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【 サイエンスライターへの誘い 】 [雑学]

【 サイエンスライターへの誘い 】

以前、私のブログに、日本には優秀な科学記者がいない・・と書いた記憶があります。 日本の場合、新聞記者や編集者といったジャーナリストになる人は文科系の学部の卒業生が圧倒的に多く、彼らは科学記事を書くことを敬遠します。

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一方理科系の学校を卒業した人は、専門性の低い一般的な文章を書くことを嫌いますし、そもそも文章を書くこと自体が苦手だったりして、ジャーナリストにはあまりなりません。

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そしてこの国では専門的な事を、難しく格調高く表現する事は高く評価されますが、難しい事をわかりやすく平易に書くことは評価されず勲章になりません。 だからサイエンスライターになる人は少ない様です。

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しかし、最近読んだ本の中で、これは大したもんだ・・と思わせるライターがひとりいました。正確にはライターではなくトランスレーター、つまり翻訳者です。 本の名前は「フェルマーの最終定理」。作者はインド系英国人のサイモン・シン。翻訳者は、気鋭の翻訳家 青木薫さんです。そして、この本は、数学の大発見の周辺のエピソードを、数学を理解しない人に教えてくれる本です。

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かなり長編の作品ですが、この本を読めば、「フェルマーの最終定理」の証明が理解できるという訳ではありません。 やはり、この定理の証明を理解するためには、数学の専門家である必要があり、一般の読者が流し読みをして納得できるものではないようです。

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では、この本に書かれているのは何か?といえば、初等的な数論に関する話・・・ピタゴラスの定理に始まって、素数に関するトピックスや、数学の歴史、数学者の人生などです。それが読み物として面白く書かれているのです。

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世紀の大発見である「フェルマーの最終定理の証明」が、いかに偉大な業績であるかを、数学の門外漢に説明して理解させよ・・・という指示をあなたが受けたらどうするか? これは頭の痛い問題です。 まず、フェルマーの最終定理がいかに難しい問題かをわからせなければなりません。

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初歩的なパズルに似た命題を説明する事で、門外漢も数学の雰囲気を味わう事ができます。その上で、天才数学者の苦悩を読めば、奥深い世界を彷徨する天才達に感情移入できます。そのお膳立てをした上で、「フェルマーの最終定理」の証明のエピソードに切り込むのです。

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余談ですが、オヒョウが高校生の頃この定理は「フェルマーの大定理」と呼ばれていました。 大定理というからには小定理もあり、そちらは高校生でも解ける問題です。「でも小定理を解けたから大定理も・・・」なんて考えると、とんでもない事で、ヘタに関わると、一生を棒に振るので注意するように・・・と誰かに言われた記憶があります。とにかく、世の中にある数学の問題の内、最も難しい問題とされていました。 

実際には、これ以外にも有名な問題はたくさんありました。20世紀の初めにヒルベルトが20世紀の宿題としてあげた23の問題の他にも、4色問題などがあります。オヒョウは、自分とは無関係の世界ながら、ポアンカレ予想や4色問題が解かれる度にちょっと寂しく思った記憶があります。

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4色問題が解かれた時も、素人向けの解説書が発行されました。たしかブルーバックスも出たはずです。でも素人向けの書籍はどこかで、重要な説明を省略しています。 先日NHKのTVで特集番組をしていたリーマン予想についても、肝心の部分の説明が割愛されていました。

NHKでは視聴者にインタビューして「門外漢にもよく理解できた。分かり易い説明で感心した」などと、自画自賛のコメントを収録しています。しかし、オヒョウにはあの番組だけでリーマン予想が理解できるとは到底思えません。

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難解な数学問題や、抽象的な理論物理を分かり易く、しかもずるい手抜きなしで解説するのがサイエンスライターの真骨頂です。その点で、サイモン・シン氏も青木薫氏も一流のライターであると、私は確信します。

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そして彼らの経歴を見てなるほど・・・と思うのです。サイモン・シンは、ケンブリッジで素粒子物理の博士号を取得した後、ジュネーブのCERNで研究しています。その後、TV界に転じて、BBCで科学番組を制作しています。

青木薫さんも京都大学で物理学を研究した理学博士で、そのご翻訳家に転じています。彼女の翻訳には文科系の翻訳家が犯すミスはなく、翻訳文は極めて精確です。

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どちらも自分の深い専門分野を持ち、そのうえで少し離れた分野の最新の研究業績を紹介する著作をしたためています。やはりある専門を極めた自然科学者でなければサイエンスライターはできないのだな・・・とオヒョウは納得しました。

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今、日本では大学院を修了し、研究実績もある若い研究者の職が無くて大きな問題になっています。日本の頭脳ともいうべき人達に就職先がなく、生活や将来の事・・といった下部構造の問題で悩むというのは、大きな問題です。本人達のモラールダウンを招きますし、後に続く人達をディスカレッジさせ、研究者の道に進む事をためらわせることになります。これがひいては、日本にとって大変なマイナスである事を、(一応)研究者出身の鳩山首相も理解しているはずですが・・。

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オヒョウは、このあふれている優秀な人材こそサイエンスライターになるべきだと思います。自分の専門を離れ、研究を捨てる事に抵抗はあるでしょうが、サイエンスライターも、彼らの才能が無ければ勤まらない仕事なのであり、社会に有用な仕事です。青木薫氏のあとを継ぐべきです。

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かつて北大の助教授であった毛利衛氏は、自分の研究を捨てて宇宙飛行士になり、他人の研究の下請けにまわりました。しかし、他人の研究実験を請け負う仕事であっても、宇宙飛行士には、それを上回るやりがいと価値があった訳です。サイエンスライターも同じです。

同じように研究者の職を捨てて政治家になった、H首相の仕事にやりがいがあるか・・・、それは本人に訊かなければ分かりません。

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おじゃまま

笑うオヒョウさんは、サイエンスのかたですか?
「サイエンス」でなくても「ライター」っぽいので、違うかな…。
これは、雑談です。気にしないでください。

サイエンスライターにはお世話になっております、全く門外漢なので、
分かりやすい記述に大いに助けられて、楽しく「科学」できます。
日本にはあまりいない、ということですが、確かに少ない。
養老孟司先生とか、医学分野の方は多いのですが。
それでも、「エッセイ」ですね。

「ジュラシックパーク」とか、「コンタクト」とか、面白かったなー。
by おじゃまま (2010-02-04 00:27) 

笑うオヒョウ

おじゃまま様 コメントありがとうございます。

私オヒョウは、ライターではありません。古い友人には原稿を書く事で糊口を潤している人もいますが、彼らは、書いても収入にならないブログは書きません。 そして私はサイエンティストでもありません。 厳密に言えば、全ての分野のアマチュアです。 生活の為の仕事はしておりますが、その分野でもプロではありません。
しかし、私には、いろいろな分野のプロの友達がいて、彼らからいろいろな事を教えて貰い、聞きかじり、半可通の事柄をブログに書いております。 
でも本当はそういうのはちょっと寂しいのですが。

またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2010-02-04 01:30) 

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