【 オーダーは合っているけれど その2 】 [鉄鋼]
【 オーダーは合っているけれど その2 】
LCAのデータを入力しようとすると、対外的に公表している数値と実際の数値が乖離している問題に出くわします。例えば、炉は中の耐火物が薄くなってくれば、容積が増えます。
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私は製鋼部の幹部に電話しました。
「 うちの転炉は公称250tですが、実績見合いですと285tくらいですね。どの値をLCAに使いましょうか?」
「 それからうちのRH(真空脱ガス設備)ですけど、灯油のアトマイズとか、アルミを燃やしたりしていますが、RHでの酸化昇熱分をどうしましょうか?」
製鋼部の幹部は
「 アホか?真っ正直に鉄連に情報提供するアホがどこにいる。鉄連に報告するという事はライバル会社にも通産省(当時)にも伝わるという事だぞ。全部公称値で申告しろ。それにRHでは昇熱しない事になっている。昇熱は全てLF(レードル電気炉)で還元昇熱する事になっているだろ?」
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実際には高い電気代と能率の悪さを嫌う製鋼工場長はLFをほとんど使っていませんでしたが・・・・。
「それからな、オヒョウ君。 うちの転炉とか、うちのRHという呼び方は止めといてんか」
「はぁ?」
「転炉もRHも製鋼部のもんや。技術総括部のもんやないやろ」
「・・・・」
(この人は、北海道出身なのになぜ下手な関西弁を使うのだろうか)
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今の製鉄所の幹部には、彼みたいなバカはいないでしょうが、誰でも生の操業データの開示には、そうとう慎重になるはずです。別に不正はなくても、操業の生データを社外に知られるのはイヤなものです。
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その前、オヒョウが米国に勤務していた頃、日本からの輸入鋼材に軒並みアンチダンピング法が適用され、商務省にパネルが開かれた事があります。「当社の鋼材はダンピングではない」と反論する為には、原価構成に関する詳細なデータを開示しなければなりません。ライバル会社に経営情報を曝け出して、丸裸になる訳にはいきません。結局リザインという形で、ダンピングの課徴金を受け入れ、オヒョウ達は米国での商売の多くを失いました。 その経験から考えても、各社が正直ベースの情報を開示するとはなかなか思えません。
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結局、オヒョウは実体とかなり乖離したLCAのデータを提出したのです。おそらく、他の製鉄所も同じことだったと思います。そうして集計したLCAの評価値にどこまで価値があったかは不明です。そしてLCAがそうであるなら、RITEが算出したCO2削減コストだって、同じことでしょう。有効数字3桁の日本の必要コストを額面通りには受け取れません。
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では中国の数値はどうでしょうか?削減コストがプラスマイナスゼロというのは恣意的というか政治的な臭いがプンプンします。 CO2削減が、同時に省エネつまりコスト削減効果をもたらし、設備投資額と相殺するというのは、理屈にかなっていますが、CO2発生源の石炭にどれをとるか・・・で話が全く異なります。
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山西省で産出する、安価な一般炭、同じく国内ながら撫順の原料炭(強粘結炭)、オーストラリアなどから輸入した原料炭では、値段が全く違います。勿論為替相場の影響も受けます。原料炭と一般炭の比率は製鉄所(コークス工場)の技術力を示すものですが、これこそ、製鉄所によって違いがあります。パラメータの取り方でどうにでもなる数字です。
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中国のプラスマイナスゼロという数字は政治的な配慮をした値で、実際はマイナスの値であると・・オヒョウは考えます。実際はCO2削減によって儲かるのに、それを隠して、先進国から補償を得る・・または恩を着せる・・・というのが本当のところでしょう。
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各国の足並みが全く揃わず、政治的な思惑もうかがえる、CO2削減で、鉄鋼連盟は、どの数字を正しいと信じるのか?地球温暖化の予測にしても、CO2削減の約束にしても、信じられる数字は、鳩山さんが語った-25%だけではないでしょうか。それとて実現する可能性は必ずしも高くはないのですが。
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