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【 ブルーバックス 】 [雑学]

【 ブルーバックス 】

最近、理科系を希望する生徒が少ないそうです。理由は幾つか考えられます。

1.社会にでてから、文科系の人の方が出世する。

2.大学や高専では、実習や演習の多い理科系の学部・学科はしんどい。文科系の学部の方がのんびりできる。

3.理科系の場合、前提として数学を理解しないといけない。

他にもあるかも知れませんが、本当の問題は上記の3点ではなく、少年少女時代に自然科学の面白さや神秘さを理解しないまま、過ごしてしまう事かも知れません。

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自然科学の神秘さを知るには、初学者に適した啓蒙書が必要です。そしてオヒョウの高校時代には講談社のブルーバックスがありました。

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先日、ハッコウ先生のブログを拝見していて、都筑卓司先生の名前が登場して懐かしく思いました。 何冊も読んだブルーバックスの中で印象に残ったものには、なぜか都筑先生の作品が多いのです。特に「マックスウェルの悪魔」という作品は、表紙からして奇抜ですし、書かれている内容も興味深いものでした。

熱力学の考え方・・の基礎が述べられています。

ちなみに、鉄冶金学を学んだ製鉄技師の中には、熱力学が専門だ・・・と自慢するくせに熱力学の基本法則を理解していない人がいました)。

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読み物として読めて、それで科学の本質を理解できればそれに越した事はありません。普通の読者にとって複雑で難解な数式を読み解く事は避けたいですから。

しかし、作者にとっては、数式無しの文章で自然科学を解説する事は殆どの場合、非常に困難です。一流の学者でかつ初学者への説明の技術に優れた人だけが執筆者となりえます。

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ブルーバックスは、真鍋博や永見ハルヲのイラストはありますが、数式はほとんどなく、文章だけで構成されています。 だから読む方は易しいけれど、書く方は非常に難しい書物なのです。 いきおい、ポイントだけを書いて、その結論に至る過程は割愛する事になります。

また一つの現象に対して、一つの面からだけ述べて、他の特性を捨象する事になります。そこに陥穽があります。

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ブルーバックスを読んで、その結論だけを憶えて、自然科学を理解した積もりになったら大変です。特に理論物理などの抽象的な内容では、読み手が本当に理解したかどうかは、判断が難しいのです。

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専門書を読み、大学で授業を聞いて、演習に参加し、問題集を解いても、そのあとで先生に質問して、自分が全く理解していなかった事が判明する・・・なんて事はざらです。(オヒョウには経験がたくさんあります)。それを初学者向けの啓蒙書一冊で理解した積もりになれば・・・大変な間違いです。書き手にとって難しいブルーバックスは、実は読み手にとっても注意すべき書物なのです。

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では外国にはこれに類似した書物はあるのか?多くを知る訳ではありませんが、オヒョウが確認した限り、新書本や文庫本でシリーズ化した科学啓蒙書はなさそうです。

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ガモフやファインマンという一流の物理学者は、科学を解説した随筆的な書物を出していますが、ブルーバックスとはちょっと毛色が違います。

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米国の場合、その役割は本ではなく雑誌が受け持っていますが、Popular Science誌やPopular Mechanics誌はレベルが低く、科学全体の啓蒙書たりえません。その上のScientific American誌あたりだと、今度はレベルが高く、科学朝日や日経サイエンスと、専門誌(論文誌)の中間あたりになってしまいます。

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米国の科学者達は子供の頃、どんな書物を読んで科学に興味を持ったのでしょうか?

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日本の場合、啓蒙書や科学雑誌はどうなっていくのでしょうか?ブルーバックスの代わりに、書店で目立つのはビジュアル系の科学雑誌です。

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地球物理学者の竹内均氏は東大を退官する際、National Geographic誌を出版社に持ち込み、「こんな雑誌を日本でも作りたいのだ!」と訴えて、雑誌Newtonの初代編集長になりました。

しかし・・・、オヒョウの理解では、NewtonNational Geographicでは、ふんだんに美しいグラビアが取り入れられている事以外、共通点はありません。掲載されている記事は全く異なるのです。

しかし、グラビアというか、精緻なイラストが随所にあるだけでも科学雑誌としては大進歩です。読者にとって、ブルーバックスで活字を追うより、Newtonのイラストを見る方がずっと楽しいですし、はるかに易しいのは間違いありません。 

しかし、それでいいのか?

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Newtonの様な科学雑誌では、相対性理論を説明するのに、4次元の現象なのに、むりやり3次元の形にして、2次元の紙にイラストで示しています。 これでは正確な理解の代わりに誤解をもたらす危険はないのか?

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科学解説書は、数式を解読する難解さを避けて、文章だけの書物になり、文字から現象をイメージする困難さから、イラスト主体になってしまいました。世は全て安直な方向に流れています。しかし本来、自然科学は、いや学問とは、必ず学ぶ上で困難さを伴うものです。それを避けていて本当に学問が身に付くのか?

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ブルーバックスはあくまで入り口でした。そこで興味を持てば、さらに上級の学校に行って、専門知識を学ぶように・・・という作者からの暗黙のメッセージがありました。

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おそらく今の日本の青少年の理科離れは、学問の入り口の時点で適切な書物に出会えないからでしょう。 今、オヒョウの愚息達を見ていても、本当に彼らに適した本は少ないようです。

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日本にはノーベル賞受賞者を含め、一流の学者がたくさんいます。そしてその多くが若い世代の理科離れを嘆いています。それなら、彼ら自身が積極的に啓蒙書を書くべきです。そこでオヒョウの提案ですが、学士院賞やノーベル賞、叙勲を受けた科学者は一人一冊以上、ブルーバックスを著すこと・・・という規則を作ってはどうでしょうかね?


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はっこう

はっこうです。
恩師 都筑卓司氏をご紹介頂きましてありがとうございました。
今後ともよろしくお願い致します。
by はっこう (2009-11-21 23:04) 

夏炉冬扇

お早うございます。
文系です。それが歳と共に本を読まずになりまして…

もっぱら韻文の世界です。

by 夏炉冬扇 (2009-11-22 09:40) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇さん、コメントありがとうございます。
私オヒョウは自分では理科系の積もりですが、周囲は誰もそうは思わず文科系の人間だと思われています。
ブログには、自然科学、人文科学、社会科学の各トピックスについてバランスを取りながら、掲載しようと思いますが、雑文の内容がそもそも科学ではないので、もはや理系も文系もありません。

ただ、オヒョウが唯一自慢できる財産である、私の友人には、理系、文系、医系の専門家がバランス良くいます。実はこのブログは、その知己・友人達との会話で仕入れたエピソードを紹介するものが大半なのです。

またコメントをお願いします
by 笑うオヒョウ (2009-11-22 22:03) 

笑うオヒョウ

はっこう先生、コメントありがとうございます。

今日は、薄幸と薄倖について、雑文をしたためましたが、これは勿論、はっこう先生とは関係ありませんので、その旨ご了解願います。

近々、横浜市立大学についても、拙文をしたためようかと思っております。
またコメントをお願い致します。
by 笑うオヒョウ (2009-11-22 22:07) 

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