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【 17年ゼミの嘘 】 [雑学]

【 17年ゼミの嘘 】

昔から生物学的な現象を、数学的に解析する・・という研究は数多くあり、オヒョウのような素人にも興味深い話がたくさんあります。

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例えば、以前このブログにも書きましたが、生物の個体数の増減を、非線形振動論のKV方程式で示す事は、実に興味深い事です。樹木が最も効率よく太陽光線を吸収するために枝葉を繁茂させる事を、数学的にシミュレーションしますと、美しいフラクタクル図形になります。(済みません、上記の2件は、雑誌「数理科学」などからの、請け売りです。自分自身で計算したり、作図した訳ではありません。

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そして最も鮮やかな例と言えるのは、物理学者ガモフが提案した遺伝子のトリプレットコードでしょう。 ご承知の方も多いでしょうが、これは遺伝子情報として必要十分なヌクレオチドの数を予想したものです。単一のヌクレオチドとなる塩基は4種類。 そして複数のヌクレオチドが並ぶ塩基配列で表現するアミノ酸の遺伝子情報は20種類(合成するアミノ酸が20種類あるという意味です)。ガモフの予想とは、ヌクレオチドが3個連結する必要があるというものです。 

n20となる、最小のnは3だから、これは子供にも判る計算です。実際、ヌクレオチドの結合はその通りで、n=3でした。

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しかし、464ですから必要なアミノ酸の種類20を大幅に上回ります。

これについて、ガモフは、前後対称な塩基配列は1種類とみなす・・など、さまざまな工夫をして、実は3個のヌクレオチドで表現できる情報量は20個ピッタリだ・・と考えたのです。 これが発表された時、天才ガモフの知名度もあって、皆さんこの説を信じたのですが・・・、生物の玉鉾先生は、ぐるりと生徒を見渡して、言われました。 

「 実は塩基配列の情報には大きな冗長性があり、ガモフが予想した通りではなかったのです。 遺伝子情報に冗長性があるのは、おそらく転写していく過程でミスコピーを防止し、ガンや突然変異の発生確率を下げる意味があるのかも知れません。ガモフは必要十分な情報量という前提で遺伝子を考えましたが、そこに間違いがあったのです 」

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ガモフの予想も含め、生物学と数学の接点を考えた場合、数論と特に縁が深い様です。その中で、以前、セミと素数の関係について、米国の数学者が唱えている珍説を知りました。これは、れいれいしく、NHKの番組にも登場した説です。

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近年有名になりましたが、北米には17年ゼミと13年ゼミという、驚くべき昆虫がいます。ご承知の方も多いでしょうが、17年ゼミとは、17年間を地中で暮らし、17年目の夏に突然地上に現れて羽化し、あたりをセミだらけにして、忽然と消えるセミです。毎年出現するのではなく、その後の16年は全く地表に現れません。13年ゼミは同様に13年毎に出現します。

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数論を扱う数学者は、この現象を見て、このセミの寿命が素数年である事の意味を発見しました(おそらく昆虫学者には相談しなかったものと思います)。数学者の仮説は、下記のものです。

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1.このセミの寿命には、もともと何種類かあり、地上に登場する時の年齢もさまざまであった。

2.このセミには、種を絶滅させるほどの天敵(寄生虫など)が存在した。

3.その天敵は、セミと同様、ある年周期で地上に出現し、偶然、セミと出くわした年は、セミが絶滅してしまい、淘汰された。

4.その結果、比較的大きな素数年を寿命とするセミだけが、生き残った。なぜなら、素数年を周期とする事で、天敵とバッタリ地上で出くわす可能性が少ないから。

5.天敵も13年や17年も待てないから、やがて絶滅した。

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しかし、昆虫をご存知の方なら、この仮説の欠陥がすぐに判るかと思います。17年ゼミや13年ゼミの注目すべき特徴とは以下の2点です。

1.昆虫としては驚異的な長寿命。

2.17年に一度だけ出現し、他の年には現れない不思議。

実は、寿命が素数年である事はそれほど重要ではありません。

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数学者の仮説への反論は簡単です。

1.セミの寿命は、素数年と限らない。ニイニイゼミのように4年という種類もある。

2.一定期間間隔で出現する天敵が、この種類(17年ゼミ)だけに存在するとは思えない。

3.アブラゼミなどは、寿命7年とされ、確かに素数年ですが、6年で羽化する場合もあります。

(だから、ジェネレーションギャップが無く、毎年同じ種類のセミが出現するのです)。

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実は、普通のセミの寿命にはあるバラツキが必要です。もし、全ての個体の寿命が、正確に同じ年数だったら、去年のセミと今年のセミの子孫達は未来永劫、交雑する可能性がなくなります。そうすると長い年月の間に、遺伝子が変化し、亜種になる可能性があります。そうなると、年によって、アブラゼミの種類が違ってきます。オリンピックのある年と無い年で、ニイニイゼミの鳴き声が違う・・・といった事態です。しかし、実際にはそんな事はありません。

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17年ゼミの場合はこの逆で、他のセミより寿命が正確で揃っており、16年や18年で羽化する個体がない事に注目すべきです。この結果、生まれた年の異なるセミは、永久に交雑せず、互いに別の進化をとげます。その結果、他の年に出現していた兄弟のセミが滅んでしまった可能性があります。

滅んだ理由は偶発的なものかも知れません。 理由を寄生虫などに限定する必要はありません。素数であったために天敵と遭遇しなかった・・・というのは可能的には言えても、17年ゼミの現象を説明するための必要条件ではありません。

17という数字については、その大きさに驚くべきであり、素数である事に驚くべきではありません。

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物事を証明する際、必要条件と十分条件について、人一倍厳密である数学者が、生物の事になると厳密性の担保という事を忘れるのは、不思議な事です。 牽強付会はオヒョウのブログではあたりまえですが、数学者には似合いません。

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はっこう

非線形が好きなはっこうには、楽しい記事でした。
ありがとうございました。
by はっこう (2010-02-03 20:38) 

笑うオヒョウ

はっこう様 コメントありがとうございます。

かつて学校時代の私の恩師は、実験にあたって
「神様、どうか世の中の現象が全て線形でありますように」と
祈ったそうです。 線形でなければ、ほとんど解析的に解けなかったからですが、実際、私の実験では、全ての現象はミクロ的にみれば
線形に近似できますが、マクロ的にみるとおおかた非線形でした。

ほとんどの現象は非線形なのに、数学的に解析解が得られるのは希というギャップに悩んだのは、もう何十年も前です。
だからリアプノフだとか、KdV方程式の名前を聞くと懐かしく思います。
ちょっとだけですが・・・。 またのコメントをお待ちします。

by 笑うオヒョウ (2010-02-03 22:29) 

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