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【 アミンとCO2 】 [鉄鋼]

【 アミンとCO2 】 

CO2削減は、ひとつのブームです。過去、環境・化学の世界では、魔女狩りの様に、特定化学物質の追放が叫ばれた事があります。これまで、ダイオキシン、フロンガス、PCBなどがやり玉に挙がり、中には焼き魚の焦げた部分が問題視された事もあります。 

そして製鉄所もそれに振り回されてきました。例えば、フロンガスが禁止されれば、スラブ顕熱を回収する省エネ設備である、フロンタービンを廃止せざるをえませんでした。ダイオキシン発生防止でも、多くの取り組みがなされました。

そして今回はCO2です。 鉄鋼各社は、CO2の回収にアミンを使う方法を提案し実証プラントを建設する予定です。

http://www.business-i.jp/news/ind-page/news/200908210019a.nwc 

アミンの中には、温度によってCO2を吸収したり、排出する性質があり、それを応用して燃焼排ガス中のCO2を回収するものです。

でもこれは、ちょっと考えると不思議な話です。 温度によって、CO2を吸放出する物質はたくさんあり、なぜアミンなのか?と思うからです。

製鉄屋が第一番に思いつくのは生石灰です。CaO+CO2 ⇄ CaCO3 という反応は、ごく一般的であり、製鉄所には石灰工場があるからです。

だから、新しい設備投資は最小限であり、生石灰を用いたCO2の回収は、すぐに実行できます。 しかし、このプロセスを実現するには、石灰を相当高温にする必要があり、化石燃料を燃やす事になります。CO2を回収するのに新たにCO2を発生させても仕方ありません。 だから、アミン液なのでしょう。

アミンは多くの化学物質の総称ですが、有機物質ですから、それほど高温にはなりません。小さな温度差で或いは低い温度域でCO2の吸放出がコントロールできれば確かに合理的です。

・・でもオヒョウはちょっと心配です。

製鉄所に有機化学はあまり馴染まない・・・。

・・・・オヒョウは関係ないけれど、別の化学実験の事を思い出しました。もう10年ほど前の事です。当時世の中は、ダイオキシンほど悪いものはない・・とばかりにダイオキシン規制が大騒ぎされていました。ダイオキシンは化石燃料の燃焼ガスを急速冷却し、一気に低温にもっていけば、殆ど発生しません。中間温度域に滞在している時間にダイオキシンが発生するのです。 しかし急速冷却する場合でも少しは発生します。

その削減を研究していたのは製鉄所の焼結工場の技師だったK参事です。

沖縄出身で、温厚篤実、ひたむきに開発に取り組んでいたKさんは、活性コークスにダイオキシンを吸着させる方法を提案していました。

ちょうど活性炭が臭気粒子を吸着する様に、表面積が大きい活性コークスに吸着させる訳です。コークスの扱いについてはお手の物です。しかし、吸着させるだけではダイオキシンはなくなりません。

そこでKさんは、アンモニアを噴霧してダイオキシンを分解する事を考え、オヒョウのセクションに開発予算を申請してきました。

「 これは面白い技術だ。成功すれば画期的だ 」とオヒョウは大賛成し、予算を満額回答する一方で一抹の不安がありました。

「 ダイオキシンよりも、アンモニアの方が化学的に不安定だ。  

  果たして、アンモニアでダイオキシンが効率的に分解できるのか? 」

 その後、暫くしてKさんが現れ、頭を掻きながら、現れました。

「 いやぁ、オヒョウさん。実験は失敗しました。 

   確かにダイオキシンは無くなったのですがね。 

   でも全体としては失敗だったのです 」 

「 それはどういう事です? 」 

「 結果として、ダイオキシンよりも更に猛毒のシアンが発生してしまったのです。 

    アンモニアが分解して、窒素、炭素、水素が結合して青酸ガスが

  できたのですが、 これでは何をしているのか分かりません。

  残念ですが、研究はギブアップです 」

 「 ふーむ。シアンをどうするかが思案のしどころですね 」 オヒョウのくだらないダジャレには反応せず、Kさんはまじめな顔でかぶりをふりましたが、あきらめきれないのはむしろオヒョウです。

シアンはダイオキシンよりも不安定で、分解し易いですし、吸収除去する事もできます。 製鉄所内の限られた空間で発生する分にはシアンの処理・管理は可能だとオヒョウは主張しました。

しかし、Kさんは「 いや、もともと有害化学物質が発生するという事実自体が 問題なのであって、人体に害があるかという問題ではありません。 ダイオキシンも管理できればいいというのではなく、発生するという 事実自体が、人々の拒否反応を招くのです。 従ってシアンが発生すれば、それだけでこの技術は否定されます 」

答えます。彼はきっぱりと言い切りました。 オヒョウはなるほど・・・と思いましたが、そこで別の事を考えました。

どうして、研究は失敗したのだろうか?製鉄所の技術者達は、高温での酸化・還元などを扱う無機化学には土地勘があるけれど、有機化学には弱いのだろうか? 

アンモニアは、有機物質ではないけれど、ダイオキシンを分解する反応は有機化学です。

製鉄会社の技術者にはちょっと慣れない世界だったのかも知れません。 今度のアミン液によるCO2吸収実験プラントは君津製鉄所に設置されます。果たしてうまくいくだろうか・・・? 

それに加えて、回収した後のCO2を最終的にどういう形で、大気の系外に固定するかが決まっていません。 鉄鋼各社の取り組みには、どうしても中途半端な印象が拭い切れませんが、その背景には、地球温暖化の理論や、政府のCO2削減目標の設定に対する、鉄鋼業界の拭いがたい不信感があるように、オヒョウは考えます。 それについては、次号で管見を述べます。


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