SSブログ

【 日本エアシステムの蹉跌 】 [航空]

【 日本エアシステムの蹉跌 】 

最近は家庭内暴力の事をDVDomestic Violence)と言うそうですね。それでDomesticという英単語が広く知られましたが、オヒョウがこの単語を知ったのは、航空会社の名前からです。

偶然読んだ雑誌に客室乗務員の採用試験問題が載っていたので、

「 TDAという会社のDは、何の意味なの?」と兄に尋ねると、「 DDomesticで、東亜国内航空の『国内』を示すのさ 」との答えです。

オヒョウは疑問に思い、

「 しかし、東亜=東アジアだろう?それなら、東アジアの近距離国際線も視野に入れているはず。国内航空という名前と矛盾しているではないか?」と質問を続けました。

・・・・・

これは勿論トンチンカンな質問です。東亜国内航空は、東亜航空と日本国内航空が合併してできたもので、名前も両者を連結したものである事は明かでした。日航、全日空に続く、第三の定期路線を持つエアラインになるためにはジェット化が必要で、莫大なコストを考えると、合併は当然の事でした。

・・・・・・

しかし、自らこの会社は国内線だけですよ・・・と宣言するのは、いかがなものか? TDA自身もそう思ったのか、その後、名前をJAS(日本エアシステム)に変更し、国際線も視野に入れました。

・・・・・・

その頃、1980年代、米国では既存の大手エアラインに対抗して新しい会社が次々に生まれていました。 彼等は大手のエアラインに格安の運賃で対抗したりして、大手のシェアを次々に奪っていきました。勿論、新興の航空会社全てが成功した訳ではなく、潰れた会社もありますが、成功例としてサウスウェスト航空の例は、特に有名になりました。その為か、日本の沖縄県を主体に飛んでいた南西航空は名前を変えて、トランスオーシャン航空にならざるをえませんでした(半分冗談です)。

・・・・・・・・

サウスウェスト航空のビジネスモデルは広く知られ、私のブログにも書いた事があるので、ここで繰り返すのも野暮ですが、大きな点は下記の通りです。

1.使用機材を単一機種にまとめて、予備の部品在庫を減らし、整備コストを下げると同時に、運行乗員の機種転換訓練などの訓練費用も下げる。 しかも機材変更時も、切り換えがスムーズという利点があります。

2.大手のネットワークによる予約発券システムを使わず、座席指定を無くし、システムの経費を最小限にする。

3.大都市の場合、着陸料が高く、大手のエアラインと競合する大規模空港を使わず、第2、第3の空港を使用する。

4.直行便ではなく、途中着陸地点を経由しながら、最終目的地に行く、経由便方式で飛び、搭乗率を少しでも上げる。

5.機内サービスは炭酸飲料とピーナッツだけ。

6.客室乗務員の制服はポロシャツと半ズボンで、安価だが機能的なものとする。

・・・・ 

このスタイルを真似て、その後世界中で格安エアラインが登場しました。サウスウェストとは逆に、インターネットを多用する事で、券売システムのコストを下げた会社もあります。 だから、このスタイルを踏襲すれば「遅れてきた第三の航空会社」であるJASにも発展の可能性はあったのですが、そうはなりませんでした。

・・・・・・・・

1.幹線空路での大手2社との競合

日本が米国と違うのは、ドル箱は幹線だけで地方ローカル線は儲からないという事です。 不採算のローカル線が主体のJASは、悲願の幹線空路を手にしましたが、先発の2社を相手に苦戦しました。 

1980年代、まだマイレッジ制度が確立する前、大手2社はポイントが溜まると豪華な景品を配るサービスをしていましたが、JASにはその余裕がありません。 羽田空港のロビーで、JASの管理職がサンドイッチマン宜しく「ただいまJASの大阪便には空席があります」と書いたプラカードを持って、歩いていましたが、かえって人気が無いことをお客に知らしめ、逆効果でした。 

航空業界の規制緩和で、一つの路線に複数の航空会社が飛行機を飛ばすダブルトラッキングやトリプルトラッキングが、数多く誕生しましたが、結局、航空会社を疲弊させるだけに終わりました。 

本来、新規参入者は、大手との競合を避ける為に、第2空港を使うべきですが、日本の大都市には、その様な飛行場はありません。同じ空港の利用者の少ない時間帯を割り当てられ、搭乗率の低さにあえぐ事になりました。 

ダブルトラッキングやトリプルトラッキングは利用者にとっては好都合でしたが、1990年代以降は、乗客はマイレッジカードの為に囲い込まれ、あまりエアラインの浮気はしません。それほどのメリットはなかったのです。結局、規制緩和は、それを望んだ後発のJASを苦しめたのです。

・・・・・・・・・

2.機材統一の失敗

JASの前身、日本国内航空はコンベア880というジェット機を持っていましたが、JALにリースした後、墜落事故で失っています。他はプロペラ機でした。

そしてTDAはジェット化の際、DC-9を選び、ダグラスファミリーに入りました。 当時、小型機ではB-737DC-9の2機種があった中で、あえてDC-9を選んだのですが、その後ダグラスはマクダネルーダグラスとなり、最終的にボーイングに吸収され、B-717を最後にDC-9シリーズ(MD-83シリーズ)は無くなってしまいました。

JASはエアバスシリーズを購入しましたが、その結果、会社の経営規模に対して多すぎる機種を抱えてしまいました。

更には、ボーイングにも手を出しB-777を購入しています。JASの経営規模で、マクダネル-ダグラス、エアバス、ボーイングと3つのメーカーの飛行機を持つのは多過ぎです。全体の事業規模に対して、飛行機の種類が多すぎる・・というのは、戦前の日本海軍や陸軍にも通じる事で大きなマイナスです。

因みにサウスウェストは、B-737で統一しています。

・・・・・・・・・・

3.国際線への進出

JASが初めてエアバスA-300を購入した際、フランスから日本までフェリーする様子を撮影したビデオを見た事があります。苦難の末、日本に辿り着き、日本上空に達した時、パイロットが涙声になるのを聞いて思いました。

「 神風号の昔じゃあるまいし、ちょっとオーバーではないか。確かにドメスティックな会社なのだなあ・・」

そのJASは、チャーター便で国際線運行の実績を作った後、ハワイに支店を置いて、定期便に挑戦しました。しかし、東京=ハワイ(ホノルル)は激戦区です。この経営拡大が、JASにとってマイナスでした。

エアラインを経営する人は、皆、経営規模を拡大して国際線に進出したいと思っているでしょう。ちょうど野球選手が大リーグを目指す様に。でもそれが正解とは限りません。サウスウェストは国内線にこだわり、限られた路線で収益をあげる事に徹しています。

・・・・・・・・・

4.趣味の経営か?

TDA時代、東急グループがこの会社の経営に深くかかわっていました。しかし電鉄会社と航空会社では、共通点があまりありません。せいぜい、東急のホテルグループとJASで提携するぐらいしかメリットはありませんし、電鉄会社出身の経営者に航空業界の土地勘があったかは不明です。

・・・・・・・・・

今、日本では他業界からの参入で新しい航空会社が多くできています。旅行代理店が始めた航空会社は、近接領域からの参入ですからうまくいくかも知れません。 しかし、パソコンのソフト屋が始めた航空会社、タクシー会社が始めた航空会社、カマボコ屋が始めた航空会社は、正直なところ、心配です。なぜなら、これからは経営がうまくいかなくなっても、JALやANAに引き取らせる事は、多分できないでしょうから。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。