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【 1時間でスーパーコンピューターを説明できるか? その3 】 [コンピューター]

【 1時間でスーパーコンピューターを説明できるか? その3 】 

1960年代初頭、まだ電子計算機が日本で余り知られていなかった頃、イリノイ大学で、電子計算機の先駆的な研究をしていた日本人がいます。高橋秀俊、渕一博、相磯秀夫・・といった人達です。

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彼等がイリノイ大学へ留学する少し前の50年代末には、東大の高橋研究室にいた後藤英一が極めてユニークなパラメトロン計算機を発明しています。高橋、渕、相磯等は、帰国後、東大や逓信省の武蔵野電気通信研究所(当時)、あるいは慶応大学で、後藤英一のパラメトロン計算機を発展させる形で、日の丸コンピューターの開発を進めました。 日本の電子計算機の黎明期は、数人の天才が中心になり、その研究を政府がバックアップする形で始まったのです。

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当時、通産省は自動車と電子計算機の市場開放を迫るアメリカの圧力に必死で抵抗し、国産の自動車と国産の電子計算機が実力を付けるのを待っていました。もしその時点で市場を開放すれば、自動車も電子計算機も全て米国資本の会社に席巻され、日本企業が日の目を見る機会は永久に来ないと思われたからです。

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彼等が開発したのは、どれも性能的には今のパソコンどころか電卓にも及ばないささやかなコンピューターでしたが、それらが完成した事で、IBMに対抗できる国産コンピューター産業の基礎ができたのです。

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その後も、国産のコンピューターと外資系コンピューターの競争はずっと続いています。20世紀の末には、世界に先駆けて第五世代のコンピューターを開発するプロジェクトが渕一博の主導のもとで行われ、オヒョウの同級生もプロジェクトの一員として参加しました。 もっとも、そのプロジェクトは結局、竜頭蛇尾の結果に終わりましたが・・・。

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今はもう、通産省(経産省)は国内のコンピューター産業を保護する考えは無いようです。コンピューターの世界自体がボーダーレスになったので、もはや国産だの外資系だのと拘る必要もなくなりました。そして、日本が発明したパラメトロン計算機は、今は博物館にしかありません。

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では、1950年代から1980年代にかけて、国産のコンピューター開発を国家プロジェクトとして行ったのは無駄だったのか?と言われれば、そんな事はない・・とオヒョウは反論します。

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20世紀後半に、IBMに対抗する国産電子計算機メーカーを持たなかったドイツやイタリア、フランス、英国が、世界のコンピューター開発に於いて、今、どんな立場にあるかを考えてみれば分かります。当時、米国に立ち向かったのは(西側では)日本だけであり、今もスーパーコンピューター開発を含め、コンピューターのあらゆる分野で存在感を示しているのは日本だけです。(パソコンでは完全に米国の軍門に下りましたが)。現在、日本のコンピューター産業は、年間数十兆円の売り上げ規模ですが、高橋秀俊らの先人の努力がなければ、それは存在しなかったのです。

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今、コンピューター開発の巨大プロジェクトを止めてしまえば、将来その産業を失う事になるのです。

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今、先人達のパイオニア精神は脈々として生きています。相磯秀夫の弟子である坂村健は、国産OSの開発にこだわり、TRONを完成させています。 しかしかつては国産の電子計算機を擁護した通産省は、マイクロ・・・の圧力に負けて、日の丸OSのTRONを潰そうとしました。パソコンの世界では完全に米国のヘゲモニーが続いています。

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今世紀に入って、高橋秀俊、後藤英一、渕一博らは相次いで他界しました。 21世紀の後輩達にバトンを渡して、第一走者は去ったのです。それなのに、ああ、世界に冠たる日本のスーパーコンピューター開発プロジェクトが、事業仕分けで廃止になるとは・・・。泉下の彼等が聞いたらどう思うか。

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映画「2001年宇宙の旅」に登場するコンピューターHAL2000は、最後に「自分の生まれはイリノイ州・・・」と話したところで、永遠に停止しました。イリノイ大学から始まった日本の電子計算機研究も、ついに息絶えます。合掌


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夏炉冬扇

今日は。
廃仏毀釈というのがありました。そうなるのかどうか、歴史の1コマで。

寒くなりました。
by 夏炉冬扇 (2009-11-19 16:00) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇さん、コメントありがとうございます。当地新潟も寒くなって参りました。明治初期の廃仏毀釈では、多くの仏教の資産というか宝物が失われたそうで、後世の研究者からみると困った事態だったと思います。 詳しくはY博士に訊かないと分かりませんが・・・・。 しかし、現代の日本で、政権交代だけでこれだけ方針や価値観が変わるとはオヒョウは思っていませんでした。政治や行政の継続性に期待して、長い目で仕事をしていた人の中には、狼狽する人も出てくるでしょうね。 いずれ日本にもミネルバのフクロウが飛び、客観的な目で過去を眺める事ができる日が来るでしょうが、事業仕分けで、多くの仕事を切り捨てた事の功罪も、何時か定まると思います。

オヒョウは、キャンパスで見た、痩身白髪の高橋秀俊教授や、ギョロ目の相磯秀夫教授を思い出します。本当は拙文にお名前を出す時、敬称を用いるべきだったのですが、呼び捨てにしてしまいました。反省
by 笑うオヒョウ (2009-11-19 17:57) 

yoshimi

あの仕分け作業はパフォーマンス的には面白いようですね。私はテレビは見ないので、ネットのニュースで見ているだけですが。

仕分けの時の評価基準が、効率性とか”無駄”がないかとどうかという、いわゆる経済合理性がメインになっているような気がしますが、たしか首相の所信表明はそういう経済性優先の社会が良くないとか言っていたはず。自己矛盾しているような気がしますが。

それに本来、行政改革は行政内部の非効率・無駄をなくすべきもので、税金が国民に還元される事業予算をバサバサ削るのは、順番が違うように思います。
あの極端な橋下知事は、国家公務員の給与を削減せよと言っていますが(大阪府はバッサリ削りました)、労組がバックにいるので、これは無理でしょう。

そもそもいつの間にか国債発行目標が44兆円まで膨らんでしまってますね。30兆円が今までの上限の目安であって、景気対策のために一時的にに44兆円になってしまったはず。
景気対策にはあまり興味がない(ように思える)政府ですから、基本は30兆円プラス景気対策分(α兆円)として考えないと、歯止めがかからなくなりそうです。
by yoshimi (2009-11-20 01:05) 

笑うオヒョウ

yoshimiさんコメントありがとうございます。いつもながら鋭いご指摘ですね。確かに鳩山政権は経済合理性ばかりを追求する社会から脱却すると言っていたので、仕分け作業の評価基準はそれと矛盾しますね。 それにやはり予算の使い途を考えた場合、最終目的は国民を幸福にする事ですから、経済合理性の観点を強調しすぎる事に違和感を持ちます。それに、単に事業をバッサリ斬るのは、お金の節約にはなりますが、無駄を省く事とは対応しないとオヒョウは考えます。本当に無駄を省いていけば、ある意味で公務員の労働強化か待遇悪化が必然となりますが、自治労や官公労をバックに持つ、鳩山政権にそれが可能か・・・はなはだ疑問です。つまり私はyoshimiさんのご懸念に全く同意するものです。

国債が際限なく増えていく事が、国民生活にどういう形で影響するのか・・・これまで実感がわきませんでしたが、これからは顕在化するのでしょうね。戦争や飢饉が無いのに、国や社会が貧しくなっていく過程を私たちは目撃するのでしょうか・・。これまでは子供の代にツケが回るという表現でしたが、中年であるオヒョウの老後にも確実に影響が及びそうです。
漠然とした不安を理由に芥川龍之介は自殺しましたが、今、国民の多くが明らかな不安を持っていると思います。
またコメントを宜しくお願いします。
by 笑うオヒョウ (2009-11-20 02:05) 

釣られクマ

いい記事ですね、さかのぼって拝見します
by 釣られクマ (2009-11-20 12:10) 

笑うオヒョウ

釣られクマさん コメントありがとうございます。
私も釣られクマさんの、ブログが大好きで、何時も読ませて頂いています。
(2ちゃんねるも見ていますが)。
明日も更新しますので、宜しくお願いします。
by 笑うオヒョウ (2009-11-20 22:13) 

jiangyinkamen

おひょうさん、今回のスパコン騒ぎでは、リターンマッチ(予算復活)がありそうですね。しかしながら、そもそも理化学研究所のスパコンは最先端なのでしょうか?量子コンピュータであれば1000億円を掛けても良いでしょうが、理化研のは、これまでの技術の寄せ集めのような気がするのですが。いかがでしょうか?
by jiangyinkamen (2009-11-24 01:16) 

笑うオヒョウ

江陰仮面さん コメントありがとうございます。
現在理研が開発している次世代型は量子コンピューターの実証機ではないようですね。既存の技術を束ね合わせて、総合力としてどこまでの性能が出せるか・・・を追求している様です。そして、それが完成しても世界一にはならない・・らいしいですね。
それなら、研究開発要素はなく、膨大な国費を注ぎ込むのに反対という意見があったようです。これは雅兄のご意見に近いものと思いますが、仕分け人に選ばれた東大の金田教授(パイ計算の専門家)や惑星科学の松井孝典教授の主張も、それに沿ったものだったと聞いています。
計算機の専門家の中にも、スパコン研究推進派と反対派(金田教授他)がいるのは、ある意味で自然ですが、事業仕分けでは、仕分け人の人選の段階で反対派を選び、予め結論を用意していたみたいですね。 その辺りは機会をみてまた別稿で・・・。
・・・・
ちなみに、仮面さんの奥様の友人のカメさんのご主人はM電機にお勤めだったと記憶しますが、卒業された研究室は相磯研だったはず。当時、電気科の相磯研は、経済学部での加藤寛ゼミと同じように、花形研究室でした。 某K大学の内輪の話ですが・・。

by 笑うオヒョウ (2009-11-24 11:06) 

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