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【 とんぼの話 】 [雑学]

【 とんぼの話 】 

オヒョウの勤務する工場は、大自然に囲まれています。言葉を換えれば、ド田舎の山の中です。 だから、春から秋にかけては多くの昆虫が工場を訪れます。 

夏には、工場の事務所の軒先にスズメバチが巣を作ってしまい、おっかなびっくり退治するという事もありました。

そして夏から初秋にかけてトンボが多く飛来します。蝶に蝶道という飛ぶ通路があるように、大型のトンボも飛ぶコースは決まっていて、第二工場の入り口から、第一工場の入り口と生産技術の建物の間の通路を往復するのが、オニヤンマの定期便のルートです。

オニヤンマはしばしばみかけますが、ギンヤンマは殆ど見ません。その理由は定かではありませんが、オニヤンマの方は、時々開いた窓から事務所内に入ってきます。扉を開けたり、窓を開けておけば、その内に外へ出ていきます。これがスズメバチだったら、ちょっとした騒ぎになるのですが・・。

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そのオニヤンマを見ていて、ふと思う事があります。「日本人はトンボが好きだな・・。欧米ではあまりトンボを好きな人はいないのに・・・」英語では、ご承知の通りトンボはDragon Flyで、どちらかというと、肉食のどう猛な昆虫のイメージです。日本人の様に、トンボ釣りをしたり、虫籠にいれて楽しむ・・という具合に子供達が親しむ対象ではないのです。 

考えてみれば、トンボはヤゴの段階から肉食昆虫ですし、成虫もよく見れば、ちょっとグロテスクで気味の悪い虫です。素朴に考えれば、欧米人の感覚の方が自然です。

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では、なぜ日本人はトンボを好むのか?以前読んだ、昆虫学者 安富和男博士と梅谷献二博士の本にその謎解きが書かれています。

なんでも、雄略天皇が狩に出かけたおり、どこかでアブに咬まれたとの事。 憎きアブですが、そのアブが飛び立った瞬間、どこからかトンボが現れ、そのアブを噛み殺し、雄略天皇はおおいに喜ばれたという伝説があるのだそうです。 おそらくは日本書紀に記されているのでしょうが、寡聞にして、オヒョウはそれを知りません。

そうだとすれば、日本の歴史に最初に登場する昆虫はトンボという事になります。 あっ違った、アブの方が先か・・。そのエピソードで日本人みんながトンボに対して愛着を持つようになった・・とするのは、牽強付会かも知れませんが、面白い話です。

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日本の別名に「秋津洲(あきつしま)」という呼び方がありますが、ご承知の通り「トンボの多い土地」という意味で、恐らく昆虫の名前が国名に登場するのは日本だけだろうと、安富・梅谷の両氏は言っています。一説には秋津洲という国名も、神武天皇が大和の国原を見て「秋津のとなめせるがごとし」と言われた事にちなんだ・・という説があります。

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オヒョウの、例によって根拠の無い推理ですが、トンボが棲息するには、湿地や池などのある原が必要です。つまり「秋津洲」とは、同じく日本の古い名称である「豊葦原の瑞穂の国」と似た意味になります。

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脱線しますが、この言葉にちなんだ芸名で、葦原邦子という女優がいました。オヒョウが子供の頃には既に老婦人の役が多かった人ですが、昔の宝塚の女優の名前は霧立昇とか、皆さん、和歌や古典にちなんだ名前で教養を感じさせましたね。最近の宝塚の人の名前は・・・ちっとも風流じゃありません。鳩山夫人などもさっぱりです。さらに言えば、今の時代、瑞穂の国などと言うと、社民党が政権を取ったみたいでどうも、感じが悪くていけません。

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脱線が長くなりましたが、湿地や池がある原っぱというのは、見方を変えれば、稲作に適した土地であるとも言えます。トンボが多い土地である・・と讃えるという事は、稲作に適した豊穣の土地であると祝福する事に通じます。 つまり、トンボを愛でる文化というのは、稲作文化に通じるのだ・・と、例によって学会も認めない仮説をオヒョウは提唱します。

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それなら、同じ稲作文化圏の中国はどうか・・?といえば、中国は日本ほどではありませんが、トンボに愛着を持っています。街を歩くと、店の名前に、トンボの名前が付いていたりします。「紅蜻蛉=つまり赤トンボです」という名前の、ブティックがオヒョウの暮らしたアパートの近くにもありました。蜻蛉は決して悪いイメージの虫ではありません。 

そもそも、昆虫と親しむ文化は中国から日本に伝わったのかも知れません。 肉食昆虫で、我々が愛着を持つのは、トンボとコオロギくらいですが、どちらも、中国で親しまれている昆虫です。

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それにしても、不思議な事があります。トンボは勝ち戦のシンボルらしいのです。先ほどのトンボ好きの雄略天皇が、トンボは決して後退しない、前進のみの昆虫であるから、勇ましい・・と褒めた事に由来するらしいです。 

でも空を飛ぶ動物で、蝶やハチドリ、コウモリは確かにホバーリングしたり後ろに飛ぶ事もできますが、多くの鳥や昆虫は、もっぱら前に飛ぶだけです。 何もトンボに限った話ではありません。

それに今の時代・・・、そんな事を言ったら、ヘリコプターのパイロットは気を悪くするでしょうね。 

トンボだとか、トンビだとか、他の国ではどちらかというと蔑まれる動物が武勇の象徴として扱われるところが、日本の面白いところです。

( もっとも戦前に限りますが・・ )

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トンボの名前が軍用機についていたのも、日本だけでしょう。旧海軍の練習機には、「赤とんぼ」とか「白菊」という、ちっとも強そうでなく、むしろ風流な名前の飛行機がありました。「赤とんぼ」の場合、複葉機で機体が赤く塗られていたから、赤とんぼなのでしょうが、ひたすら勇ましさを強調する軍隊で、この様な名前がついた事にオヒョウは不思議さを感じます。

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そして、悲惨な事に、赤とんぼと白菊は、戦争末期に特攻機として使用されました。複葉の練習機に重い爆弾を積んで飛び立ったところで、戦果をあげるとはとても思えないのに、愚かな事をしたものです。海外では、多くの人が、旧日本軍は、残虐で野蛮なだけの存在だと思っています。 一度、彼らに、日本では特攻機に「赤とんぼ」や「白菊」という名前を付けていたのだよ・・と説明したいと思います。恐らく、理解されないでしょうが・・。


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夏炉冬扇

今晩は。
コオロギのタグで参りました。博識でいらっしゃる。面白く読ませて頂きました。

by 夏炉冬扇 (2009-10-02 20:43) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇さん、コメントありがとうございます。

中国では、秋になるとコオロギ売りが街にくりだしますね。
賭博が禁止の中国ですが、コオロギ相撲は伝統的な文化だから
皆さんが親しんでいます(実際に賭けているかは不明ですが)。
私は蟋蟀という漢字が書けなくて、ちょっと落ち込んだ事があります。

その辺りを、ずっと前のブログに書いた事がありますが、また機会があれば考察したいと思います。
これからもご愛読をお願いします。
by 笑うオヒョウ (2009-10-03 07:45) 

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