SSブログ

【 1時間でスーパーコンピューターを説明できるか? その2 】 [コンピューター]

【 1時間でスーパーコンピューターを説明できるか? その2 】

 事業仕分けの検討対象に、文教予算や諸々の開発プロジェクトも含まれています。 その中の一つ、次世代スーパーコンピューターの開発が仕分け対象になっていると聞いて嫌な予感がしました。そしてその予感は的中しました。

・・・・・・・・

文教予算の中には、費用対効果や受益者負担などという経済の物差しが馴染まないものがあります。 大学の基礎研究などはその一つです。

以前、国立大学が独立行政法人になった時、実益が期待できる研究を優先するという当局の姿勢に、難色を示した人が多くいました。例えば、お茶の水大学の藤原正彦教授(当時)は「そんなやり方では、応用研究はともかく、自然科学の基礎研究は、軒並み後回しになってしまい、科学のレベルが下がってしまう」と強い懸念を示しました。

・・・・・・・・

確かに、数学や理論物理では、成果を金銭で表す事は困難です。

「 代数多様体の特異点の解消を研究する為に、外国の研究者と  勉強会を開きたいから予算を・・・」と申請してもまず通らないでしょう。小柴博士にノーベル賞をもたらした、ニュートリノ研究のメッカ「スーパーカミオカンデ」だって、危ないです。

・・・・・・・・・

しかし、数学や理論物理はまだ恵まれています。費用対効果の物差しが馴染まない事が誰の目にも明らかだからです。応用物理や数理工学は、なまじ実社会の役に立つものだから、成果を分かりやすく示せ・・・という要求になります。特にコンピューターはそうです。でも、コンピューター研究の内容を門外漢に説明するのは、数学や理論物理に近いくらい難しいのです。

・・・・・・・・・・

理化学研究所に委嘱していた次世代型スーパーコンピューターの研究開発を素人に1時間で説明して理解させる事は不可能です。 どの程度ていねいな説明をしたのかは不明ですが、案の定、仕分け人(査定人)からはトンチンカンな質問が来ます。

・・・・・・・・・・・

仕分け人

「 もし、スーパーコンピューターというものが、アメリカで先に完成したらどうするのですか?」

→ スーパーコンピューター自体は、30年近くも前にクレイ社が開発しています。議論しているのは次世代型。確かにこの研究は競争ではあるけれど、外国に先を越されたからといって、研究が無駄になる訳ではありません。 例えば、トヨタがハイブリットカーを開発したから、もう他の会社はハイブリッドカーを開発しなくていいのか?と言えば、決してそうでないように、重要な開発課題は、複数の国や機関で切磋琢磨しながら研究を進める方がいいのです。 スーパーコンピューターの開発は、徒らに世界一を競うスポーツではありません。 実用目的の研究です。

・・・・・・・

仕分け人

「 プロジェクトが何年も進行してから、設計見直しが行われるのは異常だ。プロジェクト自体に根本的な問題があるからではないか?」

→ 計算機の性格上、設計の見直しは常にあります。

・・・・・・・

スーパーコンピューターとは、使用目的を科学技術のシミュレーション計算などに特化して、それように設計する事で演算速度を高めたものです。当初、スカラー型の演算方法だったのが、ベクトル演算化で性能が著しく向上し、その後スカラー演算が見直され、今またグリッド型のプロセッサーが有利だと言われています。この分野の技術は分進秒歩であり、例えプロジェクトがかなり進んでいても、より優れた技術が登場すれば、そちらにスイッチするのは当たり前です。質問した仕分け人には、その辺りの事情が理解できないみたいです。

・・・・・・・・

実のところ、スーパーコンピューターは寿命が非常に短いのです。唯一の例外は、最近まで横浜で稼働していた地球シミュレーターで、これだけ大規模なコンピューターが、5年間も世界一の地位を保ち、使い続けられたというのは、すばらしい大成功だったと言えます。

・・・・・・・・・・

そんなに短命なものに巨額の費用を掛けるのはもったいないとか、言われそうですが、その開発が無ければ、その後の世代のコンピューターも無い訳で、スーパーコンピューターの開発は必要なものです。

・・・・・・・・・

仕分け人達は、スーパーコンピューター開発を、速度を競って世界一を目指す、ゲームかスポーツの様に考えていますが、そうではありません。非常に実用的で役に立つものです。

・・・・・・・・・・

スーパーコンピューターの登場で、天気予報の精度は飛躍的に向上して、局地的な短時間予報が可能になりましたし、航空機の空力設計も、短期間・低コストで可能になりました。トカマク装置内のプラズマの挙動も正確に把握できますし、連続鋳造装置内の介在物挙動も正確に把握できます。 地球温暖化の進行の予測も、スーパーコンピューターが無ければ、不可能です。次世代型の開発は、更にその精度を上げ、計算結果の信頼性を上げる事で、社会に寄与するのですが・・・・。

・・・・・・・・・・

残念ながら未来の技術を語っても、専門外の人には分からないものです。 下手をすると、ほら吹きと思われるのが落ちです。

・・・・・・・・・・・

例えば、現代はコンピューター無しの生活は考えられませんが、コンピューターが身の回りに無かった頃(例えば昭和30年代)、「コンピューターがあれば生活が便利になるよ」と説明しても、誰が理解してくれたでしょうか? オヒョウがコンピューターのネットワークの偉大さを身にしみて感じたのは、国鉄(当時)の「みどりの窓口」です。「何十日も先の遠隔地を走る列車の座席指定や発券を即時にできるなんて凄い」と思いました。でもそれまでコンピューターのありがたみを感じた事は無かったのです。

・・・・・・・・・・

あるいは、今、携帯電話の無い生活はありえませんが、携帯電話が無かった頃「一人一台無線電話を持てば、とても生活が便利になるよ」と説明しても、誰が理解したでしょうか?はたまた、今は、インターネットの利用が当たり前ですが、インターネットの無かった頃、その便利さを説いても、誰が理解したでしょうか?

・・・・・・・・・・

同じように、次世代型のスーパーコンピューターの重要さを語っても、理解しない人が多数なのは、仕方のない事であり、当たり前かも知れません。 でもこの開発は重要なのです。

・・・・・・・・・・・

そして、文科省の担当者も言っていましたが、スーパーコンピューターの開発は単独でも意味がありますが、他の科学技術の進歩に大きく貢献する道具でもあるのです。この部分を「外国に頼ればいいではないか」と言う訳にはいきません。

・・・・・・・・・・・

では、今回のスーパーコンピューター開発を廃止するとの決定について先人達はどう思うか・・・その辺りを次号で述べます。


nice!(1)  コメント(1)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 1

笑うオヒョウ

釣られクマさん、niceをありがとうございます。
近々、釣られクマさんのブログにもおじゃましてコメントさせていただこうと思いますので、宜しくお願いします。
by 笑うオヒョウ (2009-11-24 02:11) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。