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【 宇都宮高校の人々 】

【 宇都宮高校の人々 】 

現在、某製鉄会社の副社長を勤めるTさんは、オヒョウの最も尊敬する技術屋の一人です。 Tさんが、大学院修士課程の頃に実験した、合金の変態温度の研究成果は、長く学振第19委員会の推奨値として採用されています。 一学生の研究成果が、正式に認められる事はあまりなく、これは特に優秀な研究であった事を示しています。実際Tさんは博士号を持っていませんが、研究者としての能力は誰しも認めるところです。

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しかし、温厚篤実にして寡黙であるTさんは、あまり個人的な事を語らない人です。それでもお酒を飲むと、ポツリと昔の事を語る事があります。 高校時代や大学時代の話も混じります。具体的には、どの大学を受験すべきか迷った事や、友人関係についてです。「うん、立松和平なんて、よく知っているよ 」ああ、なるほど、彼は、栃木県一の進学校である宇都宮高校の出身なのです。

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しかし、恥ずかしながらオヒョウは栃木県の有名人について詳しくありません。 全く年代の違う、山本有三の話を持ち出すと「確かに、山本有三は、栃木のあの辺りの出身だけど、同じ学校じゃないね」とそれなりにフォローしてくれます。

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実は、オヒョウには宇都宮高校にもう一人知っている人物がいます。それは旧制宇都宮中学の英語教師だった川上澄生です。

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オヒョウは、彼の版画が大好きです。棟方志功も、川上澄生の作品を見て、刺激されて版画家の道に進んだそうです。棟方志功の場合も、作品に文章が書き込まれる事がありますが、基本的に版画だけで完全な大芸術です。しかし川上澄生の場合、版画と一緒に詩があって初めて、作品が完結します。

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正直言って、川上澄生の絵の方は、味のある画風ですが、素人の作品の域を出ません。 ちょうど、俳句と一緒になって初めて価値を持つ俳画や川柳と一緒になって価値を発揮する柳画みたいなものです。日本には、昔から詩や散文と絵を合体させた芸術がありますが、率直に言って、絵だけでは大した事がない場合もあるようです。

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川上の場合、英語教師の片手間のアマチュアとして版画を始めた訳で、詩と版画を融合した作品で独自の世界を切り開くしかなかったのかも知れません。・・・・・・・・アマチュアと言えば、英語教師としても、川上はアマチュアだったのかも知れません。 彼はアラスカで水産業に従事したことがあり、現地で生きた英語をマスターしています。しかし、高等師範学校などで専門の教育を受けた訳ではありません。・・・・・・・・アマチュアの英語教師とアマチュアの版画家・・・、彼は合わせ技で一本を狙ったのかも知れません。しかし大半のサラリーマンが何も残せないまま終わるのに、彼は新たな版画のジャンルを築き、その結果として棟方志功らの芸術家を生み出しています。

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アマチュアを超えたアマチュアとして、オヒョウは川上澄生を日本のアンリ・ルッソーだと考えます。彼の業績は、2足のわらじを履きたいと思っているサラリーマン、或いはアマチュアだけれど何かを残したい人に刺激を与えるものです。

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オヒョウの友人が、映画「スーパーマン」の人気がある理由について、「『スーパーマンだって普段はサラリーマンをしている。俺もサラリーマンでいるのは仮の姿なのだ・・・』と思いたい人々の、琴線に触れるからだ」と語った事があります。

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スーパーマンにはなれなくても、川上澄生の世界に近づくことはできるかも知れない・・と人々に思わせるのが、彼の詩であり彼の版画です。だから、川上澄生の版画は人気があるのかも知れません。 実際には川上も天才なのであり、彼の世界に到達することだって至難なのですが・・・・。


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