負けてこっそり使ってしまう・・・。 こっそり使うから適切な後始末ができず、結局、社会の問題になってしまう・・・。やはりホタル石は麻薬です。
(もし、オヒョウの推理が外れていたら、新日鐵の皆さんゴメンね)
ああ、屋根の雪と地面の雪がつながってしまいました。
コメント 0