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【 子供社長と言われないために 】

【 子供社長と言われないために 】

 昨日まで順風満帆だった会社経営に突如問題が発生すると「危機管理のあり方はどうなっているのか?」と評論家が語る事になります。トヨタの場合、系列会社の火事や部品メーカーの地震災害で操業が停止するという事態は過去に経験しましたが、年間販売台数を上回るリコールという事態は初めてでしょう。 危機管理はどうなっているのか?

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全てのメーカーは品質問題を抱えています。会社ごとに異なるのは、問題の認識・分類と対応の時間です。問題の認識・分類とは、下記の3種類への分類で、その判断は会社によって異なります。

1.欠陥は無かったが、設計変更・改善を行うもの

ユーザーから要望や、提案があった場合、それを反映する為にモデルチェンジ前でも、設計や材料、部品を変更します。既存品に欠陥があった訳ではなく、改造・改修は過去分には遡りません。 

2.個別の製品単位で発生した製造不良  

製造時の品質のバラツキによるもので、その製品1個のみを修理したり部品交換すれば解決する問題。 メーカーは普通、この種の話は公にしません。 

3.設計や製造方法に全ロット共通の問題があった場合  

既に市場に出回った分も回収して、交換・修理が必要です。いわゆるリコールです。

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品質クレームや問題が生じた場合、メーカーはなるべく3ではなく、1か2でお茶をにごそうとします。 オヒョウの記憶では米国のメーカーは2.にしたがるように思います。実際、米国では品質管理が行き届かず、製品の個体差が大きいのです。自動車を買っても当たり外れがあったりします。

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今回、トヨタはプリウスのリコールについては、3ではなく1として扱おうとしました。 しかし、世論の反発を受けて3に変更したようです。これはオヒョウ自身というよりNHKの今井純子解説委員の考えです。

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プリウスについては、初代のタイプも、走行途中でエンジンが突然停止するといった不具合があったそうですが、3にせず、1か2で対応してきたようです。

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それにしても、今回のトヨタのマスコミ対応は下手です。この会社にはCIOはいないようです。最初に、担当の役員が登場して、不具合を欠陥ではなく「お客様の違和感」という表現で1である事を主張しましたが、反発を招いただけです。おそらく、トヨタでは3であると認定するには、社長の判断が必要なのでしょう。

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海外メディアは豊田章男社長の会見を求めました。ここで海外メディアというのは重要な点です。 日本の民放などのマスコミは、巨大広告主であるトヨタに対して、正面から批判できませんが、海外のメディアなら、ある程度厳しく批判できるからです。

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それに対する広報担当の女性は「 セキュリティに係わる事なので、社長の所在は公表できません 」これは火に油を注ぐ発言です。この季節、世界の大富豪が集まるダボス会議に豊田社長が出席している事はすぐに判る事です。それを隠すというのは騙す事に近いのです。

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かつて大手自動車会社の経営者がテロの標的になった事があります。旧西ドイツでは「黒い九月」がダイムラー・ベンツのシュライヤー会長を拉致して、殺害した事があります。しかし、今はそんな時代ではありませんし、これまでトヨタの社長が姿をくらます・・・なんて事はありませんでした。誰が見ても、逃げたか、時間稼ぎです。

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やがて現れた豊田社長の会見は奇妙なものでした。

「今の状態は危機的な状況にあると言えます」

何が? お客様の命の危険の事を言っているのか?トヨタの経営状態を言っているのか、えいえいと築いてきたトヨタ車のブランドイメージの事を言っているのか、はたまた新技術として認知されたハイブリッドカーの技術の事を言っているのか・・・主語が分かりません。

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マスコミは追加説明を求めます。マスコミが追加説明を求める場合は2種類あります。 

4. 説明内容が概括的だったり抽象的な場合ブレイクダウンした説明を追加したり、わかりやすい解説を求める。具体的な期限や対象範囲を定めた数字を要求する場合が多いのです。 

5. 信ぴょう性に乏しい場合主張を理論的に補強する説明や、証拠を求めて、相手の発言が正確かどうかを確認する。

多分、豊田社長の説明は、4に該当したのでしょう。更にマスコミは、英語でのコメントは無いのか?との質問です。英語でのコメントを求める場合、その理由は2つです。

6. 日本語の説明が曖昧模糊として、英訳できない場合。  

日本語の説明は主語が無かったり、時制が不明確で翻訳できない場合があります。  逆説で考えれば、スラスラと翻訳できるか否かで、文章の論旨が明確かどうかが判断できます。日本語ではわざと曖昧にする事がありますが、英訳できなくては  無内容な発言と言われても仕方ありません。 

7. 翻訳が間に合わない場合  

ブレイキングニュース(臨時ニュース)の場合、字幕スーパーが間に合わなかったり、同時通訳が確保できない場合があります。その場合は、直接英語でスピーチして貰う必要があります。

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英語での補足説明を求められた豊田社長の発言は「ビリーブ・ミー」です。

ビリーブとミーの間にinを入れるべきか否かは、さておき、これは具体的な補足説明を期待した人には完全な肩すかしです。“Fill in the detail” が却って抽象的で情緒的な表現になったのですから。

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不安に思うオバマ大統領が念を押したら、「トラスト・ミー」と答えた首相と、リコールの具体的な内容を問われて「ビリーブ・ミー」と答えた世界最大の自動車会社の社長。 二人とも、アメリカの大学院で学んだはずなのですが・・・。

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おそらく、豊田社長は記者会見の時点で、開示できる情報が限られていた為、抽象的・情緒的表現に終始しなければならなかったのでしょう。しかし、どの情報を開示するかを決めるのは社長です。 見苦しい会見を開くことで、彼がまだ本当の社長になっていない事が暴露されました。

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夏炉冬扇

お早うございます。
とても面白拝読。今日もウームです。
眼から鱗。

ニツサンがにこにこかも。
早朝雨で、ひんやりに。
by 夏炉冬扇 (2010-02-09 08:19) 

Dr.Y.

感想は二つあります。一つは、私が20年近くトヨタ車ユーザーだったのですが、2年余り前に別の会社(ホンダ車)にして良かったなあ、という印象のこの事件、たしかに仰るようにこのような世界的大企業にして、創業者一家がまだ経営に関わっているのか?、という驚きです。
二つめ。このような巨大企業でもそうしたマネジメントに欠陥があった、として、では我々が雇われているような弱小組織(オヒョウさんの所は、私の所より大きいでしょうが......)のマネジメントに欠陥があることが、そうした巨大企業の問題によってコンペンセーションになるのか?、という点。日航はトヨタはこんな酷い!、といくら言ってみても、自分の境遇はひとつも改善されませんね......
by Dr.Y. (2010-02-09 15:26) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇様
コメントありがとうございます。
私は豊田章男君を貶したり非難するつもりはありません。彼がこの難局を克服して、立派な社長になるだろうと期待しています。彼が将来、日経新聞の「私の履歴書」を書く際「社長に就任した途端、難問が次から次に降りかかり、歴代のトヨタの社長の何倍も辛い目にあったが、おかげで鍛えられた」と書くのではないか?と思います。ちなみに彼の名前を君付けで呼ぶのは、彼の卒業した大学では、福澤先生以外はみな君付けでよい事になっていたからです。彼もオヒョウもDr.Yさんも同じ時代に学校に通っていました。
またのコメントをお願いします。

by 笑うオヒョウ (2010-02-09 17:04) 

笑うオヒョウ

Dr.Y様 コメントありがとうございます。
ご指摘の点、大会社でもこうなのだから、自分の勤務先の非も仕方ない・・という論法が成り立つか?と言えば、オヒョウは成り立たないと思います。組織がしっかりしているか否かは規模の大小には無関係と思うからです。

しかし、現在の勤務先に関する愚痴は書いてはいけないというブログの鉄則がありますので、これ以上のコメントは控えます。ちなみに過去の勤務先の悪口を書くのも上品とは言えませんが、一応許されており、オヒョウはしばしば書いています。そう私はかなり下品な男です。

トヨタのマネージメントには、優れたところもあり、個人的に尊敬する人も多いのです。しかし生産技術の世界では、これまで水戸黄門の印籠の様に、トヨタの名前を振りかざし、トヨタがこのやり方だから、我々もそうすべきだ・・という一種の問答無用の教条主義が流行っていました。そして私はその風潮を苦々しく思っていました。一連の不祥事でトヨタといえども完璧ではない・・・という事が広く理解されて、ホッとしているのも事実です。

この件、またブログに書くことになります。 またのコメントをお待ちします。

by 笑うオヒョウ (2010-02-09 17:05) 

おじゃまま

believe me, trust meて、歌になりそうですね♪賛美歌か?
トヨタの車の話として興味があったのは
コンピュータ制御の盲点かな、という点でした。
by おじゃまま (2010-02-10 00:14) 

笑うオヒョウ

おじゃまま様 コメントありがとうございます。

実は、ご存知かも知れませんが、ビリーブミー、ビリーブミーと絶叫する歌があります。エルビスプレスリーのYOU DON'T HAVE TO SAY YOU LOVE ME(この胸のときめきを)です。 オヒョウはこの歌の事を思い出しました。

ちなみに、ギャク漫画"12のアッホ"では演芸会でノロ和がこの歌を絶唱し、股間がビリッと裂けて、悲劇が始まる・・という漫画がありました。30年ほど前の漫画ですがね。

またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2010-02-10 00:52) 

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