SSブログ

【 自衛隊の資材の海外調達は可能か? その1 】 [雑学]

【 自衛隊の資材の海外調達は可能か? その1 】

~君は北朝鮮製の落下傘で降下訓練をできるか~

< 火薬について >

再び事業仕分けの話ですが、防衛省関連の予算がやり玉にあがりました。 これまでコスト意識が希薄だった世界に、コスト意識を植え込むのは重要な事ですが、難しい事でもあります。

・・・・・・

防衛省側は、自衛官の増員を提案して、仕分け人達に、けんもほろろに扱われました。

議員は、「 全ての省庁が予算を削減し、定員削減を提案している時期に増員を申請するとは、何を考えているのですか?」となにやら昔の財務省の主計官のようです。

・・・・・・

でも、その前日の文部科学省の事業仕分けでは、文科省が頼んでもいない教員の定員増を、仕分け人グループの方から持ちかけています。少子化で生徒・児童数が減少していくなかで、考えにくい事ですが、日教組出身の官房長官を抱え、有力な支持母体に教員組合を持つ現政権としては、日教組に阿る必要があるのでしょう。

・・・・・・

一方で、民主党には旧社会党系の議員もいますし、社民党とも連立を組むのですから、現政権が、自衛隊に対して厳しい態度で臨む事は判っていました。 教員の定数を増やし自衛官の定員を減らす事は、マニフェストには書いてありませんが、政府の基本方針と理解していいでしょう。

・・・・・・・

つまり事業仕分けはショーであり、最初から結論は決まっていたのです。

・・・・・・・

それでも、無駄を省いて、節約できる費用は節約すべきなのは当然であり、防衛省も例外ではありません。自衛官の定員や正面装備の近代化という本質的な部分は高度な政治判断の世界ですが、後方支援など、それ以外での費用削減は多いに検討すべきです。 しかし、そこで出てきた議論は、例によって漫才のようなものでした。

・・・・・・・

仕分け人「火薬を輸入品にしたら、コスト合理化できるのではないか?」防衛省側は、苦笑いして「輸入品は品質・性能のばらつきがあって困るのです」と、おだやかな反論をしますが、説得力はありません。機械の鋳物部品であれ、非調質鋼であれ、溶接ワイヤであれ、転炉の耐火物であれ、国産品から輸入品に切り替える時には、誰しもが品質・性能のばらつきを懸念します。これはあたりまえの事であり、本来なら自衛隊の火薬に限った特別の事情を説明すべきだったのです。

・・・・・・・

実は弾薬あるいは火薬の性能・品質は、軍隊のいのちです。

過去の日本の戦争を見ると、日本が相手に優る火薬を持っていた戦争は勝利し、相手に劣る火薬を用いた戦争は負けています。具体的には、下関戦争と薩英戦争、太平洋戦争では、日本の火薬は劣っており、負けてしまいました。日清戦争と日露戦争では、日本の方が高性能の火薬を用いて勝利しました。

・・・・・・・

とりわけ、日露戦争では下瀬火薬と言われるピクリン酸を炸薬に用いた事が、勝利に大きく貢献したとされています。しかし、下瀬火薬は弾頭の炸薬として用いられ、大砲の発射用の火薬は実は英国からの輸入品でした。もし火薬の性能がばらついていたら、大砲から発射される砲弾の初速が変わってしまいます。当然ながら放物線を描いて落下する砲弾の着弾点も変化します。

正確な射撃とは、精密な角度で発射する事と同時に、それぞれの砲弾が同じ速度で発射される再現性の高さを意味します。だから火薬の品質の安定は射撃の正確さには重要な意味を持ちます。

・・・・・・・

日本海海戦では、日本艦隊が、正確な射撃を行ったのに対して、劣悪な黒色火薬を用いたロシア艦隊の大砲の命中率は極端に低く、その差が勝敗を決定づけました。実際、射撃の再現性が乏しく、命中率の悪い大砲くらい困るものはありません。頭の悪い国会議員と同じくらい困った存在です。

・・・・・・・

第二次大戦では、その火薬を供給してくれた英国が敵にまわりました。石油資源が豊富な連合国は石油から取れるトルエンを用いて高性能火薬TNTを大量生産しました。 一方、枢軸国の日本とドイツは石油資源に窮して、石炭から作る火薬を多用しましたが、品質性能面では連合国に適いませんでした。

・・・・・・・

ちなみに、下瀬火薬であるピクリン酸は、フェノール(石炭酸)から製造できます。これは(ゆとり教育化前の)高校2年生の化学に登場する内容です。 しかしピクリン酸は兵器用火薬としては、TNTに比べて劣ります。ピクリン酸について書き始めるときりがないのでこの続きは別稿に譲ります。

・・・・・・

ドイツの場合はもっと悲惨で、対戦末期にはアマトールというTNTのまがい物の火薬を使用していました。世界初の弾道ミサイルV2号の弾頭にはこのアマトールが使われていましたが、結局ロンドンを火の海にする事はできませんでした。

・・・・・・・

現在、射撃の命中率、及びその元となる火薬の品質はそれぞれの軍隊の強さを示す指標でもあり、トップシークレットです。 仕分け人に「輸入すればいいでしょ」と言われても、ニヤニヤするばかりで、詳しい情報は開示できないはずです。 但し聞くところでは、日本の自衛隊が使用する火薬は世界最高水準らしいとの事です。 戦略物資である火薬を輸入しても、同等の最高品質のものを調達できるとは思えません。

・・・・・・・

では、武器・兵器以外の部分での物資調達を輸入にできないか・・という提案になりますが、これにも微妙な問題がありそうです。それについては次号で


nice!(3)  コメント(4)  トラックバック(0) 

nice! 3

コメント 4

夏炉冬扇

お早うございます。

いつもながらのご博識に、うーん、とうなっております。「仕分け」の議院さん、何やらカメラ目線に見えますから、余り見たくもありません。しかしながら、前政権からの変化ですから、1度はういうこともあって然るべきと考えております。

火薬の性能の話、その道に入るとそうでしょうね。有機、無農薬で野菜を作っていると「ちがう道」はないかと本能的に思います。
by 夏炉冬扇 (2009-11-28 09:57) 

釣られクマ

なんでもかんでもメードインチャイナじゃなぁ・・・
by 釣られクマ (2009-11-28 13:00) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇さん コメントありがとうございます。
どうしても事業仕分けについては、批判的にみてしまいますが、国の財政がピンチなのも事実。 仕分け人を非難するだけでは無責任と言われそうですが、実のところ、私には名案などありません。

またコメントをお願いします。

by 笑うオヒョウ (2009-11-29 22:25) 

笑うオヒョウ

釣られクマさん コメントありがとうございます。

オヒョウが子供の頃、夏に遊ぶ花火は、全て国産品でした。
それが何時の頃からか、全て中国製になってしまいました。
読めない中国語で書かれた注意書きを見て、大変不安になったのを
憶えていますが、やがて慣れてしまいました。恐ろしい事です。
しかし、中国人にその事を話すと、火薬を発明したのも中国人、春節に爆竹をならす文化も中国、だから中国人は花火製造に慣れているから安心だよ・・・との事。しかし、その中国では毎年、爆竹の事故や、花火工場の爆発で何人もの人が亡くなっている訳です。まして軍用火薬となると・・・
by 笑うオヒョウ (2009-11-29 22:39) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。