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【 電脳世界の谷間 】 [インターネット]

【 電脳世界の谷間 】 

先日、勤務先の同僚からある事を頼まれました。その人は高周波焼き入れを担当する人ですが、

「 オヒョウさん、何か高温の鉄(鋼)に水をかけて冷やす技術について、全体をまとめた、教科書的な本はないでしょうかね? 」

 彼には、とりあえず、日本機械学会が出した『伝熱工学資料』と日本鉄鋼協会が出した『鋼材の冷却』という書籍を手渡し、「水冷却について、根本から知りたいのなら甲藤好郎先生の『伝熱概論』がいいよ」と薦めました。

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オヒョウがあの本を見たのは30年近く前ですから・・・、今は多分絶版でしょうが、古本ならあるかも知れません。早速インターネットで調べてみれば、 やっぱり絶版でしたが、古本を探すと、甲藤好郎著 「伝熱工学」養賢堂 5000円とあります。ああ、よかった・・と思う反面、 あれっと思う事に気付きました。

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理工系の学生は、勉強する過程でバイブルともいうべき教科書にであう事があります。 解析学を学ぶ学生でしたら 高木貞治の『解析概論』、そして熱伝達や鋼材の冷却という分野を研究する人でしたら、甲藤好郎の『伝熱概論』という具合で、なぜか『・・・概論』が多いのです。かくいうオヒョウにもささやかなバイブルというべき教科書があり、それはもうボロボロになっています。初学者向けの本であり、ちょっと恥ずかしいので、ここでは触れませんが。

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畑違いの門外漢のオヒョウが製鋼技術室に配属になり、熱い鋼の固まりに水をかける仕事を始めたとき、上司から紹介された本が、この甲藤先生の本です。 思わず「こ・・こうふじせんせい?」と発音して、「オヒョウ君、君は甲藤(カットウ)先生も知らないのかい?」と言われたものです。東大名誉教授の甲藤先生は 「水掛け論」の世界の大御所でした。

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しかし、ネットで検索すると、甲藤好郎先生があまりヒットしないのです。わずかに『伝熱概論』という著作に関連した記事と、追悼のブログがヒットするだけです。 これはどういうことだ?

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過去に多大な業績を上げ、有名でもある研究者が、インターネットの検索エンジンでひっかからない・・という事が時々あります。インターネットでの露出度や、検索エンジンでのヒット数と、研究者の業績は必ずしも比例しないのですが、特定の人の業績や論文だけがポロッと欠落していると、検索エンジンの信用にかかわります。それはなぜか?

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一つの鍵は、その研究者や学者の没年です。 インターネットが普及する直前、またはその黎明期に、世を去った人達の業績はサーバーに収録されないままになっているかも知れません。

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オヒョウの恩師も本格的なインターネット時代の到来の前に世を去られました。 研究室はなくなり、オヒョウの書いた卒論も修論もインターネット上で紹介される事はありません(まあ、その方が恥じを書かなくて済みますが・・・)。 学会発表についてもインターネット時代の前の分は、ネットで検索しても発見できません。逆にインターネット普及後に作成したものは、つまらない特許でも、全て閲覧できます。

大きな学会・組織の場合、順番に、インターネット以前の頃の発表も遡って収録しているようで、次第に過去分も検索できるようになりつつあります。 また大学の研究室が残っていれば、過去の論文も収録される様で、オヒョウの兄の大昔の卒論なども確認できます。

しかし、全ての発表案件が過去に遡って収録される訳ではなさそうです。

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最近の20年間の間に長足の進歩を遂げた技術を3つ挙げろと言われたら、オヒョウは筆頭にWEB上の検索エンジンを挙げます。この技術の進歩には目を見張るものがあります。

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昔、学校にいた頃、オヒョウは図書館で文献カードを見て必要な論文を探す事に、多大の時間を費やしました。そして時間をかけて取り寄せた論文が、実は自分の研究に無関係の内容だった・・・という事はよくありました。

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会社に入ると、文献検索システムJICSTが図書室と結ばれており、オンラインで検索できます。 それとは別に、ロッキード社が提供する検索システムDIALOGがあり、文献検索は、非常に高速になりました。でも高価でしたし、本文の取り寄せには、それなりに時間がかかりました。

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それがインターネット時代になると、オンラインで本文まで閲覧できます。しかもヒット率(希望した情報だけを抽出する率)も年々向上しています。初期のGOPHERMOSAIC Netscape Navigator )に比べると、yahoogoogleは格段の進歩です。

文献検索や一般情報検索だけではありません。 

特許検索システムも格段に進歩しています。オヒョウが、特許班の仕事を見始めた時、特許検索は紙の情報でやりとりしていました。特許公報も紙でした。 やがて、定期的に発行されるCD-ROMを使って、最新情報を検索するようになり、これは便利だと思ったのですが、わずかその1年後には、オンラインシステムでの検索になりました。

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将来、人々が検索し入手する情報の大半は、インターネットからになるでしょう。 初対面の人がどういう人物か、予めネットで検索して、過去の著作や専門分野、過去の実績を調べ上げる事は容易です。アニメの「攻殻機動隊S.A.C.」の世界です。

因みに、オヒョウの家族・知人の名前をネットで検索すると、殆どの人が引っかかります。 しかし、その状況下で、ネットに自分の情報がなかったら、その人の存在は無視される事になります。 これは困ります。

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前述の通り、過去一流の研究者であった人でも、インターネット時代の到来の前に、現役を退けば、痕跡が残らないかも知れません。もっと前の人なら、探す人は、最初からネットでの検索は諦めて、紙の資料をあたるでしょう。 しかし、ちょうどネット時代直前の端境期の人々が、消えてしまうミッシングリンクの現象が起こってしまいます。これは大問題です。

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これを無くすためには、過去の文献・資料を遡ってこつこつとデジタル化を進め、ネットにアップする活動を行う必要があります。これは後ろ向きの仕事であり、あまり人はやりたがらないでしょう。

でも、時間が経っても色褪せない普遍性のある研究については、或いは時代が代わっても存在感を保つ研究者については、電子復刻をお願いしたいものです。 

具体的には甲藤先生の研究成果・・などです。勿論、オヒョウの卒業研究などは、埋もれたままで結構ですから。


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