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【 唐茄子屋政談聴き比べ 】 [雑学]

【 唐茄子屋政談聴き比べ 】 

世襲だの、親の七光りだの、家柄などというものを蛇蝎の如く・・というか、親の仇とばかりに憎んだのは、福沢諭吉です。中津藩の下級武士の出身である彼は、無能なのに親が偉かったり、家柄が良いという理由だけで高位高官に就く人々をいやというほど見てきたのでしょう。

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あの「学問ノススメ」の冒頭にある「天は人の上に人を・・・」の一文は、人は生まれながらにして平等であり、格差が生じるなら、あくまで後天的な要素、とりわけ本人の才能と努力だけに基づくべきだ・・という考えです。

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しかるに、現代は世襲が幅を利かせています。歴史を振り返れば、世襲が幅を利かせる時代は、日本経済や社会が沈滞した時期です。封建制度だった江戸時代は、社会は安定しましたが経済成長率は一貫して低かったと思われます。

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日本に活気があった時代、例えば戦国時代、明治維新の時期、戦後の混乱期などは、皆世襲制が崩壊した時期でもあります。外国でもそうです。中国に活気があり、経済成長が盛んな理由の一つは、多くの経営者や組織のリーダーが初代だからです。中国の鄧小平らによる改革開放経済は始まって30年です。だから今のリーダーは多くが初代です。これから世襲で2代目が登場してくるとどうなるか分かりません。

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日本はどうでしょうか?政治家、病院経営者、オーナー企業経営者、歌舞伎役者は世襲が当たり前で、逆にそうでなければ通用しません。 そればかりか、タレント・芸能人、教員、大学教授、農林水産業まで全てで世襲が幅を利かしています。公の地位にも世襲が多いという事は、親のコネが重要だという事です。これでは社会に活気がないのも道理です。 オヒョウも福沢諭吉同様、世襲を憎みます。

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明治維新とは政治システムの革命であると同時に、世襲制を一旦崩壊させた事でもあるのですが、現代の世襲政治家の宰相が「平成維新」を唱えたりすると、「お前が言うな」と片腹痛く思ったりします。

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世襲の弊害についての議論は別稿に譲るとして、ただの世襲とは言えない親子について今回は考えます。古今亭志ん生と古今亭志ん朝の親子の事です。 オヒョウが嫌う世襲は、実力の無い息子が跡を継ぐ事ですが、この親子の場合は息子にも実力があります。志ん朝の兄である金原亭馬生については、ここでは触れませんが、志ん生と志ん朝の落語には類似点がかなりあります。 志ん朝が親から学んだか、あるいは落語の才能が遺伝したのかも知れません。

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実は、オヒョウはこの親子が演じる落語の「唐茄子屋政談」を、CDで聞きます。 志ん生の方は、いくつも「唐茄子屋政談」の録音が残っており、聞いてみると、それぞれに微妙に言い回しが異なります。志ん朝の方は、オヒョウが聞くことができるのは1種類だけです。そして二人の落語を比べてみると面白い事に気づきます。

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二人の語り口は、かなり共通しますが、微妙に違う部分もあります。

1.志ん朝の方が発音が明瞭で、台詞が聞き取りやすく、わかりやすい。

これは、志ん生の録音がかなり高齢になってからであるため、発音が不明瞭になっていたからかも知れません。普通、代替わりして若い落語家が古典落語を話す場合は、現代風に手直ししたり、古めかしい表現に注釈や説明を加えたりしますが、でも志ん朝はそれをしません。 それでもかなりわかりやすくなっています。

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2.話のつやっぽさでは、志ん生の方が上。  

不思議な事ですが、より高齢であった志ん生の語り口の方が、女性の台詞は色っぽく聞こえます。志ん朝の話に登場する女性の話し方はどちらかというと中性的です。これは多分、女性経験の差、あるいは実際に遊郭で遊んだ経験の有無が影響していると思います。志ん朝が特にマジメだったかどうかは分かりませんが、彼は、年代的に吉原で遊ぶ事はできなかったはずです。

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その経験の差は、粋筋の女性の台詞を語る時に現れます。そして吉原で遊ぶ男性の表現にも現れます。「唐茄子屋政談」は、ご承知の通り、遊郭での遊びが過ぎて、親に勘当されたドラ息子が、労働の厳しさを知り、改心して仕事に励み、かつ人助けをするという、人情話ですが、実際に吉原を経験している志ん生の方が、やはりちょっと上手です。

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落語の才能は遺伝するかも知れませんが、経験の差・・・つまり遺伝しない獲得形質の違いは、志ん生/志ん朝の親子でさえいかんともしがたいものです。二人の親子名人の落語を聴き比べると、遺伝するものとしないものの区別ができて、オヒョウには面白いのです。

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林家正蔵(こちらは、祖父と孫)の聴き比べ、或いは林家三平(父と子)の聞き比べも、実現すれば面白いかも知れませんが、当分無理でしょう。当代の林家正蔵(こぶ平)も、それなりに勉強しているそうですが、彼の古典落語がCD化されるのは、かなり先でしょう。少なくとも、今の時点では先々代の祖父はおろか、先代の正蔵(林家彦六)にも全く及ばない事は明らかでしょうし。


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白熊パパ

笑うオヒョウさんとは思想が違うかもしれませんが、自分は現在、
アマゾンに「学問ノススメ」と「文明論之概略」を注文していて、
配送待ちです。何か因果を感じます。
by 白熊パパ (2010-01-12 02:08) 

釣られクマ

福沢先生の脱亜論という本があるのですが、驚きの連続です。
今より国と国との往来がまだ盛んではなかったころなのになぁ。
by 釣られクマ (2010-01-12 12:13) 

笑うオヒョウ

白熊パパさん コメントありがとうございます。
評論家の徳岡孝夫氏は「福沢諭吉ほど読まれざる思想家もいない」と言っています。
知名度は抜群ながら、人々は彼の言葉の断片だけをしばしば語り、全文を読もうとしないからだそうです。その福沢諭吉が最近人気らしいです。理由はオヒョウにはよく分かりませんが、彼の唱えた脱亜入欧論が、近年の煩わしいアジア諸国との外交関係から再評価されているとか、近年人気の「坂の上の雲」で秋山好古が最も尊敬する教育者として福沢の名前を挙げているから・・というものかも知れません。私としては彼の思想にも親しみたいですし、彼の肖像がある紙幣にももっと親しみたいのですが、なかなかそうもいきません。 またのコメントをお待ちします。

by 笑うオヒョウ (2010-01-12 12:25) 

笑うオヒョウ

釣られクマさん コメントありがとうございます。

福沢先生のすごいところは、150年も前の意見がそのまま、現代でも通用するという事でしょうね。
誰の言う事が正しいのか、時間が経たないと分からないものなのかも知れませんね。 野党時代と政権与党になった後とで、言う事が豹変する人の場合は、時間をおかなくても、偽りである事がすぐに分かりますが。 毎回釣られクマさんのブログは楽しく拝見しております。 またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2010-01-12 12:30) 

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