【 雪国はつらいよ条例 その2 】 [新潟県]
【 雪国はつらいよ条例 その2 】
雪の降る中、会社にたどり着いたオヒョウですが、駐車場の一角は、契約している建設会社のパワーショベルとホイールローダーが占領しています。
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積雪時は、駐車場や出荷場、資材搬入場の地面の除雪を、それらの機械が行うのです。しかし屋根に積もった雪の雪下ろしは、人間の仕事です。工場家屋の屋根は、広すぎるし高さもあるので、人が雪下ろしするのは無理です。 それに勾配があるので、雪はある程度までは自然に滑り落ちます。 しかし事務所棟と生産技術棟の方はそうはいきません。自分たちで雪下ろしをするのです。
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朝会が終わると、上下防水の服(つまり雨合羽)を着て、一同、屋根に登ります。 現場の生産を止める訳にはいきませんから、雪下ろしに参加するのは間接部門のスタッフや管理職です。 オヒョウも含め、皆さんそれなりの年齢なので、本来雪下ろし作業に向いているとは言えないのですが・・。
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雪は降り続いていますが、やるしかありません。まずは生産技術の建物の雪下ろしです。最初に2階のベランダに上がり、そこから隣の建物の平屋部分の屋根に移ります。梯子を水平にかけて、移動するのですが、まるでヒマラヤ登山隊がクレバスを横断する時のようです。 そこから、また垂直に梯子をかけて、生産技術の屋根に登ります。
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しかし・・・・、屋根に登れません。 屋根の上の雪はオヒョウの身長を上回る高さです。私の身長は176cmですから、2mくらいはあります。しかも、雪はひさしのように出っ張っていて、オーバーハングした状態です。 まずベテランの先発隊が梯子の上からスノーダンプを使って雪をよけ、橋頭堡を築いてから屋根の上に登ります。
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スノーダンプは、倉庫から取り出した多くのスノーダンプの中から塗装のきれいな物を選びます。「錆があるものは、雪が付着して使いにくいんですよ・・」と雪下ろしのベテランは語ります。
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雪下ろし作業はひたすら肉体労働です。 しかも特定の筋肉だけを繰り返し使う作業なので、慣れていない人はすぐにギブアップして休憩です。つまりこれはオヒョウの事です。 そして私の受け持ち区画はなかなかはかどらず、最後まで雪が残っています。
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実は雪下ろし作業とは、個人の作業能率の差が極めて露骨にあらわれる仕事なのです。なんだか、オヒョウは苦手だなあ・・・。
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ようやく生産技術棟の屋根の雪下ろしが終わって、地上に降りると、これまた大問題です。屋根からおろした雪で入り口がふさがれ、ドアが開かない状態なのです。生産技術棟の前には高さ2mを超える、巨大な雪の壁ができていました。 こちらはフォークリフトに除雪用のバケットを取り付けて除雪してもらいました。
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午後は、事務所棟の雪下ろしです。今度はオヒョウが先頭に立って2階の窓から造り付けの梯子を登って、屋根に上がりますが、これまた、屋根に足を置くまでが一苦労です。 それでもなんとか雪下ろしを進めて、表面の雪を取り除いた箇所に足を踏み込むと、ズボッと股の深さまでのめり込みます。雪を掻きとったつもりでも、なお1m雪が残っていたのです。反対側の足で踏ん張って、抜こうとすると、今度はそちらの足もはまってしまいました。もはや下半身は身動きできません。 上半身をジタバタさせて、雪の上に寝そべり、なんとか脱出しますが、みっともない事おびただしい有様です。 屋根の上だから、誰からも見えないはず・・と思うと、後ろから「おひょうさん、何を雪の上で遊んでいるのですか?」と笑い声がします。
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笑える・・・・という事は他の人には余裕があるという事です。なかなか、オヒョウにはその余裕がありませんでした。なんとか、事務所棟の雪下ろしを終え、玄関前の雪も除けて、席に戻ると全身下着までビショビショになっている事に気づきました。「しまった、着替えを持ってこなかった」暖房の効いた部屋で、なおオヒョウは寒さに震えました。
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そこに現れた現場の人が言います。「何を寒そうにしているのですか? 現場の寒さはこの比ではありませんよ。 カマクラか冷蔵庫の中にいるようなものです。オヒョウさんが各職場に配置した赤外線ヒーターだけじゃ全く不十分なのですから」
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彼がそういうには理由があります。工場の屋根から滑り落ちた雪は4m程も積み上がり、軒の高さに到達しています。つまり屋根の雪とつながり、建物全体が雪の中になってしまいました。勿論窓からの採光はなく、電灯がなければ真っ暗です。 エスキモーが作る雪の家イグルーを巨大化した状態です。
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それはともかく、夕方の定時になると、すぐにオヒョウは帰宅する事にしました。 駐車場で車の雪を除きながら、事務所棟の屋根を見ると、先程雪下ろししたばかりなのに、もう30cmも雪が積もっています。
「あれまあ。さっきの雪下ろしの苦労は何だったのか?」
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でも考えてみたら、雪下ろしだけではないねぇ。 仕事の全て、生活の全てが、繰り返しの連続で、ふりかえると虚しさもあるけれど、無駄ではなかった・・・と思う事が多いな。
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ひとり納得して、再び大渋滞の道を家路についたオヒョウですが、最大の問題は、この後だったのです。 以下 次号
こんばんは。
なんともご苦労様です。
ご活躍に★★★。
by 夏炉冬扇 (2010-01-22 20:53)
素晴らしいコメント、有難う御座います。
アメリカの人が『沈黙』したお話、心にグッと来ました。
by 広島ピアノ (2010-01-23 12:39)
続きが楽しみ♪いえ、ご苦労様です。
by おじゃまま (2010-01-23 23:37)
夏炉冬扇様、おじゃまま様 コメントありがとうございます。
私は、金沢生まれなので、一応冬の雪にはなれていたのですが、
上越の山間部の雪深さは、桁違いです。
これからも折りに触れて雪模様を書いて参りますので、コメントをお願い致します。
by 笑うオヒョウ (2010-01-24 00:19)
広島ピアノ様 コメントありがとうございます。
遠藤周作が長崎でアメリカ人の団体に講演したのは事実で、彼らが沈黙したのも事実ですが、これはオヒョウ自身が立ち会った話ではなく、かなり昔の文藝春秋のグラビアにあったエピソードです。 勿論まだ彼が存命だった頃の話です。
またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2010-01-24 00:37)