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【 もっとリチウムを その1 】 [ビジネス]

【 もっとリチウムを その1 】 

以前のブログにも書きましたが、リチウムイオン電池(Li電池)とニッケル水素電池(Ni-H電池)の棲み分けがどうなるのか・・・という点に個人的な興味があります。それについて最近新たな動きがありました。

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関西電力は、出力が不安定な再生可能型エネルギー(平たく言えば、風力や、太陽光、波力や潮力)を平坦化するためのバッファーの電池にNi-H電池を使いました。http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/_tanso/_ta100203_2.html 

従来は、この種の電池としては、ナトリウム硫黄電池(NaS電池)やレドックスフロー電池が普通でしたから、これは画期的です。自動車用ではなく固定用電池として新たな需要が見込めます。

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一方自動車用としては、Li電池が主流になる事は間違いないみたいですが、その高価格がネックです。日経BP社の「Tech On!」誌には、 「Liイオン電池コストは2015年までに1/2~1/3へ」という見出しがありますが、精錬だけから考えると、このコスト低減は困難です。

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Li電池が世の中に溢れて、リサイクルやリユースが一般的になれば、その価格になる可能性がありますが、2015年ではまだそうなっていないと思われます。現時点では使用済みで回収されたLi電池の価値評価も定まっていない状況です。

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一方、新品のLi精錬コストとなると簡単には安くなりません。需要家サイドでは、需要が増えて生産規模が大きくなればスケールメリット(量産効果)でもっと安くなるはずだ・・と考えているでしょうが、そうはいきません。もしスケールメリットで議論できるなら、鉄鋼などは今の1/3の価格でもおかしくありません。なぜならLi精錬では電気代が重要なポイントになるとオヒョウは考えるからです。

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話が脱線しますが、かつてアルミの事を電気の缶詰と読んだ事があります。金属精錬では、電気代がいくら掛かるかが重要です。電力を猛烈に使用する金属精錬は、日本では成立しません。

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それにも関わらず、鉄鋼産業で成功したからアルミ精錬でも・・と考えたのは住友財閥の日向方斉氏ですが、それが大失敗に終わった事は日経新聞の私の履歴書に彼が白状しています。

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どういう金属元素で精錬に電気代がかかるか・・、簡単に言えば周期律表の左にいくほど、精錬に電気エネルギーを要する事になります。これは金属元素のイオン化傾向を学べば判る事で、高校2年生の化学です。アルミで電力を大量消費するなら、アルカリ土類金属やアルカリ金属では、それ以上に電力を消費するはずです。アルカリ金属の代表である、Liの精錬は高コストになります。

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具体的に主要な金属で比較してみましょう。        

・L: 2種類の精錬方法があります。i  

    (1)鹹水(かん水)法 

      使用エネルギー 413.7 GJ/Li-t  (内 電力 298.5 GJ/Li-t)

   (2)溶媒法/硫酸法 (中国法) 

    使用エネルギー  500.3 GJ/Li-t  (内 電力 258.9 GJ/Li-t)

※ 金属Li 1tonを精錬するのに必要なエネルギーは鹹水法の方が、少ない事になりますが、電力は多く使用します。でもこれは鉱石の品位にもよるので、一概に比較できません。

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他の元素では、金属1tonを精錬するのに必要なエネルギーは下記の通りです。

・Na   119.3 GJ/Na-t

・Mg    31.2 GJ/Mg-t

・Ti    165.2  GJ/Ti-t

となり、いずれも、Liに比べれば、ケタ違いに少ないエネルギーです。

Liこそが電気の缶詰であり、精錬にエネルギーが必要な金属です。

※ ここで、Tiは周期律表の左側の金属なのにNaのようなアルカリ金属より必要なエネルギーが大きいではないか! オヒョウの説明は不正確だ! 

などと言わないでください。 Tiを精錬する際は、最初にMgを精錬して、それを犠牲にして、Tiを還元して精製する方法がとられます。だから、Tiの精錬にはエネルギーが必要であり、そのコストも高いのです。

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電気を貯め、省エネにも役立つはずのLi電池ですが、その製造に莫大なエネルギーが必要となるのは、皮肉な事です。そして重要な事です。

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今、多くの商社がLiの鉱産資源を求めて、世界中で買い占めにかかっていますが、本当に問題なのは、鉱石の確保ではなく、エネルギー価格が低廉な土地を探して、そこで精錬するという事です。 

そのあたりについては、次回ご報告します。

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コメント 4

yukio

アイコンに釣られてやって参りました。
どうぞ良いことありますように!
by yukio (2010-02-07 11:35) 

おじゃまま

リチウム電池がそんなに電気を食って製造されているとは
知りませんでした。
こういうことには全く疎いので、興味深く読ませていただきました。
by おじゃまま (2010-02-07 15:21) 

笑うオヒョウ

おじゃまま様、訪問とコメントをありがとうございます。
私のデータの出典を明記しておりませんでしたが、
独立行政法人 物質・材料研究機構の エコマテリアル研究センターの
報告によるものです。

NIMS-EMC 材料環境情報データ No.7
金属元素の精錬・精製段階における環境負荷算定に関する調査

http://www.nims.go.jp/imel/mde-report/Report/01-j-p.pdf#search=%27Na%20Ti%20%E7%B2%BE%E9%8C%AC%20GJ%27

「電力食い虫」である事は、以前から予想しておりましたが、実はLiには、面白い特徴が多々あります。それについては次号で申し述べます。

またのコメントをお待ちします。

by 笑うオヒョウ (2010-02-07 23:07) 

笑うオヒョウ

yukio様 訪問とコメントをありがとうございます。

オヒョウ自身は、アイコンとは似ても似つかぬむくつけき中年男です。
ブログの内容も、可愛らしいほのぼのとする記事はなく、生硬で堅苦しいものが多く、申し訳なく思っております。 (でも最近かなり軟らかくなりました)。

でも、しまった。だまされたと思わず、時々お読みいただければ幸いです。
きっと、何かいいことがあると思います。

またのコメントをお待ちします。

by 笑うオヒョウ (2010-02-07 23:11) 

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