【 パリのディズニーランド 】 [フランス]
【 パリのディズニーランド 】
以前、ロンドンに暮らしていた頃、パリ在住のKさんに相談した事があります。
「今度の休暇に、家族をパリのディズニーランドに連れて行こうと思うのですが、(パリのディズニーランドの評判は)どうでしょうか?」
Kさんは「えっ?」と絶句して、それから答えました。
「さあ、ディズニーランドですか? 私は知らないので何とも言えませんが・・どうなのでしょうかね?」
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彼は紳士ですから、露骨に言いませんが「どうなのでしょうかね?」には下記の意味が含まれます。
<オヒョウさん一家は、まだヨーロッパ初心者であり、パリの事も何も知らないではないですか。それなら、遊園地などより先に見るべきところがたくさんあるのではないですか?>
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その点は、オヒョウも全く納得します。
しかし、パリで見るべきもの・・とは、実はその多くが大人向けです。パリに限りませんが、欧州の文化とは、基本的に成熟した大人を対象にしたものです。
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さらに言えば、極めて不遜な表現ですが、ビクトル・ユーゴーの小説も読んでいない人には、パリを見ても、その価値は分からないかも知れません。 美術館を見て、ブランド品のお土産を買って、食事をするだけの場所になるのでは・・・と思います(それでも十分ですが・・)。
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当時、我が家には幼稚園児と乳飲み子がおり、彼等に大人向けのパリの文化を見せても無意味でした。そして恥ずかしながら、我々大人達もパリの文化を堪能できるほどの教養を持ち合わせていませんでした。それに加えて、ディズニーランドフリークであった家内は、全世界のディズニーランドを制覇する事が夢でした。
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だから、パリのディズニーランドを考えたのですが、これはフランス人(およびパリ在住の日本人)には、ちょっと抵抗がある事だった様です。パリのディズニーランドとは、ちょうど人間の体内に入った異物の様な存在で、免疫システムが働き、拒絶反応も見られたからです。
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アメリカのディズニーが、パリにディズニーランドを建設した時、マスコミも世論も強く反発したそうです。フランスの有力紙ヌーベルオプセルバトゥールは「第二の五月暴動として、あの醜悪な映画セットを焼き払おう」と呼び掛けたと、徳岡孝夫氏は書いています。 この時のフランス人の主張には、アメリカ的なもの全部に対する蔑視と反発が含まれています。フランス人の考えを代弁すれば・・・、新大陸の文化は、所詮浅くて安っぽい。 ファーストフードのハンバーガーの様に、食に対しても拘りがないし、子供向けだ・・という事になります。
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例えば、ディズニーランドは基本的にアルコールフリーでレストランでも酒類は出しません。 しかし、フランスではレストランであれ、カフェであれ、葡萄酒の出ない店など考えられません。すったもんだの末にパリのディズニーランドだけは、ワインを出してもいいことになったそうですが、これは大袈裟に言えば、アメリカとフランスの衝突です。
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抽象的に言えば、全世界で画一的なサービスを提供して品質を一定にしようというアメリカのフランチャイズ型のビジネスモデルに対して、「郷にいれば郷に従う」のが当然・・とするフランスの常識が衝突したとも言えます。
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フランス派の代表であるKさんにとって、パリのディズニーランドはゲテモノであり、拒絶反応の対象であったのかも知れません。
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実際、パリのディズニーランドは、日本のそれがそうであるように、国内の客だけをあてこんだものではありません。 ロンドンからは直通のユーロスター特急がディズニーランド駅まで通じていて、園内は英語がOKです。そして、園内は・・・悲しいほど、浦安のディズニーランドやロサンゼルスのディズニーランドにそっくりでした。
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その次にKさんにお会いした時、またまた彼が首を傾げる事になりました。 オヒョウが「ロンドンで英語版のジャンヌ・ダルクの映画を見ましたよ」と言ったのです。 勿論これはレンタルビデオで見たのですが・・・。
Kさんは
「 はて英国でジャンヌ・ダルクの映画ですか?イギリスの人にとっては仇敵のはずですが、不思議ですね。それは多分、英国の映画ではなく、アメリカの映画なのでしょう。 しかしそれにしても、ジャンヌ・ダルクが英語で台詞を話すというのは、ちょっと考えられません」。
オヒョウの理解では、ジャンヌ・ダルクは、最終的にフランスのシャルル七世に裏切られて殺されます。つまりフランスに裏切られた悲劇のヒロインなので英国でも受けいれられる存在なのです。でも、フランスの人はそうは思わない様です。
英国は論外としても、アメリカ映画でジャンヌ・ダルクが作られ、アメリカ人が彼女を演じる事にも抵抗がある様です。
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アメリカとフランスは、アメリカ独立とフランス革命の時以来の友人で分かり合える部分がありますが、それでも全く異質な存在です。映画フレンチコネクションには、アメリカ人とフランス人の感覚の違いが良く描かれていますが、実際、相互に理解できない部分があります。フランス人からみれば、彼等にジャンヌ・ダルクが分かってなるものか・・・という思いがあります。
Kさんが、英語版ジャンヌ・ダルクを不可解に思ったのは理解できます。
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その後、ディズニーは、アジア市場に目を向け、香港でディズニーランドの営業を開始し、今、上海の浦東地区に新しいディズニーランドを建設する事が決まりました。でも、世界中のディズニーランドを訪れたいとしている、オヒョウの家内は、香港と上海のディズニーには行きたくないそうです。多分、全く異質の世界でイメージがぶち壊しになるのを怖れているからです。
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でもオヒョウは別の事を考えます。異文化の中に画一的なものを持ち込み、自分達の物差しで、ルールを作るディズニーは、中国で果たしてうまくいくだろうか?具体的には、知的財産権について、世界で最も敏感なディズニーが、知的財産権について、世界で最もルーズな中国に行って、大丈夫だろうかと・・・いう心配です。
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かつてKさんに尋ねた様に、中国人に「上海のディズニーランドはどうですかね?」と訊いてみましょうか? 多分、こう答えるでしょう。「北京の石景山遊園地とそっくりで、特に目新しいものはないよ。それより中国初心者のオヒョウさんには、もっと見るべき物がたくさんあるでしょうに・・」
今晩は。
拝読、なるほど。思考派ですね。
ディズニーランド、行ったことなく、フランスなぞ勿論。
よろしく。
by 夏炉冬扇 (2009-11-11 18:16)
宗像の夏炉冬扇さん、コメントありがとうございます。
思考派と言われると、困ってしまいます。ただ、昔の話を綴っているだけです。
パリやディズニーランドもいいですが、私は宗像に行った事がありません。
家内は北九州小倉の出身で、福岡県には姻戚も多いのですが、いまだ小倉と博多と太宰府以外には行った事がないのです。畏友である川崎のご隠居は、先般、壱岐対馬を訪問しましたが、宗像大社の系譜に属する海の正倉院には上陸できませんでした。 いつか友達と出かけてみたいと思っております。
by 笑うオヒョウ (2009-11-12 12:31)