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【 本船テケミ その1 】 [鉄道]

【 本船テケミ その1 】 

4年前に羽越線で発生した特急電車の脱線転覆事故で、山形県警は列車の運行管理者を書類送検しました。 具体的にはJR東の新潟支社の運輸部輸送課の、司令室長 ,総括指令長、指令長の3人が書類送検されたものです。この問題については、国土交通相の航空・鉄道事故調査委員会が、事故の原因は局所的な突風であり、予測不可能として、不可抗力=つまり刑事責任は問えない・・との結論を出しましたが、それと全く反対の結論です。

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実は安全工学というのは、オヒョウの専門分野です。だから、この処置についても一家言があります。率直に言えば、県警の書類送検は思慮に欠けるものだと、オヒョウは思うのです。交通機関の事故の責任所在を考える場合、運行当事者(運転士やパイロット、ドライバー、船長)、運行管理者(列車指令、管制官)、製造物責任者(航空機メーカー、自動車メーカー、車両メーカー)の3者について、独立して、それぞれ考える必要があります。

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かつて、事故原因調査の研究が未発達だった頃、何でもかんでも運行当事者の責任にした時代があります。実際、1070年代までの航空事故の原因をみると、パイロットの操縦ミスと結論されたものが多いのです。原因不明の場合は、全て操縦ミスにされ、悪く言えば死人に口なしでした。その代わり、機長や船長、運転士には大きな判断権限が与えられていました。 そして運行管理者と製造物責任者の責任はあまり追求されませんでした。

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今はそうではありません。 何でも運行担当者の責任にしては、本当の原因究明ができず、安全技術の進歩につながりません。また運転者の刑事責任に固執すると、保身の為に正確な証言が得られなくなる可能性があります。だから最近は運行担当者の刑事責任を免責にする代わりに、正直な証言を求めるというのが、米国などの航空事故調査の方針です。この考え方はノンフィクション作家の柳田邦男氏の主張でもあります。

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そして、オヒョウはその考え方を運行管理者(つまり、列車指令)にも適用すべきだと考えます。なぜなら、現代の公的大量輸送機関は昔と違い、巨大システムであり、運転士も列車指令もそのシステムオペレーターに過ぎない・・という点では同じだからです。

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確かに現在のJRでは、列車を停めるか走らせるか、あるいは速度をどうするかは、運転士には決められず、列車指令の指示が上位に来るので立場は違いますが、本質的には同じです。

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もうひとつ、オヒョウが刑事責任を問う事に反対なのは、今後への影響を懸念するからです。強風下で列車を走らせた為に警察に捕まり、送検されるのでは、これからちょっとでも風が吹けば、列車を停める事になるでしょう。これが労働運動の一つであるサボタージュや順法闘争の一手段として用いられる可能性もありますし、そうでなくても、警察に捕まるかも知れないなら、誰も列車を走らせません。

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もし、春のそよ風で、全ての鉄道が止まった場合、どうなるでしょうか?運行当事者や、運行管理者は痛くも痒くもありません。それで処罰される訳でもなく、給料が減る訳でもありません。むしろ、仕事せずに済むだけ、列車を止めた方がいいのです。JRもそれで会社が潰れる訳ではありません。 困るのは乗客つまり利用者です。 しかし窓口でクレームしても、

「風が吹いているのに列車を走らせたら、警察に捕まるかも知れない」と言われれば反論できません。

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安全は全てに優先する・・と言いますが、実は安全活動と経済合理性は対立する事もあり、多くの企業活動は、そのバランスを考えながら操業しています。オヒョウにも経験があります。

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製鋼工場に勤務していた頃です。安全に関してスピーチする機会があり、その重要さを強調したところ、現場の人から言われました。

「 どんなに注意しても、製鋼工場の操業には必ず危険がある。 オヒョウさんが言う様に、本当に安全を重視するなら、操業しないのが最も安全だ。しかし、それは許されないでしょう。安全第一というのは、まやかしではないのか?」 

これは反論に窮する問いかけです。

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実際には、企業活動の経済合理性が許す範囲内でしか、安全は担保できません。 しかしそれを口にする事はできません。風が吹くなかで列車を走らせて捕まるなら、 もはや列車を走らせる事はできない・・と運行管理者が考えたら、会社はどうすればいいのでしょうか? 経済はどうなるでしょうか? 今回の書類送検は、そういうデリケートな問題を考えずに行った暴挙です。

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昔は交通機関の運行担当者に、最大限の権利と責任が与えられていました。走らせるか、止めるか・・・は現場で一番多くの情報を持つ運転士や船長が判断できたのです。

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表題にある「本船テケミ」とは、洞爺丸台風の際に遭難しなかった青函連絡船、大雪丸が打電し続けた電報の略文です。

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世界最悪の海難事故はタイタニック号の沈没なら、日本最悪の海難事故は洞爺丸台風での遭難です(戦争中は除く)。 この台風では洞爺丸の他に貨物列車を載せた連絡船など、青函連絡船だけで合計6隻が沈没し、他にも多くの船舶が犠牲になっています。

台風接近でスケジュールが遅れた結果、早く出港せよと、督促を受けた多くの船が台風の通過を待たずに出港し、海上で遭難しましたが、なんども出港を促されながら、船長の判断で出港しなかったのが大雪丸です。(他に、もう一隻だけ助かっています)。

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大雪丸は、問い合わせに対して「ホンセンテケミ」と返電しています。テケミとは「天候険悪につき出港見合わせ中」をカタカナ3文字にした略号です。 もし台風の勢いが衰え、洞爺丸他、出港した船がどれも遭難しなかったら、大雪丸の船長は非難されたかも知れません。しかし、僚船が遭難したためにこの船長は英雄扱いとなりました。これは皮肉な事です。

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責任ある、船長=運行担当者や運行管理者が判断したのなら、結果はどうあれその判断を尊重し、刑事責任は問うべきではありません。今回の脱線事故も、列車指令をしょっぴいたところで、何にもなりません。それより、原因究明に尽力すべきです。

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以下 次号


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白熊パパ

この2日間だけ平和ボケで・・・。
Merry Christmas! Love & Peace!
by 白熊パパ (2009-12-25 02:41) 

笑うオヒョウ

白熊パパさん、コメントありがとうございます。

この2日間は、私にとっては、クリスマスというより
クルシミマスという感じで、単身生活の無聊を嘆いています。

またのコメントをお願いします。

by 笑うオヒョウ (2009-12-25 17:32) 

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