【 地名の不思議 その1 】 [雑学]
【 地名の不思議 その1 】
随分前になりますが、泉麻人というコラムニスト(オヒョウは彼の事をコラムニストではなくエッセイストであると思います)が、週刊誌に不思議な事を書いていました。
彼は、東京の古い地名(といっても昭和30年代)にこだわりを持ち、古い地名が新しい地名に置き換えられていくのを惜しんでいますが、一部新しい名前にするのもやむをえない・・という意見を持っているようです。
その例として、彼は麻布の笄町を挙げています。笄(コウガイ)という難しい漢字を読める人など今の時代に殆どいないだろうし、笄が何かを知る人もおるまい・・・と仮定して、そんな難しい字を使うくらいなら、地名変更もやむをえない・・という説です。
なるほど・・・と思いますが、彼はその後にこう続けています。
「私が笄町をいう名前を読めるのは、博識だからではなく、何を隠そう、この町に住んでいたからである。だから広尾から麻布にかけての地理や地名については、ことのほか詳しいのだ」
何だ・・・自慢話か。笄町の辺りは、高級住宅街であり、自分はそんな街に育った都会っ子だよ・・と彼は暗に言いたいのだろうか?
田舎で育ったオヒョウとしては、ちょっとひがみたくなります。
第一 「他人様は笄という字を読めないでしょうが、僕は読めますよ」という言い方が気に入りません。 泉麻人は読者の知識をみくびっている様ですが、オヒョウのごとき田舎者でも笄くらいは知っています。
日本髪に挿すイチョウ型に開いた小道具で、日本刀にも組み込まれていたりします。ちょっと痒い頭を掻く時に便利なんだそうです。そして、なにより生物に詳しい人はコウガイビルでこの名前を知っています。 この生物はオオルリさんのブログにも登場します。http://myhome.cururu.jp/kapock
勿論これは先端部がイチョウ型だからこの名前が付いたのですが・・・。そしてもうひとつ、中国大使館にビザを貰いに行った人は、笄町を知っているかも知れません。 オヒョウは自分でビザを貰いに行った際、地下鉄の駅から大使館に至る道で「 ああ、これが泉麻人が言っていた笄町か・・・ 」と納得しました。・・・・・・
実は古い地名がなくなり、新しい地名になるのは、東京だけでなく地方でも同じです。平成の大合併の際に消滅した地名もありますが、それ以外に様々な理由で消滅した地名もあります。
部落問題から古い地名を消し去った場合もありますが、住民が格好悪いから変えてくれ・・となった場合もあります。金沢市の兼六園の横にある坂は、昔「尻垂れ坂」と呼ばれていました。しかし、今は兼六坂になっています。
東京や金沢の様な古い町で地名や町名が変わってしまうと、時代劇や古典を読む時にはなはだ困りますが、仕方ありません。
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住民に嫌われると言えば、なぜかカタカナの地名は嫌われます。沖縄本島のコザは、歴史ある地名だったのですが、いつの間にか石川市になってしまいました。日本の地名らしくないから嫌われたのか・・、それとも嘉手納基地の近くなので、米軍基地のイメージを嫌ったのか・・分かりませんが、この沖縄の地名変更で、とんだとばっちりを受けた土地があります。平成の大合併で、石川県の石川郡は松任市などと合併して石川市を目指しましたが、沖縄県に既に石川市があった為に、実現しませんでした。その結果、白山市などという名前になりましたが、その範囲は、石川県の最も奥にある白山山頂から、手取川河口の日本海の海岸にまで及びます。海岸の波打ち際が白山市・・というのは全くしっくりきません。
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オヒョウの家がある茨城県鹿嶋市が鹿島町から市になった時、佐賀県に既に鹿島市があった為、一悶着あったと聞いています。同じ様な事は全国であるのでしょうね・・・。ちなみに、石川という地名は福島県にもあります。
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カタカナの地名は嫌われますが、ひらがなの地名は大流行です。市町村が合併する際に、合併後の名前に、片方の名前を用いると吸収合併の色彩が強くなるので、ひらがなで妥協するという場合もありますが、誰でも読み書きできるように、ひらがなにした・・という情けない場合もあります。 さくら市、みどり市、いわき市、むつ市・・・。
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溜息をつきたいような話ですが、昔の地名に難しい漢字や難しい読みが多いのも事実です。
特に難しいのは郡の名前です。 富山県婦負(ねい)郡、石川県鳳至(ふげし)郡、石川県羽咋(はくい)郡/市という名前は、泉麻人ではないけれど、その地方に住んでいなければ読めない名前です。彼ならこういうでしょう。
「 私が鳳至郡をいう名前を読めるのは、博識だからではなく、何を隠そう、北陸地方に住んでいたからである 」
それが、ちっとも自慢らしく聞こえないのは、・・多分麻布ではなく、北陸地方だからでしょう。
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確かに難しい郡の名前を改める必要がある・・という主張には説得力があります。そして、ある県に居住したかどうかを確認するために、その県の郡の名前が読めるかをテストする・・という方法があるかも知れません。
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オヒョウが、製鉄所にいた頃、兵庫県宍粟(しそう)郡(=今は宍粟市)出身の同僚がいて、この地名が読める人は兵庫県人だけだね・・と言っていました。オヒョウが「読めるぞ」と言うと「なぜだ?」の質問です。「兵庫県に暮らした事はないが、兵庫県多可郡には親戚もいるし、知っている」と答えると、「タカ郡? ああ、オヒョウの成績表の事か・・」と切り返されました。難しい地名が読めるぞ・・・と自慢するのを、不愉快に思うのは、オヒョウだけではなさそうです。 泉麻人のエッセイにカチンとくる人は他にもいるかも知れません。
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ところで、歴史ある地名が変わる・・という点では、ヨーロッパも中国も同じで、考察すると面白い話が出てきます。その辺りの話は、また稿を改めて、申し述べます。
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